西尾 力の「BEST主義の組合活動のススメ」

トップ
トリレンマ(三者択一)に陥った春闘
2013/10/01
◆生産年齢人口の減少がもたらすデフレ

  日本経済が長期のデフレ・雇用不安に陥ったその始まりは、1990年代の金融市場と不動産のバブル崩壊が資産デフレを引き起こし、実体経済を悪化させ、
 この逆資産効果によって人々の所得を減少させ、消費需要を抑制することになったことにある。
  そこに、日本は1995年に生産年齢人口が減少し始め2005年には総人口も減少に転じたため、需要は今後減少し市場が縮小し消費が伸びないとの予測が、
 投資意欲を減退させ、現在の有効需要をさらに減少させデフレ圧力となって現在も続いている。
  藻谷浩介氏もその著書『デフレの正体』の中で、生産年齢人口の減少が、国内雇用の大部分を占める内需型産業の恒常的供給過剰体制を引き起こし、
 業績は回復しない。そのために、若者は低賃金状態に置かれ続けて、失業状態をはさみながら転職を繰り返すことになるので、失業率も高止まりする、
 と分析している。

 ◆アベノミクスがもたらすバブル

  ただし現在は、アベノミクスによる財政政策により所得の前借り、金融政策により需要の前倒しをもたらしているので、一時的に景気が上向いたようにも
 見えている。
  しかし、本質的には何の価値も生み出しておらず、ただバブルを作り出しているだけなので、いずれ破綻して終わりとなるだろう。
  日本社会は1997年をピークに、それ以降は国内の雇用と賃金は劣化するばかりで、もはや先進国(G7)の人々だけが経済的に豊かに生きることが出来ない
 時代に入った。
  最低でもG20の国々の経済・生活水準が均一化するまでG7の国々の雇用と賃金の低下は続くだろうとの予測は難くない。

 ◆「セイの法則」も成り立たない

  経済成長を決定する要素、それは「労働人口」「労働生産性」「資本」の3つといわれている。
  最初の「労働人口」の増加は、今後の日本では不可能に近い要素である。
  次の「労働生産性」の増加率は、日本では60年代労働生産性の増加率が10%弱あったのに、70年代は平均5%まで急落、80年代は3~5%に、90年代には1%まで
 低下している。
  ところが、経済成長率が低いのは労働生産性が低いからだとの認識から、構造改革の必要性が叫ばれ、供給側の規制を撤廃して自由競争にして、供給を
 伸ばそうとした。
  それは、古典派経済学者のジャン=バティスト・セイの「消費者の欲望は無限なので供給は需要を生み出す」という法則を採用したものであったが、
 それに見合う需要が生まれなかっただけでなく、ますますデフレ経済に陥ってしまった。それどころか、非正規雇用が目立って増えるという流れになって、
 雇用の不安定化が有効需要の源である分厚い中間所得層を破壊してしまったのである。
  そこに資本の移動が過度に自由化され、各国の金融政策は有効性を失い、その結果、金融(投資マネー)が商品市場に流れ込み、食料や資源価格まで
 高騰させ、先進国の交易条件を悪化させ、利益率と労働分配率を低下させることに結びついてしまった。

 ◆「プロフェッショナル育成」でしか雇用と賃金は守れない時代

  グローバル経済下での市場競争は、途上国との低賃金労働と競争せざるを得なくなり、先進国の賃金を押し下げ、物価の低下というデフレ圧力となる。
  さらに、グローバル経済は労働界の悲願だった「同一労働・同一賃金」を、いとも簡単に、しかも世界的に低位水準にて実現してくれる。
  このようなグローバル経済の時代では、労働組合は労働三権だけでは雇用・賃金は守れない。
  組合員・労働者のプロフェッショナル(高付加価値な仕事が出来る人材)への育成によってのみ防御する以外に道はない。
  それだけでなく、グローバル経済時代の春闘はトリレンマ(三者択一)になる運命にあることも承知しておく必要がある。
  今日の労働界の春闘要求は「1.賃上げ 2.格差是正 3.雇用の安定」である。しかしこれは、金融経済学のトリレンマ理論、すなわち「1.資本の国際的移動
  2.各国の自律的財政政策 3.為替の安定」の3つは、同時には成り立たない、という理論と同じように、同時にはなり立たないのである。
  今日の労働組合の社会的責任を考慮するならば、優先すべきは「3.雇用の安定」と「2.格差是正」であり「1.賃上げ」は劣後順位とすべきであろう。
閉じる