西尾 力の「BEST主義の組合活動のススメ」

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トヨタとシャープの春闘妥結額非公開が示す春闘の問題点(上)
2018/06/01
 
2018春闘の大手どころの妥結の仕方で、とても気にかかることが同時に2つ起こりました。
とても偶然とは思えないそれは、皆さんも報道等でご承知のことと思いますが自動車の「トヨタ」と電機の「シャープ」の妥結の仕方です。
前代未聞の妥結発表でした。
 
トヨタの賃上げ率は3.3%との発表ですが、肝心のベアは「前回の1300円を上回る」との説明だけで、詳細は明らかにしない、というものでした。
新聞報道によれば、その内訳には「社員の自己研鑽への補助金」や「期間従業員向けの家族手当」も含まれている、とのことです。
しかし、ベアの具体額を伝えられたのは労組執行部64人だけ。経営側との合意に基づき、6万8000人の組合員にも、上部団体にも具体額は公開しない方針というものです。
一方、電機大手は例年通り要求額も回答額も統一させていたのですが、シャープの回答は、「他社回答と並ぶ1500円の水準を満たす」「年収を平均3%上げる」というもので、
ベアの具体額は公表しないというものになりました。
シャープ以外の電機大手各社の「ベア1500円」回答は、「30歳、開発・設計職のモデル社員」の賃金水準改善額に相当するものとなっているのですが、シャープはそれを示していません。
 
このトヨタとシャープの労使合意は、「回答をそろえる意味がどこまであるのか。もう時代にそぐわない」ということを実質的に労使で確認したものだといえるでしょう。
より踏み込んだ言い方をするならば、今春闘でトヨタとシャープの労使が示したのは、これからは妥結額だけでなく、果たして要求額も統一する意味があるのか、というメッセージである、と私には見えます。
すると、今後の春闘に残された統一の項目は、春闘を行う時期だけ(形態だけは統一性を取り繕う)、ということになるのではないでしょうか。
 
実は、2018春闘でのトヨタとシャープの労使があぶり出したのは、今日の春闘結果として発表される賃上げ率や額に何の共通性があるのか、という問いかけではないでしょうか。
なぜなら、これまで春闘で発表されてきた賃上げ率や額というものは、正確にいうと、組合員一人に換算すると〇〇〇〇円となる賃上げ原資を確保したというものであって、
その金額がほぼ全員に等しく配分されるものではなかったのです。
だれが、どれだけの賃上げになるかは一人ひとりの人事考課による配分を見ない限り全くわかりません。
そればかりか、昨今の人的資源管理(役割等級)の流れは、ゾーン別昇給管理というものが主流になっていますので、春闘を経ても賃上げになる人、ならない人、そればかりか逆に下がる人すら出ています。
 
ゾーン別昇給管理の仕組みとは、下段の表のようなものです。
   
この表は、ある役割等級の中の特定等級を取り出したもので、表のSABCDは人事考課結果を、
Ⅰ~Ⅳは賃金水準を示しています。-記号は減額を、+記号は増額を示しています。
ゾーン別昇給管理とは、賃金水準の低いⅣゾーンの人は、人事考課でSABCを採れば賃上げになりますが、賃金水準の高いⅠゾーンの人は人事考課でAを採ってやっと現状維持
です。BCDでは賃下げになります。
 
この結果、全体として、人事考課でSを採る人は限られたほんの一部の人たちだけとなれば、賃金水準はⅡとⅢの境界あたりに収斂していく制度です。
定期昇給があったとしてもそれが制度全体として消えてしまうというシステムです。
 
このように人的資源管理が変化した現代、労働組合が気づかなければならないことは次のようなことです。
労働組合を労働力の供給側の取引組織として古典的に解釈をして春闘をしていたら、日本の賃金処遇はもはや完全に個別取引関係となっており、
すなわち集団的取引自体が空洞化しているために、春闘のたびに賃上げにならなかった中高年組合員から評価を落とし、団結の基盤を脆弱にしてしまう、という実態です。
2018春闘で、トヨタとシャープの労使がそのことを正直に「批判を承知のうえで」示した、ということだと私の目には映りました。
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