鈴木勝利 コラム「語りつぐもの」

鈴木勝利 コラム「語りつぐもの」

しっかりせよ労働組合~お上(かみ)の介入を招く年休取得・賃上げ~ vol.94
2015/02/15
「語り継ぐもの」(94)              2015年2月10日


 歴史をひもとくまでもなく、働く人々と法律は切っても切れない関係にある。古くはこの地球上に資本主義社会が生まれた1600年代から、労働者と使用者の利害は対立することが多かった。使用者は事業経営を通じて利益の最大化を目指すから、労働者を安い賃金で長い労働時間を働かせようとする。労働者は人間である以上、生活できる賃金を求めるのは当然のことで、同時に「人間らしさ」を求める。
そして歴史が教えてくれるのは、こうした労使の利害対立が、人々の意識の近代化、民主主義社会の発展に応じて、徐々に変化することによって近代社会へと変貌を遂げていったことである。

 経営者も近代化を遂げ労働者を人間として考えることによって、労務管理や労働条件も変化し続けてきた。にもかかわらず、利益の最大化を目指す呪縛から、労働者を単なる生産要素の一つとして、機械的に扱う経営者も少数ではあるが後を絶たない。

 1700年代の産業革命を機に、労働者を人として尊重しない経営の在り方には、労働組合は交渉を通じて率先して改善させるとともに、世論も法律をもって規制する道を選択してきた。職能別や産業別組織が中心の欧米に対し、日本の労働組合は、縦型である日本的労働市場の形態や戦後の組合結成の奨励を通じて、企業別に組織されてきた。

 両者の組織形態の違いから、欧米の労組は、社会的制度の確立や政治活動に取り組むことが多く(イギリスでは労働組合が今の労働党をつくったほどである)、一方、日本の労働組合は、企業の枠内で労働条件を中心に活動を進めてきた。

 そうした背景を持つ日本では、社会的な制度に対しては、組織されている労働組合がそれぞれの企業内の交渉で汗を流して制度を確立しても、80%に達する組合のない多数の労働者はその対象にならない欠点を持ってきた。そこで、企業ごとに制度化された条件を、法律によって未組織の労働者にも波及させてきた。だから企業別の労働組合が労使交渉で実現できなければ法制化が図られない傾向を持つ。

 ここに、日本の労働組合は、「まず労働組合が制度を実現し、その制度を法制化することによって、未組織労働者にも制度を波及させる」という歴史的使命を確立してきたのである。これは日本の労働組合に与えられた永遠の使命なのである。
ところで、2015年1月26日に召集された通常国会に「労働基準法改正案」が上程された。一つは、ホワイトカラー・エグゼブション導入の見返りに年5日の年休取得を義務付けること。二つに、2013年に48.8%であった有給休暇の取得率を、2020年には70%に引き上げたいという政策が盛り込まれている。

 思えば労働組合は、これまでも年休の取得率を高めるために、さまざまな努力を重ねてきた。しかし、その努力にもかかわらず取得率は低いまま推移している。

 休暇取得が進まない理由として、2011年調査(独立行政法人=労働政策研究・研修機構)によれば、「休むと職場の他の人に迷惑になる」(60.2%)、「仕事量が多く休む余裕がない」(52.7%)があげられている。この理由はどこの事業場でも同じ傾向とみられ、組合役員はお手上げというところである。

 具体的な取得状況をみてみると、平成25年(又は平成24会計年度)1年間に企業が付与した年次有給休暇日数(繰越日数は除く)は、労働者1人平均18.5日(前年18.3日)、そのうち労働者が取得した日数は9.0日(同8.6日)で、取得率は48.8%(同47.1%)となっている。

 取得率を業種別に見ると、「宿泊・飲食サービス業」、「卸売業、小売業」、「建設業」、「生活関連サービス業、娯楽業」などのように取得率が4割に満たないものもみられる。
その中で際立って優秀なのは、自動車のホンダで100%を記録し、個別企業ランキングで3年連続で一位を占めている(東洋経済『CSR企業総覧』2014年3月19日)。

 同社は年度末に切り捨てが出ないように、有休残が必ず20日以下になるよう計画的な取得に取り組んでおり、それが高取得率につながっていると分析されている。
2位はダイハツ工業。3位ケーヒン(98.0%)。4位テイ・エステック(95.8%)、5位トヨタ自動車(95.0%)と自動車関連企業が上位5社を独占している。自動車産業労使の努力は特筆され頭が下がる思いである。
以下、6位関西電力(94.5%)、7位ショーワ(94.2%)、8位ダイキン工業(93.0%)、9位中国電力(92.1%)、10位トヨタ車体(91.3%)と続く。

 旅行会社のサイト(エクスペディアジャパン)によれば、有給休暇の消化率について、24カ国を対象に調査したところ、日本人は6年連続で世界ワースト1位である。また、ワースト2位は韓国、アメリカは有休消化日数10日で有休取得率71%となっている(取得率1位は100%のフランス)。

 さらに、有休を1日も消化していない人の割合は、日本がもっとも多く、全体の17%だった。ちなみに、2位はアメリカの13%、3位はカナダの5%だった。
このように、日本人の有給休暇の消化率の悪さは国際的に見てダントツであり、また、1日も有給休暇を取得していない人が5人に1人くらいはいる計算になる。
ところで国際的に見てもこの不名誉な記録は、労働組合の力のなさを証明しているにかもしれない。企業が年休の未消化をもって利益をあげたとしても、従業員の犠牲の上に成し遂げたものであって、自らの経営手腕によるものではない。むしろ近代社会においては、あってはならない経営者像であり、同時に労働組合の力不足を証明するものである。

 その上に、今回の政府による指導方針は、組合に年休取得率向上を期待できないとみて指し示した方針と言え、これを恥辱と感じるリーダーも多いに違いない。
お金をじゃぶじゃぶにして、株さえ上げれば景気がよくなると錯覚させたアベノミクスも、その失敗が明らかになってしまった。最後の頼みの綱は、過去の夢を追うが如き「賃上げで消費の拡大を図る」しか道は残されていないとばかりに、経営者団体に対しては法人税の切り下げをほのめかして賃上げを迫る。
収入が増えることには誰も反対できない。賃上げを目指す春闘も、今やアベノミクスに欠かせない政策の一つとして利用されかかっている。「官製春闘」と揶揄される一方で、今度は年休取得も官製で進められようとしている。労使自治の掛け声も昔話になってしまうのだろうか。

 労働組合の社会的役割とは、日本を覆い始めた格差社会を改善し、政治の力に頼らない組合活動を推進していくことにあるはずである。労働組合は、年休取得を自らの力で成果を上げなければならないし、2015春闘ではとくに非正規社員問題にどう取り組むのかが問われている。