鈴木勝利 コラム「語りつぐもの」

鈴木勝利 コラム「語りつぐもの」

「格差社会を脱して思いやりのある日本を取り戻す」~野党共闘で問われる労働組合と共産党~
2017/10/19
「語り継ぐもの」(128)(総選挙特集2の②)

 政治の世界では、表面に出る政策では大きな違いがなくても、その政党が国民のどこに軸足をおいて存在しているかが大事とされる。株の売買による一攫千金で実利を得た人々や富裕層のために軸足を置いて政策をすすめる政党もあれば、その一方で、男女であれ、正規・非正規であれ、社会に亀裂を生んでしまった格差に目を配り、その改善に軸足を置く政党なのか、私たちはそれを見分ける目を持たなければならない。

 だからこそ今回の選挙では、弱者の立場に立った政党として、国民の間に亀裂を生んだあらゆる格差の縮小に努める政策を打ち出す政党の出現が望まれているのである。

 社会に一度生まれた亀裂の解消には多くの力が必要になる。今はやりの「○○ファースト」は、アメリカ・トランプ大統領の「アメリカファースト」を見るまでもなく、国民の間に亀裂を深めるスローガンに他ならない。

 「アメリカファースト」ということは、アメリカ以外の国のことは考えなくてもいいのだ。だからメキシコ国境に移民を防ぐためとして壁を作ろうとするし、アメリカ国内の石油会社の利益を守るために、地球温暖化対策であるパリ協定からの脱退を宣言しても正しいのだ。
ならば、「都民ファースト」は、国内の地域間格差に目をつむり、「東京だけ良ければ」ということになる。
いろいろの国がすべて「自国ファースト」を叫べば、とんでもない世界に変貌してしまう。すでに北朝鮮は、「核を保有することによってアメリカと対等になれる」として「北朝鮮ファースト」を実行しているともいえるのだ。日本は「○○ファースト」の落とし穴に嵌ってしまうことだけは避けなければならない。汚い言葉の応酬に巻き込まれてはならない。

 社会の中にさまざまな亀裂が生まれてしまった今、大事なことは「国民生活」である。スローガンで目先をごまかす政治はもうごめんにしてほしいということである。
安倍政権発足間もない13年には「アベノミクス三本の矢によるデフレ脱却」を大々的に掲げたほか、「女性活躍」が登場した。14年には「地方創生」、15年には「1億総活躍」といった言葉が表れ、今年は「人づくり革命」「生産性革命」が加わった。
【人間は、長い文章は覚えられなくても、インパクトのある単語は覚えられるんです。長ったらしい政策の説明は有権者に残らない。だから政治家はスローガンをうまく使おうとする。中身があるか、結果が伴っているか。スローガンにのせられたら、きちんとした判断ができません。(略)メディアが地道に検証し、批判していくしかありません。「スローガンを叫ぶだけでは世の中は変わらない」(1月20日、参院本会議)とは安倍首相自身の言葉である。派手な言葉に踊らされないよう、心したい。】(近現代史研究家、辻田真佐憲)

 市場にお金をジャブジャブにして、ギャンブルにうつつを抜かして、年金財源、カジノで景気回復を夢見る経済政策から、野党には国民に根ざした政策を打ち出して欲しいと願わずにはいられない。

