西尾 力の「BEST主義の組合活動のススメ」

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労使双方に「見識」が問われる2018春闘
2018/03/01
多くの人が、今日の新自由主義(市場原理主義)の原点と思っているアダム・スミスが、労働者の団結権(労働への規制力)を認めていたと知る人は少ないでしょう。
アダム・スミスは『国富論』で次のように述べています。

「【賃銀は親方と職人のあいだの契約に依存し、職人はそのためにしばしば団結するが、親方の隠然たる団結の方がはるかに有力である】
労働の普通の賃銀は、どのようなところでも、その関係両当事者のあいだで通常結ばれる契約の如何による。職人たちはできるかぎり多くを得たいと望み、
親方はできるだけ少なく与えようとする。前者は労働の賃銀を引き上げるために団結し、後者はそれを引き下げるために団結する傾向がある。
けれども、通常の場合に、両当事者のうちどちらが、争議でかならず勝って相手を強制して自分の条件に服させるかということを予見するのは難しいことではない。
親方たちは、その数が少ないからずっと容易に団結できるし、それに法律はその団結を公認し、少なくとも禁止していない。ところが、職人たちの団結のほうは禁止しているのである。
わが国には、労働の価格を引き下げるための団結を禁止する議会の法令はぜんぜんないが、それを引き上げるための団結を禁止する法令は数多くある。
すべてのこうした争議にさいして、親方たちはずっと長くもちこたえることができる。地主、農業者、親方製造業者、商人は、たとえ職人を一人も雇用しなくても、
既得の資本(ストック)によって1年や2年は生活できるのが普通である。ところが多くの職人は、仕事がなければ1週間とは生きてゆけないだろうし、
1ヶ月暮らせるものはごく少数で、1ヶ年となると、まずまったくとないといってよい。大河内一男監訳(1976)『アダム・スミス国富論Ⅰ』第8章「労働の賃銀について」中央公論社P112~114)
(職人たちは)「……自分たちの労働の価格を引き上げるために自発的に団結することがある。職人たちがふつう主張するのは、
あるときは食料品が高価であるとか、あるときは親方たちが職人たちの仕事によって儲ける利潤が大きすぎるとか、などということである。
ところが、職人たちの団結は、それが攻撃的だろうと防衛的であろうと、つねに頻繁に人々の耳に入りやすい。
……こうした場合には、親方たちも、相手側に対して同じように騒ぎ立てるのであって、官憲の援助を声高くもとめ、また使用人、労働者、職人の団結を厳しくとりしまるために制定されている法律を厳格に適用するように、
声高く求めてやまないのである。したがって、職人たちがこのような騒然とした団結の暴力からなにかの利益を引き出すことは、ごくまれである。
このような団結は、一つには官憲の干渉のために、一つには親方たちががんとして方針を曲げないために、
また一つには、大多数の職人が目前の生活に追われて余儀なく屈服してしまうことのために、指導者たちの処罰または破滅のほかにはなに一つ得ることなしに終わるのが普通である」(P115)


「経営(マネジメント)の神様」とも知られているピーター・ドラッカーも『産業にたずさわる人の未来』の中で労働組合を支持して、次のように述べています。

「現代の政治上・社会上の組織にあっては、労働組合は役にも立つし、必要でもある。労働者には組織と保護がなければならない。
これは組合あってのことである。労働組織としての組合は現代産業の経営構造、大企業構造のつきものであって、これは必要なもの、ほとんど避けられないものである。
産業構造のいまあるような組織では、労働組合は労務管理のきわめて有効な手段でもある。強力でもあり公正でもあり、また独立している組合は労働者のためになるばかりでなく、経営層にとっても利点だと言えるほどである。
労働組合が有益なもの、また望ましいものだというのは、現代社会体制の病のうちのとりわけ目立つものをこれが牽制するからである。
労働組合は社会にある毒素の解毒剤、抗体である。しかしこれは建設的制度ではない。また建設的にあるように設計されたものではない。
現代社会の大企業経営層に対立して、均衡を作り出せればこそ、役に立とうし、意義も持てる」(岩根忠訳1972)『ドラッカー全集1(産業社会編)ⅠⅡ部産業にたずさわる人の未来―4章C「20世紀産業主義の現実」』ダイヤモンド社P300)


今日の日本では、アダム・スミスの時代と違って政府も「賃上げ」を強く支持し、そればかりか「経営者の見識が問われる」と経営者責任が問われる時代となっていますので、
労働組合側はなんの心配も遠慮もなく、労使交渉を頑張っていただければと思います。
しかし、ドラッカーが指摘する労働組合が社会に役立つ意義に思いをはせ、獲得した賃上げ原資を全従業員に等しく配分するだけでなく、
「底上げ・底支え、格差是正」となる配分にすること。また、そこに労働組合側の見識が問われていることを忘れないでください。
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