西尾 力の「BEST主義の組合活動のススメ」

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働き方改革―労組は目標管理・人事考課制度の逆活用で対等性・交渉力の確立を
2018/05/01
 働き方改革が労使の大きなテーマになっている。

働き方改革実現会議が昨年3月に発表した「働き方改革実行計画(案)」では、取り組みの基本的考え方を次のように述べている。

「日本経済再生に向けて、最大のチャレンジは働き方改革である。『働き方』は『暮らし方』そのものであり、
働き方改革は、日本の企業文化、日本人のライフスタイル、日本の働くということに対する考え方そのものに手を付けていく改革である。多くの人が、
働き方改革を進めていくことは、人々のワーク・ライフ・バランスにとっても、生産性にとっても好ましいと認識しながら、これまでトータルな形で本格的改革に
着手することができてこなかった。その変革には、社会を変えるエネルギーが必要である」

ここには、働き方改革とは、日本人の長時間労働を改善し、ワーク・ライフ・バランスや、労働生産性も改善するための取り組みであることが明確に示されている。

企業経営の本音からみれば、長時間労働がなくなり、支払う残業代・その時間帯の光熱費の削減、さらには福利厚生費の低減にもなり、
なおかつ労働生産性も改善・向上するなら、働き方改革は一石二鳥どころか、一石乱獲とでもいうべきものであることは間違いない。

それは、働く側に向かって「だらだらと働いているんじゃない。もはや生活残業は許さない。所定労働時間内で今まで以上に密度の高い働き方をして、
労働生産性を高めなさい」と叫んでいるようなものではないか。

確かに、働く側にも長時間労働をせずに定時に仕事を終えるだけでなく、有休消化も高めて、ワーク・ライフ・バランスを確立したいというニーズは存在する。
さらに、男女間の均等処遇や、子育て支援策がより充実する面においては働き方改革を歓迎するものであることも事実である。
働く側からも、これらを進めていかなければならないものであろう。

しかし、働き方改革がこれらの働く側のニーズを満たすものであったとしても、労働生産性を高めることが前提であり、そのことを抜きに働き方改革を実現しても、
厳しい企業間競争の前に無意味なものとなってしまう。

このことを、職場のリアル観をもって述べるならば、次のようなことである。どんなに労使のトップダウンで働き方改革=労働時間の短縮、
ワーク・ライフ・バランスの実現の旗振りがされても、職場では業績管理が求められているのだから、業績向上が優先する。
職場の管理職が業績向上を優先するならば、今以上に効率的な働き方の追求が難しくなり、労働時間を短くして他の者より早く帰ったり年休を取得したりすることはできないだろう。

ましてや、業績評価の人事考課となっていれば、効率的な働き方が分からない者にとっては、評価を得るために残された道は長時間働くことで、
一生懸命頑張っていることを認めてもらうか、もはや評価(昇給・昇進)はあきらめて定時に帰るという、冷めた働き方に徹するしかない。

働き方改革に巣くう、この本質的問題を解決するには、職場での上司と部下との間で、どのように働き、何を評価するのか、
という個別の労使関係での新たな労働契約を取り結ぶことを抜きにありえない。

そのためには、業績管理の基本である仕事のPDCAサイクルを回すことに、部下(組合員)が積極的・主体的に参加し、生産的な仕事を設計・推進する以外にない。

そのためには、今ある目標管理・人事考課制度を活かして、効率的な働き方や評価の仕方について、上司と部下が本音で話し合い、
仕事の目標を共有し、その目標を実現させる、半期ないし1年間の仕事の進め方や方針を練り上げることが求められる。

しかし、どんな計画も順風満帆には進まないので、期中での想定外の障害発生や当初計画の不十分性を乗り越えていく面談を繰り返すこと。
期末には、そのプロセスと結果を上司と共に振り返り、次期以降の仕事の進め方を共有すること。その振り返りを能力育成にも結び付けていくこと。

このような目標管理・人事考課制度の運用によって、短期の視野の業績管理に陥ることを避け、長期的な働き方・生き方を確立していける上司と部下との関係性を構築させることこそ、
真の働き方改革ではないだろうか。

また、目標管理・人事考課制度の逆活用=個別の労使関係での対等性と交渉力の確立こそが、働き方改革で労働組合側に求められている取り組みであろう。
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