西尾 力の「BEST主義の組合活動のススメ」

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安倍政権の「働き方改革」の危険性(下)
2017/04/03
■副業・兼業を認めるように迫る安倍政権

 安倍政権の「働き方改革」では、副業・兼業がオープンイノベーションや
起業の手段としても有効であるとして、企業側にこれを認めるように迫っています。
 平成28年版「情報通信白書」でも、「IT・AIの導入により、
実現できる『場所と時間』にとらわれない働き方は、働く者の立場から見れば、
通勤による疲労から解放され、住む場所も首都圏に限らず、緑豊かな地方での暮らしも可能とすると期待される。
企業の側から見れば、従業員の生産性の向上や災害時・パンデミック発生時における
事業継続性の確保、人材流出の防止策として期待される。
そして、社会全体で見れば、子育てや介護による離職の抑制や、
高齢者や障害者の就職機会の拡大にも繋がると考えられる」と
テレワークの普及を推進しようとしています。
 総務省の「就業構造基本調査」で、自営業者を含む働き手のうち、
追加で仕事を持ちたいと望む人の数が、2007年346万人(5・2%)から
2012年368万人(5・7%)へと増えているとしても、2014年の「中小企業庁調査」によると、
副業・兼業を容認する企業は3・8%にとどまっているという日本の状況の中にあって、
過去、ここまで踏み込んだ発言をした首相は一人もいません。
副業・兼業を認めるように迫る、安倍政権の意図・ねらいはどこにあるのでしょうか?

■時間と場所にとらわれない働き方の登場

 それは、情報技術(IT)や人工知能(AI)の急速な発展によって
時間と場所にとらわれない働き方が可能となるからでしょう。
 これまでの仕事は、全員が同じ時間・場所に一堂に会することが不可欠でしたが、
IT・AIの発展は、このような場所と時間の制約を取り払ってしまいます。
 今でもテレワークに代表されるように、会社に出社しなくても、在宅でできる業務が増えています。
そればかりか、これまでは出社するという物理的制約から不可能でしたが、
IT・AIの発展は、同時に2つの会社で働くことも可能にします。
 複数の企業で働くことを認めるということは、どこかの企業に雇われて働くのではなく、
もっと多様で自由な働き方、例えば請負のようなものや、
独立自営業者として働く形が増えることが想定されます。

■欧米で増加する個人請負労働者

 さらに、欧米で新たな働き方(個人が柔軟に働く場所や時間、
仕事の内容を選びやすくする)が急速に広がりつつあるので、
日本でもそれを普及させ、イノベーションを促す働き方をしていかないと
国際競争に太刀打ちできなくなるとの意図やねらいがあるからでしょう。
 労働政策研究・研修機構の調査部の山崎憲氏は、マッキンゼーの調査を取り上げ、
雇われずに働く個人請負労働者の定義を次のように述べています。
・高い自律性
・仕事や課題ごとの報酬支払い
・労働者と顧客との短期間の関係
そして、そのような働き方をする労働者の割合を、
アメリカでは生産年齢人口の約27%(5400 ~6800万人)、
スペインは約31%(700~1200万人)、フランスは約30%(900~2100万人)、
スウェーデンは約28%(100~200万人)、イギリスは約26%(600~1400万人)、
ドイツは約25%(700~1300万人)と伝えています。
 個人請負労働者はアメリカおよびEU15か国の生産年齢人口の約20~30%おり、
合計すると最大で1億6200万人に達すると述べています。
 さらに、個人請負労働者の内訳は、「アメリカでは25歳以下の若年者が23%、
女性が51%、世帯年収2万5000ドル以下の者が21%、65歳以上の高齢者が8%。
スペインでは世帯年収の低いものが39%という特徴があり、
その他の国でも女性が45%~57%を占めており、
女性に多い働き方であることがわかる、とも述べています。

■労基法も適用外の高度プロフェッショナルへ

 「『非正規』という言葉を、この国から一掃したい。そう決意をしている」と述べた安倍首相の真意は、
正規・非正規社員から個人請負労働者へと移管させていく、雇用の流動化である、と考えてもよいでしょう。
 個人請負労働者となれば、もはや、労働法で守られた労働者ではなくなり「労働基準法の対象とはなりません」とも主張でき、
高度プロフェッショナル制度が自動完成します。
 そればかりか、労働法下での雇用契約でなくなれば、労働組合の出番はなくなり、
民法下での雇用契約となるというメリット(契約解除の自由)までもが適用されるからでしょう。
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