鈴木勝利 コラム「語りつぐもの」

鈴木勝利 コラム「語りつぐもの」

「大義などなくても選挙に勝てればいい…?」~「優しい日本」をとりもどすチャンスに~
2017/10/18
「語り継ぐもの」(127)(総選挙特集2~①)          


 「大義なき解散」と批判されている衆議院の総選挙が始まった。「国難」と声高に叫ばれる解散理由を言われるにつけ、どうしても次のようなことを思い出してしまう。(ナチス・ドイツの戦争責任を問う国際裁判において)【「もちろん、普通の人間は戦争を望まない。(中略)しかし最終的には、政策を決めるのは国の指導者であって、民主主義であれファシスト独裁であれ議会であれ共産主義独裁であれ、国民を戦争に参加させるのは、つねに簡単なことだ。(中略)とても単純だ。国民には攻撃されつつあると言い、平和主義者を愛国心に欠けていると非難し、国を危険にさらしていると主張する以外には、何もする必要がない。この方法はどんな国でも有効だ。」(ナチス・ドイツ軍の最高位をきわめたヘルマン・ゲーリングの証言)】

 案の定とでもいおうか、東京杉並区にある都立西高校の授業で、9月26日、「なぜ今解散総選挙なのか」の問いかけに対し、班ごとに討論した生徒は「森友、加計問題が下火になって支持率が戻ったから」「北朝鮮の脅威がある中、自民党以外が政権を担うのは怖いと多くの人が思い、今なら勝てると考えたんじゃないか」との意見が発表されたという。
高校生の分析は、ものの見事に今回の解散の狙いをついているようにみえる。北朝鮮のミサイル発射を「国難」と呼び利用できたからである。

 「大義なき解散」「加計・森友疑惑隠し」「身勝手解散」etc… どんな批判をされようと、選挙は勝てばいい、北朝鮮の核実験やミサイルの発射があろうが、選挙に600億円もかかって無駄があろうが、そんなことより選挙に勝つことが最優先だ、支持率が回復し、民進党が混乱している今がチャンス…、ついに「解散権」は総理大臣にあると強弁して衆議院を解散し、今月末には投票日を迎える。

 解散決定までの過程でよく耳にしたのが「解散権は総理の専権事項」という言葉だ。
自民党がよく言う「民主主義のお手本」であるイギリスでは【2011年、解散権を制限する「議会期固定法」が成立。不信任案の可決か、下院の3分の2以上の賛成などがなければ解散できなくなった。ドイツでは解散を厳格に制限している。ワイマール共和国時代、ひんぱんに解散・総選挙が行われて国情が不安定となり、ナチスの台頭を招いた反省からだ。解散に関する判断は憲法裁判所の審査対象で、解散自体も戦後3回に過ぎない。フランスでも2000年以降は全て任期満了選挙だった。】(毎日新聞 9月22日)

 日本がいかに国際的にも特殊な政治であることはこれでよくわかる。 

 今の日本は、国内では国民の中にとんでもない格差、貧困など、国民を二分させる分断・亀裂を生んでしまった。心配事は山のようにある。加えて、国外では北朝鮮に代表される外国との間に生じる難しい事態。内にも外にも憂うべき問題がいかに多いことか。まさに「内憂外患」の状況にある。

 それだけに今回の選挙は、準備が整っていなくても1強独裁政治に別れを告げ、以前の優しい日本を取り戻す政治を作るチャンスなのだと前向きに考えるしかない。

 懐古趣味ではないが、以前の日本はこんな社会ではなかった。国民の間に意見の違いがあっても、相互に相いれない隔たりが生まれないように、お互いに譲り合って結論を導こうとしてきたし、裕福になりたいと思っても、他人を蹴落としてまでそうしようとはしなかった。

 仕事や立場による収入の格差をみても、たとえば、大卒初任給と社長の給与も今ほど格差はなかった。年収が1億円に達する社長や重役の数も、東京商工リサーチの調査によれば、07年6月末現在で企業数で221社、人数で前年の414人から457人に増え、過去最多となった。
さらに、【預貯金・株式など金融資産の合計から負債を差し引いた「純金融資産保有額」が1億円以上の世帯を「富裕層」と定義すると、1億円以上の金融資産を持つ「富裕層」は、日本の総世帯数の40分の1程度にあたる約122万世帯が富裕層に該当し、2000年以降で最多になったことが分かった。】(野村総研)。

 格差問題は山ほどある。【世界経済フォーラム(WEF)は26日付で、各国の男女格差(ジェンダーギャップ)を比較した今年の報告書を発表した。日本は世界144カ国中111位となり、主要7カ国(G7)で最下位。前年の145カ国中101位から大きく順位を下げている。】
カネ、カネ、カネのアベノミクスによって、日本はこんな社会になってしまった。
アベノミクスと銘打った経済政策は、異次元と称した金融緩和によって、財政出動強化による将来世代へのつけ回しを図るものだった。
冷静に考えてみよう。

 政権発足間もない13年には「アベノミクス三本の矢によるデフレ脱却」を大々的に掲げたほか、「女性活躍」が登場した。14年には「地方創生」、15年には「1億総活躍」といった言葉が表れ、今年は「人づくり革命」「生産性革命」が加わっている。

 確かにジャブジャブ流したお金によって、株高、円安効果で国民の一部は利益を得ている。しかし、そのために将来の世代には負の遺産を残してしまった。行き過ぎた金融緩和、国家財政の赤字によって莫大な借金をした。その残高は国内総生産(GDP)比で250%(16年度)、この数字はドイツの68%、アメリカの108%と比べても突出していることがわかる。しかも、借金の証書である国債を日本銀行が爆買い、財政破綻を隠してしまった。その額は420兆円、GDPの8割で、10割に迫る。先進国の中央銀行が2~3割と抑えているのに比べても異常である。この借金は今の若い世代・将来世代が支払うことになる。
政府は雇用環境は改善されたと豪語しているが、その中身には非正規社員の増加という現実がある。

【総務省の「労働力調査」によると、安倍首相の言う通り、就業者は12年の6280万人から16年は6465万人に増えた。景気が良くなり仕事が増えたように見えるが、就業者全体の働く時間(延べ週間就業時間)は、週あたり24・5億時間から24・2億時間に減少している。
就業者の増加は事実ですが、短時間就業者が増えただけで、雇用は全体として減少しているんです。有効求人倍率のアップも、少子高齢化などで働き手が減り、09年度を底に一貫して上がり続けているから、アベノミクスの成果とは必ずしも言えない。】(同志社大教授・服部茂幸)

何かがおかしい。今までの日本では見られなかった何かが起こっているのである。(次号へ)