鈴木勝利 コラム「語りつぐもの」

鈴木勝利 コラム「語りつぐもの」

食料自給率のカラクリ~年間900万トンを捨てている日本~ vol.80
2014/03/15
 毎日のようにTPP交渉をめぐるニュースが日本中を駆けめぐっているが、賛成、反対を問わずいずれも一方的な断定によって議論の対立が続く。
中でも食の中心である農業については、聖域と称して自由貿易の枠外にすべきだという意見も多い。日本の食糧事情は自給率が低く農業の保護が欠かせないという。
「食料の安全保障」という言葉すらある。自国民の食糧をまかなえないようだと、他国との関係がこじれれば国民が「飢えてしまう」から、そうした場合でも「国内生産でまかなえなければならない」とする論法である。
「外国から食料が輸入されなければ国民が飢えて死んでしまう」と言われると、それもそうだがと思ってみたりするが、その前に「外国に比べて日本は本当に国内の自給率が低いのだろうか」を考えてみたくなる。

 政府(あるいは農協)が発表する食料自給率はどのように計算されているのだろうか。資料によれば下記の計算によるとされている。

 第一の疑問は、自給率がカロリーで計算されていることである。日本を除く海外の各国はカロリーベースの自給率は計算していない。
日本が発表している各国のカロリー自給率は、日本の農水省が独自(あるいは勝手)に計算したものであり、外国における計算の根拠について、雑誌「農業経営者」の担当者が農水省に問い合わせしたところ、「食糧安全保障の機密上出せない」との答えが返ってくるだけという(ウィキペディア参照)。

 これでは明らかに何らかの意図を持った集計と思われてしまう。外国がカロリーベースで計算しないのは、次のような理由から事実を客観的にあらわさないからともいわれる。
すなわち、日本の食料自給率(カロリーベース)は

                分子:国産で賄われた全カロリーの合計
 現在の食糧自給率= ────────────────────────
                分母:国民に供給されている食糧の全カロリーの合計

 で計算される。この計算では、分母を大きく、分子を小さくすると、自給率を低く見せることができる。

 国民一人一日あたりの供給(消費)カロリーとは、輸入分を含めた総カロリーを日本の人口で除したものであるから、分母を大きく見せる第一の方法は、
「供給されている食糧の全カロリー」には小売店の店頭に並びながら売れ残ったもの、家庭で食べ残したもののように、廃棄した食べものまで含まれことになるから、今の日本のように廃棄する食糧が多ければ多いほど、自給率は低くなる。
近年、廃棄されている食材は、年間900万トンに達しているという。 

 本来なら日本国民の食生活を、食べ残しをしないように、あるいは極力無駄にしないように奨励することだと思うのだが、国民がもっと食べ残し、あるいは店頭で売れ残りを出して廃棄させれば自給率が低くなる本末転倒の計算方式をとっているので、食生活の改善に力を注ごうとはしない。

 今、廃棄食糧をカロリーで表示すると、2005年は2573キロカロリーになり、日本人が一日に摂取する平均カロリー1805キロカロリーに対し、768キロカロリー分が食べられずに捨てられている驚くべき事実がある。
さらに、国民に供給されている食糧の全カロリーの中には輸入分が含まれるので、輸入を大きくすればするほど日本の自給率は下がっていってしまう。だから見かけ上の自給率を上げるには、輸入を減らせばいい理屈になるが、輸入分を減らすと、輸入を減らした食品が一部不足する事態になってしまうからそれもできない。

 自給率を低くさせる第二の方法は、分子を小さくして自給率を低く見せる方法である。

 例えば、畜産物については国産であっても、エサを自給している部分しか算入していない。輸入飼料を使うと国産扱いにならないのだ。多くの畜産物の国内自給率が非常に低いというのにはこうした理由がある。
ところが、畜産物には輸入飼料を使うと国産にならない計算をしていながら、穀物や野菜、果物の肥料が輸入であっても国産として評価している。明らかに矛盾しているのだが、どうもこれは、穀物・野菜・果実まで輸入した肥料を使っているからと、畜産物と同様に国産から除いてしまうと、あまりにも分子が小さくなり、自給率が極端に低くなってしまう。そうなるとカラクリが分かってしまう可能性が高くなるからと指摘する人もいる。

 加えて困ったことに、農家の経営を効率化させるために、稲作から果実や野菜などに転作した場合、それらは米よりカロリーは低くなるから分子は小さくなってしまう。
転作で農家の収入は増えてもカロリー自給率は低くなるというおかしな現象が生まれてしまう。

 もし仮に、分母に「日本人が一日に必要とする摂取カロリー(1805キロカロリー)」をおき、分子に「国産品による一人当たりの全供給カロリー(1013キ
ロカロリー)」をおいて自給率を計算すれば、日本人が必要とする摂取カロリーに対する自給率は56%に上がるのである。
だから、日本が国際的に本当に低いのか否かは疑問という指摘がされるのである。

               国産で賄われた一人当りの全カロリー(1013キロカロリー)
 本来の自給率とは=──────────────────────────
               国民一人当りが健康を維持する上で必要なカロリー
                           (1805キロカロリー)

 日本の農業は、生産物の移動、飼料、生育環境のために原油が絶対的に必要であり、摂取する食物だけを評価の対象とするカロリーベースの自給率では事実を表さない。
「日本のエネルギーの自給率は4%しかなく、96%は輸入に頼っているから、今の計算方式による自給率を向上させたにしても、もし原油が国際紛争の手段として禁輸され、輸入できなくなれば農業は成り立たなくなってしまう」(経済学者の野口悠紀雄氏)。

 2013年8月8日、農林水産省は、2012年度の自給率39%であったと発表している。高度成長時代からここまで、日本は膨大な貿易黒字を記録してきた。
ところが原発の停止に伴い火力発電にシフトしたことによって、燃料に使う原油や天然ガスなどの輸入額はウナギ登りに増加の一途をたどっている。
買う量が多くなるから価格も上がっていく。単価も上がり、購入量も増えることで、ついに貿易収支は赤字に転落、国内に蓄積されてきた富は、産油国をはじめとした諸外国に大量に流れ出しているのである。

 矛盾をはらんだ計算による自給率をもとに「日本の農業を守れ」という大合唱によって、国際的にも必要不可欠と言われるTPP交渉が不調に終われば、貿易立国日本の将来には暗雲が垂れこめてしまう。国際競争の中で日本の農業をどう生かしていくのか、それこそが農業に携わる人、政治家、農協など、関係した人々の叡智が必要な時代を迎えているのである。