鈴木勝利 コラム「語りつぐもの」

鈴木勝利 コラム「語りつぐもの」

東京オリンピック・パラリンピック雑感4の2~「ヘイトスピーチ」の中で国際社会と向き合えるか~ vol.76
2013/11/15
 経済への影響の次に課題になるのが、日本が国際社会と正面から向き合う中での課題だ。

 もともとオリンピックは国際政治と無関係には存在しない。ナチス・ヒトラーはベルリンオリンピックを国家の権威高揚に利用し、独裁体制をさらに固めることに成功したのはだれもが知っている(低下傾向にあった安倍政権も東京オリンピックの招致が決まると支持率が上昇したことでも証明されている)。

 また、1980年のモスクワ五輪では、前年のソ連のアフガン侵攻を非難してアメリカがボイコットを主導し、日本をはじめ、西ドイツや韓国、さらにイラン、パキスタンなど50カ国近い国がモスクワ五輪をボイコットした。しかし、ヨーロッパのイギリス、フランス、イタリア、オーストラリア、オランダ、ベルギー、ポルトガル、スペインなどは参加したものの、フランス、イタリア、オランダなど7カ国は競技には参加したが、開会式の入場行進には参加しなかった。

 アメリカから要請を受けた日本政府は、4月に日本オリンピック委員会(JOC)に対しボイコットするよう伝えたが、JOCは大会参加を目指した。多くの選手はJOC本部で大会への参加を訴えた。JOCは5月24日に総会を開催、総会の投票でボイコット賛成29票、反対13票で最終的にボイコットを決めた。この総会の時、政府から各種競技団体の代表者に「参加に投票した場合には予算を配分しない」などの圧力がかけら、加えて現職の内閣官房長官も出席している総会で、挙手採決で決められたという。

 政治的判断は報復を常とする。4年後の1984年、アメリカロサンゼルス五輪には、アメリカのグレナダ侵攻を理由に多くの東側共産圏諸国がボイコットする報復が行われた(イランは両方をボイコットした)。

 1976年のモントリオールオリンピック(カナダ)では、南アフリカの人種差別政策(アパルトヘイト)に抗議して、アフリカ諸国の多くがボイコットしている。大規模なボイコットに終止符がうたれたのは、1988年のソウルオリンピック(韓国)である。  

 このように、「スポーツと政治は無関係」というオリンピック精神の建前はすでに歴史が否定している。そして日本もモスクワ五輪に際して、ボイコットという政治的判断をした当事者だったのである。

 さて、オリンピックと政治が連動する可能性が否定できないと、一番心配になるのが、一部に囁かれている憲法改正や集団的自衛権の憲法解釈の変更などで、日本がかつての過ちを繰り返していると諸外国から誤解された場合のことである。そのことでアジア諸国全体に不参加の動きが生まれることが懸念されている。そうなると、領土問題で険悪化している中国や韓国が追随するのは必然で、その懸念があるからこそ、日本は最善の配慮をすることで、こうした事態が杞憂に終わることを祈るしかない。

 なんでこんな懸念を持つのかといえば、日本人の多くは、日本を「お・も・て・な・し」の国だと思っているが、右傾化といわれる安倍政権の最近の政策に符合するように、民族蔑視の「ヘイトスピーチ(憎悪表現)」が露骨になっているからである。日本は今、尖閣諸島をめぐる中国との領土問題、竹島をめぐる韓国との領土問題などに触発された偏狭なナショナリズムが横行し、ヘイトスピーチと呼ばれる他民族への憎悪表現行為、とくに韓国への憎悪が激しい。

 もちろん中国や韓国のいわれなき反日行動への反発もあるが、今の現実は、とても「お・も・て・な・し」どころではなく、日本人の優しさや心配りとは正反対の行為が横行している。

 「日本国内に住んでいる在日韓国・朝鮮人は、特別永住資格やさまざまな経済的便宜などの特権(在日特権)を不当に得ている」などと非難し、その撤廃を目標に街頭宣伝・デモ・集会等の活動を展開している「在日特権を許さない市民の会」(以下「在特会」と略称)という組織がある。この会はさらに、日本に住む韓国・朝鮮人以外の外国人に関する政策を始め、歴史認識問題、日本の核武装の是非など多種多様なテーマについて、自民党の安部政権や日本維新の会が主張する憲法改正など、保守的・右派的スローガンを掲げ、各地で気に入らない個人や団体への街頭宣伝・デモ・集会などを積極的に開いている。会員は「在特会」側によると自称1万3,000人としている。

 2013年になってこの「在特会」などのように、保守の過激派が主催する反韓デモにおいて、公然とヘイトスピーチを行うようになった。

 ヘイトスピーチというのは、ある個人や集団を、人種(民族)・国籍・性といった先天的な属性で分類し、それを理由に、差別・排除の意図をもって、貶(おとし)めたり、暴力や誹謗中傷、差別的行為を煽動したりするような言動のことを指すのだが、その目的は特定の相手への反感、敵意を集積することにあるとされる。

