西尾 力の「BEST主義の組合活動のススメ」

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労働組合の組織および活動に求められている変化
2018/12/03
1950年代半ばから1980年代にかけて高い国際競争力を発揮した日本型人事管理モデルについて、森口千晶(2013年)は次の7つの特徴を挙げています。
(1)注意深い人選による新規学卒者の定期採用
(2)体系的な企業内教育訓練
(3)査定付き定期昇給・昇格
(4)柔軟な職務配置と小集団活動
(5)定年までの雇用保障
(6)企業別組合と労使協議
(7)ホワイトカラーとブルーカラーの「正社員」としての一元管理
労働組合運動も、森口氏が指摘する日本型人事管理モデルに対応した組織と活動を展開して、今日に至っています。

この、わが国労働者の勤労意欲の源泉や、世界に冠たる日本的労使関係の「安定の秘訣」を説明する概念を労働組合側の視点で捉えていたのが神代和欣(1983年)です。
日本の労働組合の行動を律している基本的動因を、階級意識ではなく「良好な雇用機会の希少性意識」であると捉えていました。
神代氏の指摘によれば、1960年代に貿易・資本の自由化をひかえて産業再編に協力したり、1970年代後半からは石油危機のあとで賃上げを抑制したのは、
わが国民間大企業労組の「保守的」行動様式であって、それを企業別組合という組織形態に原因を求めて、たんに資本に買収された労働貴族・ダラ幹の裏切り行為、と見るのは皮相である、というのです。
また、神代氏は次のようにも指摘します。「労使関係の研究の歴史を振り返ってみると、大きな二つの流れがある。一つは、階級対立図式に基づくアプローチであり、
もう一つは利害調整図式に基づくアプローチである。いずれのアプローチをとるかによって、賃金問題にせよ、合理化問題にせよ、その見方は著しく変わってくる」と述べています。
さらに「古い古典的労働運動の理念に固執する人々は、このような新しい実利的組合主義の潮流を、依然として古典的な『労働貴族論』や『資本との癒着論』によって説明しようとしている。
その論理は単純なので、一見、分りやすい。少なくとも富と所有分配の不平等がなくならない限り、分配についての不満をなくすことはできず、
その不満がなくならないかぎり、不平等を怨嗟し、不満を組織化する論理として、階級闘争図式はつねに蘇ってくる」と指摘しています。

21世紀に入り、経済情勢は大きく変わり、高度経済成長時代にマッチした日本型人事管理モデルに修正が求められています。
JC春闘(経済整合性論)の成功の秘訣となった「良好な雇用機会の希少性意識」では対応できない時代となりました。
森口氏が指摘する「日本型人事管理モデル」も、神代氏が指摘する「良好な雇用機会の希少性意識」も高度経済成長時代に確立されたものであり、
全体に経済成長しない時代に入った現代には通用しないものといえるでしょう。
グローバル経済に対応する日本型雇用システムの見直しについて、松浦民恵法政大学キャリアデザイン学部准教授は「『発言』も『離脱』も許容される『開かれた』長期雇用へ」とタイトル化して、
次の7点を挙げています。
(1)企業は生え抜きの幹部のウェイトを低下させる(中途採用等による多様な人材のウェイトを高める)
(2)企業は人事管理の意思決定を個別交渉型にシフト(例外をある程度認める)
(3)企業は転職や副業を成長機会としてとらえる(戻ってこれる仕組み)
(4)社員の職務の幅はある程度広く
(5)企業における雇用保障や労働条件の維持はできるだけ(年功は育成段階のみ)
(6)穏やかで幅広い労使コミュニケーション
(7)職種別の賃金相場を形成する
(法政大学大学院「職業キャリア政策論」2018.10.15第4回授業レジュメより)
今日の労働組合は、松浦氏が指摘する変化の方向性を認めるならば、この変化に対応する組織や活動に変革していくことが求められます。

松浦氏が指摘する変化の方向性に対応するには、これからの労働組合は正社員だけの労働組合では、存在価値を失うことになるでしょう。
ダイバーシティーに全く対応できない閉鎖的な組織のままでは、企業からの期待にも応えられない組織になることが想定されます。
またそれは、労働組合を“共助・自助”の組織から“公助・他助”の組織へと変革し、社会的責任(USR)を果たしていくことにつながると期待されます。

参考文献
森口千晶(2013年)「日本型人事管理モデルと高度成長」『日本労働研究雑誌』No.634(p52~63)
神代和欣(1983年)『日本の労使関係』有斐閣選書
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