西尾 力の「BEST主義の組合活動のススメ」

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労組の取り組むべき喫緊の社会貢献活動とは?
2016/07/01
■ブラック企業対策こそ喫緊の社会貢献活動
 ブラック企業の存在(人材の使い捨て)が社会問題になっている今日、この分野で労働組合が役割を果たすことが、社会的に期待されているはずだ。
 しかし、日本の労働組合の特徴である企業内(別)労働組合の場合、企業内部の労使関係にのみ目が向いていて、積極的に企業外の労働者のために役割を果たそうとする労働組合が少ない。
 しかし、今日の労働組合が抱える課題の一つに、社会貢献活動がある。地域・社会に貢献する活動であるから、いろいろな領域・範囲において担うべき活動が考えられるが、実は、ブラック企業対策ほど、労働組合の社会貢献活動にふさわしいものはない。また、その取り組みこそ少数派に追い込まれている労働組合の存在価値を再構築する絶好の機会でもあるはずだ。

■中小企業経営者に「生産性を高めるのに労働組合が役立つ」との啓蒙を

 ブラック企業に対抗するには3つの方策がある。
①まず労働者自身が労働時間、処遇、福利厚生等が適法なのか判断できる力を身に付ける必要がある。
②次に、自分の労働の状態について相談出来る環境づくりである。
③そして、経営側も労働法の知識に欠ける場合が多いので、気づいていない点を指摘し、最適な労使関係に持っていくように啓蒙し、生産性の高い会社にしていくのも労働組合の役割であろう。
 2015年の民間企業の企業規模別の労働組合組織率は、1000人以上で45・3%であるのに対して、99人以下ではわずかに1・0%と企業規模間の格差がとても大きい。
 中小企業における労働組合の組織率が低い、という課題を克服していくには、先述のブラック企業対策の3番目の取り組みが一番効果をもたらすはずである。

■職場の問題の発生に労働組合は頼りにされていない

 2013年10月の第26回勤労者短観(連合総研)によれば、「過去1年間に職場になんらかの問題状況があったとの認識」は合計で61・1%もある。
 しかし、それを従業員規模別にみた場合、99人以下では56・3%に対して1000人以上でも64・0%と高いのである。しかも、労組の有無別に見ても「労働組合あり」でも63・4%。「労働組合なし」でも62・4%と大差がないのである。
 ただし、「職場に何らかの違法状態があるとの認識」では、合計が29・2%で、99人以下では35・9%に対して1000人以上は24・4%と逆転する。
 問題なのは、「自身が違法状態を経験した場合の具体的行動」である。
1位「職場の上司・経営者に話す」47・8%/
2位「職場の同僚に相談する」38・5%/
3位「労働基準監督署に申し立てる」36・4%/
4位「家族に相談する」36・0%/
5位「行政の労働相談を利用する」27・0%/
6位「社内の苦情処理委員会等に申し立てる」20・2%/
7位「勤め先にある労働組合に相談する」18・3%となっていて、労働組合の存在感・信頼感が実に薄い。

 もちろん、この問いを労組の有無別に見ると、「労働組合あり」の場合は、1位「職場の上司・経営者に話す」が52・8%と変わりなく、2位に「勤め先にある労働組合に相談する」が40・5%と順位を上げているが、上司・経営者の存在感・信頼感の方が上にあることに変わりはない。慰められるのは、本人が労組に加入している場合は「勤め先にある労働組合に相談する」は54・1%で1位となることである。
 しかし、見方を変えれば、「自身が違法状態を経験した場合の具体的行動」は、労働組合に加入していても45・9%であることから、約半数は労働組合に相談しないということでもある。

■大手労組は教育・研修活動を地域に公開しよう

 この不名誉な労働組合の存在感・信頼感を取り戻すために何をすべきか。
 力量の高い大手の労働組合に期待する以外ない。ブラック企業対策の3つの取り組みを地元で行っていくことである。  
 その取り組みは簡単である。大手労組が組織内で取り組んでいる組合役員・組合員向けの教育・研修を地域公開して、労働者教育に寄与するのである。
 多くの未組織の非正規社員は何年働いても能力開発の機会に恵まれない。それでは正社員への転換チャンスも得られない現実がある。その様な人たちに、大手労組内で展開されているキャリア開発セミナー等を地域に公開するのである。その良き事例が、マツダ労組が展開している「やる気応援プロジェクト」である。70を超える講座が地元で公開され、地域にも開放されている。
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