西尾 力の「BEST主義の組合活動のススメ」

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マネジメント思想に欠ける組織運営が危機を招
2017/01/05
■グローバル経済は10年周期で危機に

 「新年おめでとうございます」と述べたすぐ後で、こんなことを言うのはいかがなものかとは思うのですが、
私には心配な年になりました。
 それは、ここのところグローバル経済のバブル崩壊が、次のように10年周期で起こっているからです。
・1987年ブラックマンデー
・1997年アジア通貨危機
・2007年サブプライム危機
・2017年?
 念のために、労組リーダーの皆さんには、どこかの国での経済破綻や排外主義政治の登場をきっかけとして、
国際的な大不況が起こることを想定内にした組合活動を推し進めていくことをお勧めします。

■「縮む」日本の労働組合活動

 と同時に、昨年9月に発表された連合総研のシリーズ研究、21世紀の日本の労働組合活動研究Ⅳ
「労働組合の職場活動に関する研究委員会報告書」で指摘する課題への対処が求められている年でもあります。
 同報告書では、日本の労働組合運動は1990年代半ばから「縮み」の局面に入った、として次のような課題を指摘します。
 グローバル経済への適応を背景に、90年代以降、企業別組合は競争圧力の高まりと経営危機の中での事業再編や人員整理に直面。
生産性向上を軸とする労使協調を介し団体交渉権を維持する従来のパートナーシップ・モデルが大きく動揺する中で、
組合員の間では雇用維持や労働条件向上に関する企業別労働組合の機能への疑義が生じている。
 製造、流通、サービスを中心に、パート従業員など職場での未組織労働者が増加し、
正社員中心の組織形態をとる企業別労働組合の代表性も揺らいでいる。
 さらに同報告書は、労働組合活性化のためには運動の基盤である職場レベルでの活動が活性化しなければならない。
ところが、それを担う組合役員はたくさんの職場を担当して忙しく、職場委員はなり手がおらず、
押し付け合いで決まったりする職場もある。
 こうした状況では、職場の活性化など不可能で、組合活動はますます低調になってしまう。
このまま労働組合は衰退していくのだろうか、と課題を指摘しています。

■求められるマネジメント(組織運営)思想

 現場第一線の組合役員は能力もあり、組合活動にそれなりに心血を注いでいます。
なのに、どうして前述のような課題に直面することになってしまったのでしょうか。
それは、与えられた職務をしっかりと果たさなければ、という意識だけだからではないでしょうか。
 1年で大半の組合役員が交代してしまう労働界の現状に、マネジメント思想の欠如を問わざるを得ません。
 最大の原因は、労働界では、労働組合という組織をどのように運営(時代に変化適応)させていくか、
という組織マネジメントの研究がほとんどされてこなかったからです。
 投入力の強弱の変化はみられますが、活動は継続されるだけで、戦略的転換が図られることはほとんどありませんでした。
 どのような組織も、組織運営の仕方(マネジメント思想)によって、活動は豊かにも貧しくもなり、
活動に従事するメンバーも生き生きしたり、苦悩に満ちたりもします。
 併せて、労働組合の存在の正当性は何によって担保されるのかと言えば、組合活動を担う役員たちがそれぞれの強みを持って、
組織と世の中に貢献できるようにマネジメントされることによってである、と言えます。
 前述の報告書が指摘する日本の労働界の危機は、マネジメント思想に欠け、グローバル経済時代に適応できないでいる結果を述べているものです。

■知識労働者が資本の時代

 さらに、ポスト工業化社会=知識社会では、根本的変化が起こっています。
 「生産諸要素」である労働者にも大きな変化が生じているのです。
それをドラッカーは「知識労働者=テクノロジスト」の成長によって説明できる、としています。
 知識労働者はマルクスが定義した労働者とは大きく異なっています。
確かに、知識労働者は被雇用者ではありますが、同時に知識労働者は資本家でもあるのです。
 知識はいまや資本と労働を脇役へと押しのけ、急速に唯一の生産要素となりつつあります。
 ドラッカーは「知識労働者は社会においてもっとも急速に成長している単一の集団である。
彼らは社会の中で支配階級にはならないだろうが、すでに指導的階級になっている」とも述べています。
 今日の労働組合は、この知識労働者の組織として、かつ増加する非正規社員を包摂できる組織として、
ダイバーシティにマネジメントされなければなりません。
 しかし、この知識労働者層にも危機が迫っています。紙面の都合上それは来月述べることにします。
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