西尾 力の「BEST主義の組合活動のススメ」

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21世紀の組合活動とは「心の報酬」の体系整備と向上
2015/10/01
■期待を下回る結果を積み重ねる春闘の危険

 期待を下回る結果はクレーム・顧客喪失となり、期待と同等ないしはそれ以上の結果は、リピーターや固定客化をもたらす。
 この消費者心理を無視して春闘を推進する労働組合は危険である。
 どんな組織も、顧客やメンバーに対して、常に期待以上の結果になる成果を上げることにこだわり続けることが必要である。
 結果が期待を下回っても、努力への姿勢だけをもって許せるのは「巨人の星」世代までである。
 この「巨人の星」世代に鍛えられた、今日の労働界のリーダー層を占める、疑問を感じながらも組織に従う「ガンダム」世代や、今日の若者層、気の合う仲間のためには全力をつくすが組織には決して従おうとしない「ワンピース」世代には、期待と同等ないしはそれ以上の結果をもたらす組織運営(マネジメント)が求められる。

■労働組合に対する期待は低い

 だからと言って不安になる必要はない。労働組合に対する現在の期待レベルはそれほど高くはないからである。今日の労働組合に対する期待は、次の期待の4段階の最低のレベルであるからだ。従って、ちょっとした工夫と努力で上回ることができる。
①予想外の大きな価値がある
②あるとすごくうれしい
③あってほしい
④ないよりあったほうがよい
 「ワンピース」世代の労働組合に対する期待、それは地縁共同体も親族共同体も壊れ、企業共同体も崩壊しつつある今日、お互いを認め合える仲間の関係である。多様な個性・才能をお互いに認め合い、「アナ雪」のように「ありのままで」いられる、組織の中で「少しも寒くないわ」と叫べる自分である。
 では、労働組合が「あってよかった」だけでなく、「うれしい」「すごい」と感じてもらえる組合活動とはどのようなものなのか?
 それに関しては「ワンピース」世代が明確に答えを示している。それは、組合活動を通した「仲間づくり」である。一人ひとりの個性や才能が発揮できる仲間づくりである。

■経済成長(経済的報酬の向上)では生活の満足度は上がらない

 21世紀の労働組合に求められている組合活動は、「心の報酬」の体系整備と向上である。それは一人ひとりの個性や才能が発揮できる企業・職場での仲間づくりである。
 GDPが低迷する時代に、これまでの組合活動が目的としてきた「経済的報酬」を高めることは大変困難な時代であるばかりか、期待を下回る結果に労働組合の存在価値を失わせる大変危険な組織運営(マネジメント)とであることはすでに述べた。
 しかも、ブルーノ・S・フライとロイス・スタッツァー共著の『幸福の政治経済学』(ダイヤモンド社)によれば、「日本では一人当たりのGDPが1958年を基準にすると、1991年にかけて一人当たり6倍に増加したにも関わらず、生活満足度はほとんど変わっていない」のだ。
 この報告は、日本での調査(無作為抽出によって選ばれた15歳から75歳までの男女6000人程度の標本調査)からまとめられた生活満足度の時系列データに基づいている。
 この傾向は日本ばかりでなく、アメリカでも同じで、一人当たりのGDPは1946年(約1万1000ドル)から1991年(2万7000ドル)にかけて2・5倍に増えているのに、幸福度は低下する傾向にさえある。
 このように、経済成長(経済的報酬の向上)では生活の満足度は上がっていないのである。

■従業員モチベーション・ES調査の必要性

 「心の報酬」の体系整備と向上の取り組み、その基本は従業員モチベーション・ES調査による定点観測である。
 それを大手企業では、企業内にとどまらせず、企業グループ全体で行い、連結決算時代のグループ企業経営に対処していく必要がある。
 各産別でも実施し、働きやすい産業づくり(制度・政策の取り組み)の基盤ともしていくべき時代である。
 組合活動は「調査なくして発言なし」。
経営陣・管理職では拾えない、経営施策が生み出している現場の事実を丹念に集め、提言していくチェック機能・コミュニケーション機能・コンプライアンス機能が、今日の労働組合には期待されている。
 さらに、一人ひとりの個性や才能が発揮できる企業・職場での仲間づくりのための組合活動が求められている。
 それは、働きやすい職場づくりのことであり、そのような働きやすい職場とは、「意見を聞いてくれる人がおり、何でも話し合いができ、対話を通じて考えることができ、人を育てる教育ができている職場」(産業医 荒川千暁『勝手に絶望する若者たち』幻冬舎新書)である。
 働きやすい職場とは、賃金・労働条件だけではないのである。
 21世紀の労働組合には、このような働きやすい職場づくりのために、自分たちで何をするかが問われている。
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