鈴木勝利 コラム「語りつぐもの」

鈴木勝利 コラム「語りつぐもの」

ヒトラーを礼賛する人々は日本をどんな国にしたいのか
2018/11/21

 今の日本には、社会の中枢を担う政治家や経営者などに「ナチス・ヒトラー」を礼賛する傾向があり、世界の国々から非難を浴びている悲しい現実がある。
 
 私たちは、第二次世界大戦でドイツのヒトラーが、悪名高き強制収容所アウシュビッツにおいてユダヤ人を大量に虐殺したおぞましい出来事を知っている。
 
 また、ナチス・ドイツによる占領下のオランダ・アムステルダムを舞台にした、ユダヤ人狩りのホロコーストを避けるために隠れ家に潜んだ8人のユダヤ人達の2年間(1942年~1944年)の生活を記した「アンネの日記」 が記憶に刻まれている。この「アンネの日記」の作者アンネ・フランクはユダヤ系ドイツ人で、逮捕された後に収容所送りとなりその収容所でチフスに罹り死亡する。
2年間の記録は、彼女の死後、父オットー・フランクによって「アンネの日記」として出版され、世界的ベストセラーになった。 
あらかじめ記しておくが、「アンネの日記」は【原本はオランダ国立戦時資料研究所に寄付され、そこで科学的調査が行われた。その結果、原本に使われている紙・インク・糊は当時のオランダで入手可能なものであり、原本自体はアンネ自身によって書かれたものであると最終報告されている。また1990年、ハンブルク地方裁判所は原本の筆跡がアンネ本人のものであると結論づけた】(ウィキペディア)ものである。
 
 さてヒトラー礼賛の一人目は、「タッカッスー!!」のテレビコマーシャルでおなじみの美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長である。
ヒトラーのプロパガンダ映画『意志の勝利』の上映に駆け付けた高須氏は、映画鑑賞前に「ハイル・ヒトラー」というタイトルでこう書き付けている。〈いやー いい映画だったよ 僕は確信した 誰が何と言おうが ヒトラーは私心のない 本物の愛国者だ〉と称賛。〈ナチスはがんばる女性の支援に積極的でした。スポーツも振興してました。僕は変わってません〉。〈ナチスが消滅してもナチスの科学は不滅〉。〈南京もアウシュビッツも捏造だと思う〉。
 
 ナチス礼賛を繰り返す高須氏に対して、こんな記事が目を引いた。07年11月10日の「ハフポスト日本版」によれば、【アメリカのユダヤ人団体「サイモン・ヴィーゼンタール・センター」が11月8日、アメリカ美容外科学会(AACS)が美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長を会員から除名したことを賞賛する声明を発表した。同団体のラビ・アブラハム・クーパー副会長によると、アメリカ美容外科学会から「高須氏が会の規則に抵触したことから、同学会から除名した」とする通知書が届いたという。同団体は8月ごろ、高須氏がTwitterにナチス・ドイツの指導者アドルフ・ヒトラーを称賛したり、ユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)を否定したりする発言を投稿したとして、アメリカ美容外科学会に対し同氏を追放するよう要請していた。アメリカ美容外科学会は形成美容外科専門医から構成されており、アメリカをはじめ、世界各国に約1600人の会員を有している。設立は1985年。高須クリニックの公式サイトには11月9日現在、高須院長が「アメリカ美容外科学会会員」であると記載されている。
この発表を受け高須氏は11月9日、自身のTwitterを更新。「追放されたというのは誤報だ。アメリカ美容外科学会からはまだ何の連絡もない」とコメントした。(高須クリニック公式サイトより)】
 
