西尾 力の「BEST主義の組合活動のススメ」

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春闘よりも重視すべき組合活動
2016/11/01
■経済学ではなく経営学でとらえる

 これからの労働組合には春闘よりも、もっと重視しなければならない取り組みがある。
それは下記の取り組みである。
①自分たちの所属する会社を“良い会社”にする
②“労働者の集団”から“プロフェッショナルの集団”を目指す
③集団および個別の労使関係においてマネジメントで労使対等を実現し、問題解決する
 以上の3点は、労働組合のはたす経営学的意義と機能に着目する、ということである。
 労働組合を経済学的視点から見るのではなく、経営学視点でとらえ直す、ということである。

■コンプライアンスに関するチェック機能を持とう

 「①自分たちの所属する会社を“良い会社”にする」取り組みとは、どんなに賃金・労働条件が現在よくとも、
コンプライアンスにかかわることを労働組合として見逃してしまうと、雇用すら危なくなるということを、
東芝や三菱自動車等が教えてくれる。
 ある意味、春闘よりもコンプライアンスに関するチェック機能を、今日の労働組合は主要な活動にしなければならない、と言えるだろう。
 これはまた、日本の労働者はプロフェッショナル意識に欠ける、と言われても仕方がないものだろう。
自分の仕事に誇りと正義感を持って取り組んでいない証拠でもある。
 賃労働者として、会社や上司から言われることをしているだけ、という甘え(プロ意識の欠落)があるのではないか。
 職場討議・集会をしっかり行い、現場の声を吸い上げ、労使交渉・協議の場を活用して、
チェック機能を発揮する日常的な組合活動を重視しなければならない。
組合員も関わっていた企業不祥事に、責任を感じないような労働組合に、存在価値はない。

■プロの育成こそが雇用と賃金を守る

 そこで、今日の労働組合に求められる春闘よりも重視しなければならない活動の2つ目が、
「②“労働者の集団”から“プロフェッショナルの集団”を目指す」である。
 もちろんそれは、プロフェッショナルの働き方を志し、付加価値の高い仕事に挑戦していかないと、
グローバル経済下の今日、国内に雇用と賃金の場は確保されないからでもある。
 ただし、プロの条件とは専門的職業能力ではなく「変化適応力、顧客価値提供力、ソーシャルスキル」である。
このプロの3条件を身に付けた組合員の育成、そこに組合予算の3分の1を投入し、傾斜生産方式・労働組合版米百俵で、
労働組合をプロ育成機関としていくことである。
 富士重工業労働組合の「ジョイフルセミナー」やマツダ労働組合の「やる気応援プロジェクト」、
富士フイルム労働組合の「プラスYOUセミナー」などはその先駆的取り組みであろう。
 何よりも、毎年組合役員をプロフェッショナルへと育成させていくアクションラーニングは重視されなければならないものである。
 当然であるが、組合役員が「職場討議・集会の進め方」「労使交渉・協議の進め方」「職場での組合活動の進め方」をしっかりマスターし、
実行できるようにすることが基本中の基本である。

■個別の労使関係での問題解決力を高める

 「③集団および個別の労使関係においてマネジメントで労使対等を実現し、問題解決する」取り組みで、
もっとも力を入れていくべきものが個別の労使関係での問題解決力を高める組合活動である。
 今日の労使関係を冷静かつ客観的にとらえるならば、賃金・労働条件の維持・向上の圧倒的部分は、
目標管理・人事考課制度に伴う個別の労使関係(上司と部下との面談)によって決まっている時代である。
 一人ひとりの春闘がメインの時代なのである。
 この個別の労使関係に労働三権は適用されない。従って、この個別の労使関係で労使対等に立つには、
個々人(部下側)の上司マネジメント能力を高めることが必須である。
その意味で、プロフェッショナルのスキルにその力を加えるべきであり、その取り組み(被考課者訓練)が求められていると言える。
 その代表的取り組みをしている労働組合は、NTT労働組合ドコモ本部やコマツ労働組合、百五銀行従業員組合等々、
リストアップしたら紙面がいくらあっても足りないくらい、今日多くの組合で取り組まれている。
 当社発行の『「目標管理・人事考課」傾向と対策』は30万部を突破し、今なお重版出来になっている。
 被考課者訓練は、メンタルヘルスやワーク・ライフ・バランスにも、組織開発にも効果をもたらす取り組みでもある。
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