■一律のベア要求方針に困惑する単組
昨年末、講義・研修で訪れ面談する労組三役に、2014春闘への単組の取り組み姿勢・方針を尋ねると、皆さん困惑気味な顔で、歯切れの悪い発言となります。
安倍政権の賃上げキャンペーンと、それに追従せざるをえなくなった労働界のベア要求方針と、それによって組合員の膨らむベアへの期待感の前に「どうしたものか」と戸惑っているのでしょう。
消費者心理では、期待を膨らませて、結果がそれを下回れば、クレームの嵐になることも分かっているのでしょう。
また、賃金を政策的に一律に引き上げることなど、今日のグローバル経済下の時代では出来るはずもないし、事情は企業ごとに異なりますから、一律の議論が成立するはずもありません。
このままいけば、2014春闘はナショナルセンターと単組の心理的距離感をより一層拡大することになるのでは、と心配しています。
また、成果に結びつかなければ国民大衆からも、「存在価値のない労働組合」のレッテルを貼られてしまい、安倍政権にとっても望むところでしょう。
■盗んだバイク(アベノミクス)で走り出す危険
1955年の春闘開始以来、労働界は生産性三原則を確認し、労働生産性を向上させて、その成果を労使で分かち合う春闘を推進して来たはずです。
しかし、2014春闘はリフレのための賃上げ、消費税引き上げのバーターとしての賃上げだけでなく、各企業の経営実態お構いなしの筋の通らないものとなろうとしています。
そればかりか、企業側が政治的圧力でベア実施をするかぎり、それを受け入れる見返りに、派遣法や解雇規制の緩和などが実行されることになります。
労働界(大衆)は、身に付いた消費者感覚(即時の等価交換の価値判断)をベースにした近視眼的視野で動きますので、ベア実施に目がくらみ、春闘背後で実施されるこの政治的取引を見過ごして(許して)しまうことでしょう。
尾崎豊世代(ガンダム世代)にリードされる労働界は、盗んだバイク(アベノミクス)で走り出してしまうでしょう。そのことで自分たちの将来がどのようになるかも考えることなく……。
■アベノミクスの危険
アベノミクスの「大胆な金融政策」によるリフレ・円安誘導によって、輸出産業は一息ついていますが、長続きするものではありません。
確かに今現在は、円安によって輸出企業では利益が出ていますが、さらに円安にならない限り、それも今期限りです。
なぜならば、海外で売上げが伸びたり、技術革新等によって生産性が高まったりしているわけではないからです。
金融経済学のトリレンマ理論によれば、「1.為替レートの安定 2.自由な資本移動 3.金融政策の独立性」の3つを同時に達成することはできませんので、通貨の安定(常態化した円安)はありえません。
一方で、リフレ・円安は、原材料・食料等の輸入品の値上がりを確実にします。
モノの値段が上がっても、労働生産性が高まっているわけではありませんので、どんなに安倍政権が「賃上げを」と声高に叫んだとしても、賃金はそう簡単には上がらないでしょう。
さらに、アベノミクスの「機動的な財政政策」によって安倍政権は国債の発行に拍車をかけています。
国の債務残高は今年6月、1,000兆円を超えました。年末には地方を含む政府全体の借金総額はGDPの2.5倍になるといわれています。これは太平洋戦争の終戦直前の1944年の国の借金比率2.6倍とほぼ同じ状態に至っているということです。
アベノミクスも、まだ円高のときはよかったのですが、円安となるとそれ自体が国債の暴落の可能性を高めています。
アベノミクスがもたらす最終結果は、景気停滞(不況)のままでインフレ(物価高)になるという、かつて石油ショック後に起こったスタグフレーション(悪いインフレ)の可能性大です。
■2014春闘後、さらに格差が拡大する
「消費税アップ等で物価が上がっていくから」の理由で賃上げを求める。 これが労働界の2014春闘の最大の要求根拠です。
一見正当な要求のように思えますが、物価高は企業にもコストアップになります。
売上げが伸び、生産性が上がっていないとすぐに苦しくなります。取るべき手立ては、非正規社員割合を増やすことと、よりし易くなったリストラに走ることでしょう。
そして、今よりも「働くことを軸とする安心社会」とはかけ離れた社会へと拍車をかけることになりかねません。
そもそも、消費税アップの見返りは、国民が未来の安心の社会保障として受け取るべきもので、即時の等価交換を求めるべきものではありません。
もしも、棚ぼた式であっても、アベノミクスによって企業収益が良好ならば、2014春闘で取り組むべきことは、失われた20年間に放置されていた最低賃金の問題や正規社員と非正規社員との格差についての議論と実践でしょう。