 さらに高須氏は「アンネの日記」も捏造(ねつぞう)との暴論を展開する。
〈アンネのサインと日記の字は全く違います。子供にあんな名文は書けません。アンネの日記はボールペンで書かれていますが、当時のドイツにはボールペンはありませんでした。ボールペンは後世の発明品です〉
〈南京大虐殺もアウシュビッツのガス室での虐殺も同じ構図だ。一方的な又聞き情報は疑うのが科学者の正しい姿勢だよ。僕を納得させてくれたら疑わない〉
 私たちは現代でもヒトラーの亡霊に悩まされている。「ドイツ人=アーリア人は優秀な人種だから、優秀でない人間は淘汰されて当然」だという「優生思想」は、2016年7月、神奈川県相模原市にある神奈川県立知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」で、元施設職員が入所者19人を刺殺し、入所者・職員計26人に重軽傷を負わせた大量殺人事件を起こした思想と同じである。
 犯人は、「障害があって家族や周囲も不幸だと思った。事件を起こしたのは不幸を減らすため。同じように考える人もいるはずだが、自分のようには実行できない」(捜査関係者談)と考えて犯行に及んだという。
この障害者への差別意識は、驚くことに日本政府にもあり、「病気や障害をもつ子どもが生まれてこないようにする」ために、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ことを目的に、敗戦後の1948年に旧優生保護法(~1996年)を制定し、障害者に対しては強制不妊手術が強制された。それが2018年1月、宮城県の60代の女性が、知的障害を理由に不妊手術をされたことは憲法違反だったとして国家賠償請求を起こしたことをきっかけに、全国各地で声があがり、実態の調査が進められている。
民主主義国家を自認する日本でついこの間起きていたのである。ヒトラーの忌まわしい優生思想は、こうして現代に至ってなお、私たちの影響を与え続けて、国の政策にさえなっていたのである。
 
 西武グループの堤義明氏は、「ヒトラーの人種差別がなぜ悪いのか」というツイートの疑問に答えてこう述べている。
【誤った思想で無数の人を殺戮し、それがいまでも人を傷つけているからだよ。ユダヤ人や障碍者は生きている価値がないとし、人種には優劣があるとしたこと。その思想の中では日本人も二等人種。それらのナチスの自分だけが優れているという誇大妄想が嵩じて未曾有の戦争に世界を巻き込んだこと。】(「堤義明のブログ」8月23日)
 
 高須発言にあった旧日本軍の「南京事件」についても、「あった」、「なかった」。「虐殺人数が多すぎる」、「いや30万人だ」という論争が続いているが、人数はともかく右翼の人々の主張「南京大虐殺はなかった」とする本を室内に置いている「アパホテル」のような動きも出てきている。
国内の政治に目を移してみよう。(以下「NewSphere」より抜粋)
 
【麻生太郎副総理兼財務・金融相がヒトラーに言及した発言をして批判を浴び、発言を撤回した。麻生氏は2013年にも、憲法改正の議論について、ナチス政権下のドイツの「手口を学んだらどうか」と発言して撤回している。これまでも「失言」が多かった麻生氏だが、またナチス・ドイツ、ヒトラーを例に出してしまった。首相まで務めたトップの政治家が同じ過ちを繰り返したことに人権団体はもちろん、海外のメディアも反応している。
「ヒトラーと比べることは、絶対に、決して議論に勝つための賢い策略ではない。20世紀で一番嫌われている、大量虐殺を犯したマニアックを引き合いに出すのを止められない日本の政治家にこれを知らせなければ」と、麻生氏の発言に呆れた様子なのがアジア・タイムズのウィリアム・ペセック氏だ。
 
 また6月末には、日本銀行政策委員会審議委員である原田泰氏がヒトラーの経済政策を正当化するような発言をしていることに触れ、ユダヤ人権団体サイモン・ウィーゼンタール・センターが発した非難声明を紹介している。同センターは、「日本の要人が、ヒトラーとナチス・ドイツが行なった一部のエレメント(政策など)に対して感嘆の念を表したのは初めてのことではない。一つひとつのこのような事件は、日本の近隣諸国と友好国の間に深い不安をもたらすものである」として、度重なる失言に、国内だけの問題ではなく外交にも影響するとして問題視している。】
 
 世界は今や、難民や移民をめぐって排他的な動きが強まり、俗に言う「右翼化が進んでいる」というニュースが連日報道されている。しかも国民の間に「分断」を生んでいるという。私たちは遠いヨーロッパやブラジルの動きだとあまり気にしないでいたら、実は日本でもジワジワと「右翼化」、国民間の「憎悪と分断」が忍び寄っているのである。
逆説的に言われるように、「民主主義こそが独裁者を生み出す」という「法則」は、今日でも現実に起こるものなのだろうか。
歴史における「真実」とはなんなのか。一部の個人が特定の思想で決めつけていいのだろうか。このような状況が続けば、気が付いたら日本は、昔の全体主義へ逆戻りしていたということになりはしないか。
そうならないことを祈るばかりであるが、祈っていただけではこの誤った流れは止められない。 
さて私たちはどうすればいいのか。