西尾 力の「BEST主義の組合活動のススメ」

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労働組合組織率や勤労者短観にみる労働組合の存在価値の低下 
2013/11/01
 ◆戦後ほぼ一貫して低下する組織率

  今日の労働組合をめぐる重要な課題のひとつとして、労働組合の組織率の低下がある。
  終戦直後、占領軍の民主化政策で労働組合の設立が推奨された時代の1949年に55.8%、雇用労働者二人に一人は組合員だった時代から、戦後約70年間ほぼ一貫して低下しているのである。
  2012年の組織率は17.9%(前年マイナス0.2%)と最低記録を更新した。組合員数でも2012年989万人と、平成6年(1994年)ピーク時の1260万人から18年間で280万人も減少しているのである。
  アメリカの労働組合の組織率も1983年の20.1%から2012年の11.4%へと低下。組合員数も1983年の1770万人から、2012年の組合員数1436万6000人へと減少している。
  組織率はアメリカよりは高いのだが、組合員数の減少数を比べると、アメリカが30年間で330万人の減少であるのに、日本はその約半分の期間の18年間で280万人も減少させていることは由々しき事態であることが分かるだろう。
  実はこの約70年間、組織率が低下し続ける中で2回ほど組織率が上昇した年があった。それは1975年と2009年である。
  1975年に組織率は前年33.9%から34.4%へと0.4%上昇した。その原因は、1973年に第4次中東戦争が勃発し、アラブ諸国が石油を一斉に減産したことで発生した石油ショック後の大混乱である。 
  石油価格が4倍以上に跳ね上がり、国際的に経済が大混乱した。経済は狂乱物価という言葉に代表されるスタグフレーション(インフレと不況の同時発生)になり、その後日本国内ではリストラの嵐が吹き荒れた時だ。
  2009年に労組組織率は前年の18.1%から18.5%へ0.4%改善した。この時も原因は1975年と同じで、記憶に新しい百年に一度といわれたリーマンショック(金融大崩壊)後に、組織率を計算する分母の雇用者数が110万人も減少したからである。

 ◆労働組合「必要派」も減少中

  労働組合の存在価値が低下していることを示すデータは、組織率以外に連合総研が年2回4月と10月に行っている勤労者短観という調査でも示されている。
  この調査の中で2004年4月の第7回調査から「労働組合は必要か」の設問が設けられている。
  そこで、「労働組合は是非必要だ」と「労働組合はどちらかといえばあった方がよい」を足した「必要派」の割合が、年々低下しているのである。
  2008年の16回調査では、その「必要派」の割合が全体で69.6%だったが、2013年第25回調査では54.3%まで低下している。
  労働組合に加入している人に限定すると72.2%と高いのだが、労働組合に加入していない人に限定すると49%と、過半数を割ってしまう。
  当社のリサーチ部門が、過去15年の減少率から、この先10年後(2022年)の組織率を「関数式のあてはめと予測」という計算方法によって推計したところ、上限値は15.5%、下限値13.2%となった。

 ◆非正規雇用労働者の割合増加だけでは説明できない組織率の戦後一貫しての低下

  しかし、視点を少し変えて見ると、労働組合の「必要派」が減少したとしても、全体でまだ54.3%と、二人に一人は「必要」としているのに、なぜ組織率は17.9%にまで低下しているのか、疑問が浮上する。
  その原因は、バブル崩壊後に雇用構造の変化が進み、非正規雇用労働者の割合が高まっていることが挙げられる。
  2012年厚生労働省『国民生活基礎調査』では、非正規社員の割合が38.9%まで増加している。
  しかしそれにしても、バブル崩壊後、特に1997年以降の組織率の低下はそれで説明できるが、それ以前からも低下していた理由が不明となる。

 ◆組織率低下の真の理由

  バブル崩壊以前から始まっている組織率の低下の原因を指摘するのが、一橋大学の都留康教授である。その著書『労使関係のノンユニオン化』(東洋経済新報社)である。
  都留教授は、組織率の低下は経営側の反組合主義が強まったからでなく、雇用構造の変化によるものでもなく、新規組織化(率)の停滞が主な要因であるとしている。
  新規(設)組織率とは、当該年度の実質的新期(設)組合員数を雇用者数で除したものであるが、1956~74年までは0.7%で、1975以降は0.2%となっているとのこと。
  つまり、その根底には、労働組合の新規(設)結成による組織人員の拡大の頓挫、すなわち、労働組合の顧客創造(マーケティングとイノベーション)能力の低下という事実があるのである。
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