西尾 力の「BEST主義の組合活動のススメ」

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組合員のプロフェッショナル化こそが雇用と賃金を守る
2016/02/01
◆グローバル経済の時代は生産性の高い部門への労働移動を図る組合活動を

 グローバル企業の繁栄は、その国の富として国民全員を潤す付加価値を形成することはない、ということを我々は肝に銘じなければならない。
 グローバル企業はグローバル・サプライ・チェーンの中で製品を製造しているために、製品生産工程が国境を越えていく。
最適生産のために工場を海外に持っていくゆえに、国内の雇用と賃金は劣化するばかりだ。
すなわち、グローバル経済の時代は、付加価値が国外に漏出し、これまでの春闘の前提条件だった生産性三原則が崩壊しているのである。
 従って、グローバル経済の時代とは、もはや先進国(G7)の人々だけが経済的に豊かに生きることが出来ない時代でもあるのだ。

 G20の国々の経済・生活水準が均衡するまで、要素価格均等化の定理に従ってG7の国々の雇用と賃金の低下は続くことになる。
だとするならば、これからの労働組合は生活水準よりも文化水準に価値基準をおいた春闘を展開する以外ない。
 このグローバル経済の時代に、労働組合が組合員・労働者の雇用と賃金を確保・安定させるためには、
低生産性部門から生産性の高い部門へと労働の移動性を促進させることでしか得られない。

◆被考課者訓練こそ組合員・労働者のプロフェッショナル化の一番の取り組み

 ドラッカーは「アメリカ・イギリスの職能別組合が労働の流動性を疎外している」と『断絶の時代』で述べている。
 これは、ドラッカーが欧米の産業別労働組合の弱点を指摘し、日本の企業内労働組合の強みについて述べていることでもある。
 低生産性部門から生産性の高い部門へと労働の移動性を促進させるということは、これからの労働組合の目的を、
“労働者の集団”から“プロフェッショナルの集団”を目指すことに切り替える必要があるということである。
 労働組合による組合員のプロフェッショナル化の一番の取り組みは、労組主導の被考課者訓練である。
被考課者訓練は、一人ひとりがやることになった春闘の支援でもある。

◆目標管理・人事考課制度の本質を正しく理解すべき

 ドラッカーは、「目標と自己統制による管理は、客観的なニーズを個人の目標に変換することによって業績を保証してくれる。
しかも、このことが真の意味での自由にほかならないのだ」と『現代の経営』で述べ、「目標管理こそが人間の本性であり、自由を組織において現実のものとしうる唯一の管理方法だ」と結んでいる。
 目標管理制度とは、組織の中で労働者が真に自由を獲得するための方法、としてレクチャーされるべきものなのだ。
 労働組合が行う目標面談アンケートは、その実態をしっかりと把握し、運営力を高めるために実施されるものでなければならない。
 人事考課の目的とねらいは「適材適所」「人材育成」「公正な処遇・賃金」である。
すなわち、「適材適所」とは配置管理の人事情報の収集。適正な人配置と昇進・昇格の為である。
 「人材育成」とは能力開発・教育訓練上の情報収集のこと。求められる能力と保有能力のギャップから能力開発・教育訓練ニーズを探る為に評価が必要となる。
 「公正な処遇・賃金」とは、賃金管理上の情報収集。適正な賃金と昇給の為に行われるべきものである。
 目標管理と人事考課制度は、仕事のマネジメントを通じた組織全体のチーム力強化であり、賃金決定機能などに限定されるものであってはならない。
 目標管理と人事考課制度の本質は、マネジメント・ツールであり、営利・非営利にかかわらず組織運営の必須機能である。

◆被考課者訓練はメンタルヘルスの取り組みともなる

 被考課者訓練を、労働組合がなぜ主体的に担うべきなのか。
それは、これまでのブラックボックスの評価に切り込み、評価が経営の専管(権)事項として存在した、その壁を越えるチャンスをつかむためである。
 人事評価制度に誰もが望む、客観性・透明性・納得性・公正性をもたらすためである。
またその出発点は「情報の公開性」であり、面談はその最大の機会であるからだ。
さらに、目標管理制度は部下の側から仕事の進め方にも口を挟めるチャンスでもあり、人事考課の面談は個別の労使交渉・協議の機会だけでなく権利とすべきものである。
その面談で上司をマネジメントする力を被考課者訓練で身に付け、労使対等になれるように労働組合は支援しなければならない。
 また被考課者訓練は、ストレスの要素である「要求の高さ」と「見通しの立たなさ」「支援のなさ」を克服する、メンタルヘルスの取り組みともなるのだ。
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