西尾 力の「BEST主義の組合活動のススメ」

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改正労働契約法の「5年ルール」が労使に問うこと
2018/04/01

改正労働契約法の「5年ルール」に基づく無期雇用転換を、みなさんの企業(労使)ではどのように対処されていく予定ですか。
すでに、事前に6カ月の空白期間を設けることで、通算で5年以上にしない策を実施して乗り越えるケースから、
人手不足の深刻さもあり対象者全員を無期雇用転換や正社員化していく予定のところまで、対応は各社各様のようです。
ファミリーレストランを展開するジョイフル(大分市)では、4月1日からパートタイムやアルバイトで働く約1万7千人を無期雇用に転換するそうです。
今年4月1日以降に入社するパートやアルバイトとの雇用契約は、全員を無期雇用で結ぶと報じられています。
アパレル大手の三陽商会も、7月から売り場の販売員ら契約社員の約1千人を無期雇用の正社員に切り替えると報道されています。

この問題に関連して労働組合に問われていることが三つあるように私には思えます。
一つ目の問いは、労働組合とは誰のためのものなのか、というものです。
労働組合はそもそも共助の組織ですから、組合員のメリットを追求するのが一番の組織目的になります。
このような経済合理的視点から考えると、雇用調整が必要なときに備えて、有期雇用労働者を自分たちの外延に準備していくことも、やむを得ないものとなります。
これまで整理解雇の4要素(1.人員削減の必要性、2.解雇回避の努力、3.被解雇者選定の相当性、4.解雇手続きの相当性)の中に、
非正規社員の雇い止めが事前にされていることなどが判断材料になっていたように、やむを得ない措置として考えられてきたものです。
いまだ有期雇用労働者を組合員化に踏み込めない労組が多数あるのは、この点の視座を持つからでしょう。

二つ目の問いは、改正労働契約法の「5年ルール」への対処策に限らず、今春闘で非正規社員の賃金・労働条件の改善にどのように取り組むのかという、組合活動のスタンスを問うものです。
この問いは、「働くことを軸とする安心社会の構築」をビジョンに掲げ、「底上げ・底支え、格差是正」を春闘のスローガンに掲げる労働界の一翼を担う労働組合として視野を広げ、
誰のための労働組合なのか、という労働組合の存在価値が問われるものです。
その対処策として例えば、郵政労組は今春闘で、正社員に支給されている扶養手当や住居手当、寒冷地手当、年末年始勤務手当など五つの手当を非正規社員にも支給するよう求めることにしました。
さらに、正社員だけにとれる夏期休暇、病気休暇も、非正規社員も同様にとれるように求めているそうです。これは、同一労働同一賃金を求めての取り組みでもあるようです。
TОTО UNIONでは、契約社員は2011年から組合員化しており、今春闘で初めて契約社員の賃上げを求めるように決めたとのことです。

三つ目の問いは、今日の労働組合に求められていることは、生み出された付加価値の分配機能だけではなく、付加価値の創出機能ではないか、というものです。
労働組合運動を分配機能として捉えたならば、改正労働契約法の「5年ルール」問題に対しては「法に基づいた運用をするように」と、労組として発言や要求はするものの、
最終的には経営の専管(権)事項として経営側に任せるケースになるでしょう。これで、労組としての社会的責任を担ったことになるのか、疑念が残ります。

この三つ目の問いは、言い換えると企業の長期の競争力をどのように確保するか、という問いになります。
長期の競争力には、設備投資や研究開発投資とともに、ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の強化が欠かせません。
これは、既存の組合員の雇用や賃金を長期的に考えた場合、5年の勤続によってせっかく熟練した労働者を雇い止めしてしまうことが企業力を高めることになるのか、という問いです。
雇い止めのたびに新規の労働者を採用して育てていくことにかかるコストや時間・労力などの無駄、コミュニケーション障害や期間従業員のモチベーションの低下などによる生産性の劣化などを考えると、
企業の競争力を弱めているようなものではないか、短期的にも企業経営へのデメリットの方が大きいのではないか、ということです。

小池和男は『企業統治改革の陥穽』(2018年、日本経済新聞出版社)の中で、次のように断言しています。
「労働のすべてを規格化しては、高賃金社会は国際競争に生き残れない。規格化された労働なら、機械化の差がカバーしない限り、賃金の低い国に高賃金国は勝てない」と。
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