西尾 力の「BEST主義の組合活動のススメ」

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どうする 労組の「働き方改革」(中)
2017/09/01
■長時間労働が一番の課題

 労働組合にとって「働き方改革」で一番の問題は「長時間労働」です。
過労死や過労自殺の問題が、社会的にも大きな問題として取り上げられています。
 「働き方改革実現会議」の第10回会議(2017年3月28日)で、「働き方改革実行計画」が策定され、
残業の上限規制として「休日労働を含んで単月は100時間を基準値とする」と定められました。
 その際、「月100時間未満」を強く主張していた神津連合会長は、合意文書へのサインを最後の抵抗として拒んだという、
いわくつきの文言ですが、残業時間の上限が日本では初めて作られた、ということでは高く評価されるものでもあります。
 このことはある意味、日本の労働運動の特徴は、労働協約の一項目である賃上げにのみ熱心で、
労働運動の集大成である労働協約締結全般に重きを置くことはなく、そのため労働時間問題についての取り組みに
力が入らなかったことを示すものでもあります。

■「仕事に重点型」の働き方

 欧米と比較して、日本はどうして長時間労働になるのかについて、佐藤博樹氏は「欧米企業の雇用システムは、
限定雇用で職務範囲が明確なため、仕事が終われば帰宅できるなど残業が少なく……」
「(限定雇用といえども)担当する業務が管理職による仕事の割り振りなどによって柔軟に決まるにもかかわらず、
所定労働時間内で仕事を終えて帰宅する従業員が多いのは、仕事以外の生活を重視する価値観や他人の仕事には
干渉しないとの考え方によるからかもしれない」(1)と述べています。
 確かにこの点について、日本人は仕事と私生活のバランスを見たとき、仕事にウエートが高いようです。
 独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査(2)によれば、現状は「仕事に重点型」47.6%、
「バランス型」37・5%、「生活に重点型」8.5%となっています。
 しかし、理想としては「仕事に重点型」13.9%、「バランス型」59.8%、「生活に重点型」17.2%となっています。
 さらにJILPTの企業調査でも、年間総実労働時間を今後は「短縮していく」とする企業が半数弱の45.7%あり、
短縮の具体的な方法として(複数回答)「所定外労働時間の短縮」が79・7%、次に「年次有給休暇の取得率の引き上げ」
47・2%と回答していますので、今日の政労使一体の「働き方改革」大キャンペーンによって、
日本人の労働観の転換が図られていくことでしょう。

■上司と部下のすべきこと

 しかし、ムードやブームだけで、簡単にこの問題の解決とはならないでしょう。
この問題の解決策に知見を示してくれるのが法政大学経営大学院の藤村博之教授(3)です。
 藤村氏は、特定の人が長時間労働になっている原因を「上司の側の要因」と「部下の側の要因」と
「顧客との関係要因」として、解決策を探ることを求めています。
 「上司の側の要因」では、部下に対して「求められる仕事の精度」を曖昧なまま発注するので、
部下に過剰の労働を強いてしまうことをあげ、管理職に「仕事量を適正に保つために上司との交渉」と
「やめる仕事を判断すること」を求めています。
 「部下の側の要因」として、その仕事で求められていることを質問しないことが問題である、としています。
すなわち、仕事のレベルや量を確認しないので過剰な労働となることをあげ、
「自分の有能さを上司に認めてもらいたいので、『あのデータも必要ではないか』『これもいるかもしれない』と考えて、
大量の資料を作成する」「100の出来映えを求められているのに120の結果を出そうとする」働く側の意識の問題を指摘します。
 さらに働く側に労働時間短縮のために、「横の連携を密にすることで、ムダな仕事を防げたり、
他の人が作成した資料を使わせてもらったりできる。職場の構成員がどんな仕事に取り組んでいるのかを常に共有すること」を求めています。
 「顧客との関係要因」では、無理な注文に対して断る勇気と、逆に発注者としての自分もそのような行為をしていることを顧みて、
お互いに無理な注文をしない心遣いを求めています。

■3つのステップを踏んでいく
 以上の3つの提言・調査から、労働組合としての「働き方改革」の取り組み方が見えてきます。
 次の3つのステップを踏んだ労組としての取り組みが求められます。第1ステップとして「個人意識の改革」、
第2ステップとして「個人行動の改革」、第3ステップとして「集団行動の改革」です。内容は紙面の都合上来月号にて紹介します。
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