西尾 力の「BEST主義の組合活動のススメ」

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今後も取り組むべき春闘とは?(上)
2016/08/01
■2016春闘をどのように総括するのか?

 2016春闘をどのように総括するか。
その視点にこそ、今後の労働組合の真価が試され、存亡がかかっている、と言っても決して言い過ぎではないだろう。
2016春闘の成果を「3年連続して月例賃金を獲得したことだ」と楽観的に見ていて良いものだろうか? 
連合の春闘回答集計結果を受けて、「平均賃上げ方式での賃上げ額(加重平均)は6341円で、賃上げ率は2・08%。
昨年と比較すると賃上げ額は1156円、率も0・35ポイント下回っている中、非正規労働者の賃金引き上げについては、
時給額の引き上げは平均25・95円で、昨年よりも4・19円増加。月給引き上げでも5075円で同960円増と、
正規労働者を上回る改善がみられる」と評価する総括すら見られる。
 このような事態が、2016春闘に掲げたスローガンの「底上げ・底支え、格差是正」の春闘になった、と早合点しても良いものだろうか?

■「率」要求から「額」要求にすべき

実際には、2016春闘ではますます格差は拡大した、と見るべきであろう。
 下の表を見ていただきたい。平成24年度の民間給与実態統計調査による正規と非正規の年収をベースに、
賃上げを「率」で見ていくならば、正社員の賃上げを2%行ったとしたら、非正規社員の賃上げ率は8%以上にしないと格差は縮まらない。
 さらに、実際には正規社員にはベアの賃上げ以外に定期昇給の約2%があるはず。
しかし、非正規社員にはほぼ定期昇給はないので、格差はもっと広がっているはずである。
 その上に、一時金要求が支給月数となっているならば、格差はさらに広がっているとみるべきであろう。
せめて、これ以上の格差拡大にならないようにするには、賃上げは「率」ではなく、「額」で統一していく必要がある。





■「ベア原資」をすべて非正規社員分の賃上げに充当し、均等処遇の実現へ

 2016春闘を、本当に「底上げ・底支え、格差是正」の春闘にすると言うならば、大手が先行してベア原資を取りに行き、
そのすべてを社内の非正規社員の均等処遇実現(最低賃金の引き上げを含む)のために充当する。
 さらに、中小の子会社や関連会社、取引中小業者への仕入れ価格に充当する(最低でも値引き要請をしない)ことなども求められる。
もちろん、その上乗せ分をそのまま賃上げに結びつけたかどうかを、経営者に証拠提出を求めるべきだろう。
当面、正社員組合員の春闘は定昇のみ(賃金体系維持)にして、ベアは非正規社員を対象に行って、格差を縮めていくことが求められる

■春闘に「健康にして文化的な生活水準」の価値判断を

 もちろん、2016春闘で、ベア要求ができなくても、得られなくても、ちっとも悪いことではない! 
経済成長を目指す逆立ちした賃上げは、規制緩和(ホワイトカラー・エグゼンプションや裁量労働制の適用範囲拡大、金銭解雇など)を引き起こすことになるからだ。
組合活動を短期的視野だけでとらえてはいけない。生活(賃金)水準がどんなに高まっても、生活満足度は変わらないからだ。
春闘が目指すべきは、賃金だけではない。質的な労働環境の整備・向上によって、働きがい・生きがいのある仕事・職場・会社にしていく、
すなわち「健康にして文化的な生活水準(1952年の総評第3回大会で決定された賃金綱領)」の価値判断も春闘に、もう一度含めていくべきである。
また、忘れてはいけない視野に、大企業と中小企業の賃金格差の問題がある。
これは、一人当たりの付加価値額の倍近い格差から生まれるものであり、賃金の企業規模間格差をなくしていくには、
一人当たりの付加価値額を高めていく取り組みを、日々労使協働で行っていくことが重要である。
したがって、この問題の解決には、春闘時期に格差是正の賃上げを求めても不可能である。
 日々の組合活動を通して、働きがい・生きがいのある仕事・職場・会社にしていくことである。
このような仕事・職場・会社は労働生産性も高いし、ワーク・ライフ・バランス、メンタルヘルスに必須の条件でもある。
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