 具体的には、朝鮮人を「殺せ」「ガス室にたたき込め」「出て行け」といった罵倒や挑発の言葉を繰り返し、差別感情をあおり立て、道行く一般の国民にとっても聞くに堪えない程の行為を行っている。言われた側は言葉による心理的被害を受け、それは犯罪被害、虐待などのトラウマ被害者の心理と一部共通する。このように「憎悪・無力感・怒り・不信を引き起こし、『相互に理解を深めようとする努力』を無効にすること」が、ヘイトスピーチの効果といわれる。日本では今まで、差別(人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向に対する差別・人権侵害)的言論を規制しようと、人権擁護法案などでいろいろと検討されてきたが、「言論の自由を侵害する危険性がある」など、法案の合憲性、内容や運用法、制度の必要性などをめぐって異論が出てまとまっていない。

 2013年5月7日と9日にかけて、参院でもヘイトスピーチが取り上げられ、これらのデモについて安倍晋三首相もさすがに、憲法改正など同じ主張をする人々(同じ主張ゆえに、安倍首相の言動が「ヘイトスピーチ」を許す政治的土壌を作っていると非難されているのだが)とはいえ、「一部の国、民族を排除する言動があるのは極めて残念なことだ。日本人は和を重んじ、排他的な国民ではなかったはず。どんなときも礼儀正しく、寛容で謙虚でなければならないと考えるのが日本人だ」と答えざるを得なかった。

 さらに谷垣法務大臣も5月10日の記者会見で、ヘイトスピーチについて「人々に不安感や嫌悪感を与えるというだけでなく、差別意識を生じさせることにもつながりかねない。甚だ残念だ。差別のない社会の実現に向け、一層積極的に取り組んでいきたい」と述べた。こういった批判の声に対し、在特会側は、自らの行為の正しさを強調し、「1万3,000人に増えた会員数がその成果だ」と反論している。

 領土問題で国家間の対立が激しくなっている中で、中国や韓国の国内でも過激な日本非難を繰り返す一部の国民がいるから、「どっちもどっち」という見方もできるが、オリンピック開催の前後になってもなお、日本でこのような言動が続いていれば、日本の国際的評価は「お・も・て・な・し」どころかガタ落ちになることは間違いない。

 そんな中、2013年10月7日京都地裁は「在特会」の「ヘイトスピーチ」を「人種差別」と断じ有罪としたが、在特会側は10月10日に高裁へ控訴することを明らかにしている。

 ※参考資料 ヘイトスピーチに賠償命令 京都地裁、初の判決(2013年10月7日共同)

 朝鮮学校の周辺で街宣活動し、ヘイトスピーチ(憎悪表現)と呼ばれる差別的な発言を繰り返して授業を妨害したとして、学校法人京都朝鮮学園が「在日特権を許さない市民の会」(在特会)などを訴えた訴訟の判決で、京都地裁(橋詰均裁判長)は7日、学校の半径200メートルの街宣禁止と約1,200万円の賠償を命じた。

 判決で橋詰裁判長は、街頭宣伝や、一連の行動を動画で撮影しインターネットで公開した行為について「(日本も批准する)人種差別撤廃条約で禁止した人種差別に当たり、違法だ」と指摘。「示威活動によって児童らを怖がらせ、通常の授業を困難にし、平穏な教育事業をする環境を損ない、名誉を棄損した」として、不法行為に当たると判断した。

 原告弁護団によると、特定の人種や民族への差別や憎しみをあおり立てる「ヘイトスピーチ」をめぐる損害賠償や差し止め訴訟の判決は初めて。原告側は一連の発言を「ヘイトスピーチ」と主張していたが、判決は触れなかった。

 判決などによると、在特会の元メンバーら8人は2009年12月~2010年3月、3回にわたり京都朝鮮第一初級学校(京都市南区)近くで「朝鮮学校を日本からたたき出せ」「スパイの子ども」などと拡声器で連呼した。原告側は、「マイノリティー(少数派)が自らの属する民族の言葉で教育を受ける『民族教育権』を侵害された」と主張。第一初級学校を統廃合した京都朝鮮初級学校(同市伏見地区)周辺での街頭宣伝を禁止、あわせて3,000万円の損害賠償を求めていた。

 在特会は在日韓国・朝鮮人の排斥を掲げる団体で、ホームページによると本部は東京にあり、会員数は約1万3,800人。訴訟では「以前に学校が市管理の公園に無許可で朝礼台などを設置したことへの反対活動であり、『表現の自由』として許される」と主張していた。

 街頭宣伝をめぐっては、在特会の元メンバーら8人のうち4人が威力業務妨害罪などで有罪が確定。元校長も公園を無許可で占用したとして罰金10万円が確定している。

 (「東京オリンピック・パラリンピック雑感」4の2了)