西尾 力の「BEST主義の組合活動のススメ」

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2016春闘を社会整合性論(利他主義)の春闘の出発点としよう!
2016/01/01
■非正規社員の割合が増えるだけの労働社会

 昨年11月、厚生労働省が発表した「就業形態の多様化に関する総合実態調査」では、
非正規社員の割合が前回(2010年)調査で38・7%だったものが、とうとう4割に達したことが示されています。
年齢別に5歳刻みで集計すると、30歳から54歳のすべての層で非正規社員の比率が前回調査を上回っています。
前回調査は民間企業のみの調査でしたが、今回は全国の官公営を含む事業所1万7千ヶ所とそこで働く約5万3千人に尋ねたものです。
 そして、非正規社員を雇う理由のトップが「賃金の節約のため」で、38・8%(複数回答)です。
 このような現実は、「働くことを軸とする安心社会」を目指して賃上げ要求する正社員を中心とする労働組合主義(運動)が、
むしろ非正規社員の拡大傾向に拍車をかけるパラドックスとなっており、私たちはそこに目を向けることが求められています。
 ある地方連合の幹部の方が「自分の子供が正社員になれなかった」とつぶやいた現実と重ね合わせると、
それを1980年代以降、先進諸国の経済政策として取り入れられた新自由主義の台頭と人々のアトム化だけに原因を求めて、
被害者意識の組合活動だけでよいのか、私たちは問われているのです。

■「賃金三原則」「生産性三原則」にも反するアベノミクス春闘

 「賃上げによって、デフレ経済から脱却して、良好な経済循環を実現する」というアベノミクス春闘のスローガンは、
戦後レジームからの脱却をモットーとする安倍政権の本領発揮らしく、1954年の日経連の「賃金三原則」や
1955年の第一回日本生産性連絡会議の「生産性三原則」をも否定するものとなっています。
 1954年1月に日経連が提示した「賃金三原則」とは、次のようなものです。
①物価上昇の要因となる賃上げは認めない
②企業財務の枠を超えた賃上げは認めない
③労働生産性の向上をともなわない賃上げは認めない
 この日経連の「賃金三原則」はその後、同盟とIMF│JC(現JCM)が1955年に政労使合意していく「生産性三原則」の基本思想となったものです。
 「生産性三原則」とは、賃金とは企業と労働者の双方が生み出した付加価値の分配である、という合意です。
生産性の向上運動展開に際して①雇用の維持・拡大、②労使の協力と協議、③成果の公正な配分を行なう、と政・労・使が約束した三つの原則です。
「雇用維持」とは、生産性が上がって必要人員が減り、余剰人員が出ても解雇はしない。「労使協議」とは、生産性向上をどのような方法によって行うか、
事前に労使で協議を行う。「公正配分」とは、生産性向上の成果を、適正に労働条件の向上に配分する、という合意です。

■生活(賃金)水準だけでなく、健康にして文化的な水準も

 生活(賃金)水準がどんなに高まっても、生活満足度は変わりません。今日の春闘には、生活(賃金)水準だけでなく、
「健康にして文化的水準」の価値判断の復活が求められています。
 階級闘争真っ盛りの1952年の総評第3回大会で決定された賃金闘争の基本的路線「総評賃金綱領」でさえも、
賃金闘争の基本目標を「健康にして文化的な生活」との言葉を使い、賃金闘争の目標を達成する前提として、
全国全産業一律の最低賃金制の確立と社会保障制度の根本的拡充を追していました。

■日本経済の復活は「働きがい」の高い職場・会社から

 2016春闘では、ベア要求ができなくても、ちっとも悪いことではありません。
組合活動を短期的視野だけでとらえてはいけません。短期的利益と長期的利益はトレード・オフになります。
 2016春闘で取り組むべきことは、パターンセッターからの賃上げではなく、全単組が統一して取り組める最低賃金の引き上げです。
 そして、ベア要求ができる労働組合には、ベア分として獲得した賃金原資を均等処遇(1国1制度=多様な正社員)にする社会整合性(利他主義)の春闘です。
 アベノミクス春闘は、ベアと引き換えに雇用改革を推進するというシナリオです。
昨年10月13日の経済3団体と安倍首相との会談で、ベア実現の交換条件に確認されたのは、法人税の実効税率の20%台への早期の引き下げと、
更なる規制改革(金銭解雇や限定正社員制度)を推進し、労働時間制度改革(ホワイトカラーエクゼンプション)の早期実現です。
アベノミクス春闘に踊らされてはいけません。社会整合性論の春闘では、賃金額の多寡にだけに目を向けるのではなく、
賃金体系・人事制度の改善に目を向け、かつて草創期の労働組合が「職工身分格差撤廃」「電算型賃金体系」を要求したように、
均等処遇制度の要求を主に行うことが求められます。
 それは、「賃金・労働条件」だけでなく「働きがい」の高い職場・会社にしていく組合活動であり、日本経済の復活は、
働くことが学びになる、働くことが生きがいになる、付加価値の高いモノづくりやサービスを生み出せる職場・会社にすることから始まる、との確信です。
 またそれは、「商品交換の思想」から「贈与の思想」の組合活動への転換であり、それこそが「働くことを軸とした安心社会」を築き、
次の世代に残していく春闘となるはずです。
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