西尾 力の「BEST主義の組合活動のススメ」

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組合員の参加関与を増大させるために
2018/08/01

「単組は、その取り組みにより、自らの運動目標実現に向けて組合員の関与総量(参加人数×機会・時間)を増大していく。これが、労働運動全体にとってのかけがえのない資源となる」
このように呼びかけるのは「連合『人口減少・超少子高齢社会ビジョン』検討委員会―中間報告」(2017)です。
そしてさらに、次のように述べています。
「組合員の参加関与が形骸化しているとの提言はこれまでもあったが、未だ戦略や技術を見出すには至っていない。
このことに対して連合は、研究と試行、及び成果の普及に向けて、重点的に取り組まなければならない。
具体的には、組合員が関わって何かをしたいという動機と、運動の目標実現に向けた取り組みを重ね合わせ、果敢に実践・拡大していくことが必要である。
このように労働組合には、組合員の動機をとらえ、関与を持続的・発展的にもたらす価値ある取り組みを生み出していくことが求められる」
今回は、以上のような問題意識、組合員の参加関与を引き出す価値ある取り組みの創造に役立つ提案をします。

その提案とは、好業績を上げているサービス企業で取り組まれているサービス・プロフィット・チェーンの構築を、労働組合においても導入していこう、というものです。
サービス・プロフィット・チェーンとは、従業員満足度と従業員ロイヤルティーを高めることによってもたらされるサービス提供の価値、
それを高めて、顧客ロイヤルティーと労働生産性を高め、そのことで収益性を確保する、という経営戦略論(サービス・マネジメント論)です。

労働組合にサービス・プロフィット・チェーンを導入するとは次のようなものです。
組合員の組合活動への参加関与を増大させるには、執行部は人的資源への投資、すなわち現場の組合役員をサポートする技術、役員登用方法やトレーニング、動機づけの取り組みを最重要課題とします。
時間も予算も、組合役員の満足度を高めることに活動の力量を傾斜させていくこと。それが組合員の組合活動への参加関与を増大させる一番の早道、というものです。
前述したビジョンが最終的に求める新しい運動の創造は、次の2点から生まれる、というのが私の提案です。

1.動機づけられた現場の組合役員がどれだけいるのか
2.現場の役員を動機づけることのできる執行部であるのか

活性化された組織が、その組織内に張り巡らしたサービス・プロフィット・チェーンという血管の中に流れる血液は、「インターナル・マーケティング」と呼ばれています。
インターナル・マーケティングとは、従業員が提供するサービスの品質を向上させるために、マーケティングの視点を用いて行う企業経営陣からの従業員アプローチのことです。
従来の、企業から顧客へのマーケティングや従業員から顧客へのマーケティングとは違って、企業から従業員へのマーケティング(インターナル・マーケティング)であり、
製品を職務に、顧客を従業員と見なして行うマーケティングです。
サービスは顧客に接する従業員がつくり出し、そのサービスの品質は従業員の能力や態度によってつくり出されるものだ、と考えます。

労働組合も組合活動を通して、価値を生み出し、提供する仕組みを保持しなければなりません。
そのシステムの良否は、現場の組合役員の組合員への対応の巧拙で決まります。
すなわち、組合員の組合活動への積極的な参加関与を導き出すには、組合活動に満足し、組合員との関係を持とうとする、ロイヤルティーの高い現場の組合役員が必要だ、ということです。
また、現場組合役員の満足度やロイヤルティーの高さは、その労働組合が掲げるビジョン、保有する戦略、執行部のリーダーシップ、
同僚となる組合役員との関係性の質、組合活動における個人の成長機会、活動推進にあたって与えられた権限の自由度などの要因から成り立っている、と私は考えています。
まとめると、現場の組合役員の満足度の高さが、組合活動の価値と生産性を実現する組織能力をつくり上げる努力の中核となる、ということです。
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