 はっきりしていることは、不公正な社会には絆は生まれないことである。あの東日本大震災で見せた助け合いなどの優しさを失ってはならない。
著名な大富豪ニック・ハノーアーはあるときの講演でこう警告を発している。
【私は皆さんがあちこちで耳にする上位0.01%の富裕層の一人で、つまり紛れもないプルートクラット (超富豪 政治権力者)です。(略)私は資本主義やビジネスを大きな視野で捉え、それによって鼻持ちならないほどの利益を得て、皆さんには想像もつかないような生活をしています。複数の住宅、ヨット、自家用機、その他もろもろ。(略)
私たち超富豪は、想像を絶するほどの強欲にまみれて暮らし、99%の一般国民をどんどん引き離しているからです。1980年、アメリカ国民の上位1%は国民所得の8%を占めていました。当時の下位50%が占めていたのは18%です。30年経った現在、上位1%が占めるのは国民所得の20%を越えており、下位50%が占めるのは12-13%です。この傾向が続けば、今後30年のうちに上位1%が占めるのは国民所得の30%を越え、下位50%が占めるのはたったの6%になります
お分かりでしょう。問題は格差そのものではありません。高度に機能する資本主義下の民主主義において、ある程度の格差は必要です。問題は今日の格差が史上最大であり、日々悪化しているということです。そして、もしこのまま富や力や所得を一握りの超富豪に集中させていたら、 私たちの社会は資本主義下の民主主義から、18世紀のフランスのような新封建主義へ変わってしまいます。それは革命前の農具を持った民衆が反乱した頃のフランスです。
私と同じ超富豪や大金持ち、バブルの世界で優雅に暮らす人々へのメッセージです。「目を覚ませ」、目を覚ましましょう。いずれ終わりが来ます。私たちがこの社会におけるあからさまな経済格差に対して、何もせずにいたらあの民衆が襲いに来ます。自由で開かれた社会で、今のような経済格差の拡大が長く続くはずがないのです。過去にも、続いた例はありません。極めて不平等な社会には、警察国家や暴動が付き物です。手立てを講じなければ、世直し一揆が私たちを襲いますよ。可能性の話ではありません。時間の問題です。その時が来たら、それは誰にとっても酷いことになりますが、特に私たち超富豪にとっては最悪です。】


 政治力学からいえば、巨大な一強政党に対して、野党が分裂していて勝てるはずはない。かといって、政策が一致しない野党共闘でもいいのかという問題が立ちはだかる。もし、いいというのであれば、民進党を解党してまで「希望の党」へ合流しようとしたのも良であるし、共産党との共闘も無条件に許される。

 しかし労働組合にとって共産党との共闘も悩ましい問題の一つだ。労働組合の総本山、連合が共産党との共闘に難色を示すのは今に始まったことではない。共産党は敗戦後から日本の労働組合を、自党の目的である共産主義革命の実現のために、その革命の先兵と位置づけ組合支配を目指していた。こうした状況に対して、「労働組合は組合員のためにある」と考える人々が立ち上がり、政党による組合支配を退け、「組合の民主化」を成し遂げ今日を迎えているのである。

 しかも今日、いまなお共産党員による組合支配の動きは続いている。それに反対し「民主的労働組合」を自任する連合や個別の労働組合が共産党に批判的なのは当然のことでもある。

 では、野党共闘を否定し、選挙で負けることも止むを得ないと考えるのが正しいのか。このまま日本を分断社会へさらに奥深く引きづり込んでしまう政権を続けさせてもいいのかである。

 公明党は小選挙区制の下で生き残るために自党の主張を曲げてまで自民党との連携を選択した。共産党も同様に、単独で生き残ることはできない。どこかの政党と連携しなければ存在価値もなくなる。もしその連携先として「立憲民主党」を選択するのであれば、連合が反対する最大の要因である「労働組合への支配・介入」を反省したうえで、党是である「共産主義革命」を否定し、「真の国民ファースト」政党への転換を図らなければならない。党の綱領や党名を変えるまでには多くの時を要するのは当然であるが、共産党を含めた「野党グループの共闘」を成立させるためには避けて通れない道のように思える。
自民党・公明党・維新の会・希望の党などが国会で絶対多数を握れば、憲法改正に着手するのは目に見えている。

 また、ホワイトカラーエグゼブションはもとより、解雇の金銭解決など、今よりさらに不公正な社会になることは間違いない。働く多くの国民にとって、日本を「暗黒社会」にしてもいいのか、思いやりのあるかつての日本社会を取り戻すのか、その選択が迫られているのである。