鈴木勝利 コラム「語りつぐもの」

鈴木勝利 コラム「語りつぐもの」

組合の意識は会社に比べて遅れているのか~労働組合役員の女性登用を考える~vol.103
2015/11/15

 世界にはいろいろの国際機関があるが、そのひとつに「世界経済フォーラム」というのがある。このフォーラムは、ビジネスや政治をはじめとする社会におけるさまざまな分野のリーダーが連携することによって、世界・地域・産業などの課題について検討や行動計画を立てるための国際機関として1971年に作られた。年次総会をスイスのダボスで開くので「ダボス会議」の名でよく知られている。会議に参加するのは、選ばれた知識人、ジャーナリスト、多国籍企業経営者、政治指導者などのトップリーダーなど、約2500人にのぼる。
 具体的な行動の中には、各国を詳細に分析・調査し、国としての競争力を順位づけした「世界競争力ランキング」と、男女の格差を指数化して各国を順位づけした「男女平等指数ランキング」が、毎年発表される。
2014年の「男女平等ランキング」では、1位は6年連続アイスランドで、最も男女の格差が少ない。悲しいことに日本は104位である。
この調査では、以下の4分野の男女格差を測定している。
①経済活動の参加と機会(給与、参加レベル、および専門職での雇用)
②教育(初等教育や高等・専門教育への就学)
③健康と生存(寿命と男女比)
④政治への関与(意思決定機関への参画)
これらの項目別にみると、日本は、経済活動の参加と機会が102位、教育が93位、健康と生存が37位、政治への関与が129位となっている。

日本で長く続いてきた「専業主婦」論や、会社における女性の処遇、あるいはセクハラを持ち出すまでもなく、日本の精神文化の中では「男女平等」が根づいているとはいえない。真の男女平等が根づかないうちに、日本社会はさらに新たな課題を抱えることになった。

 日本が少子高齢化・少子化社会になったことは誰でも知っているし、その対策として何をすべきかについてさまざまな意見が交されている。
 国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、日本の総人口は、2010年には1億2,806万人、2048(平成60)年には1億人を割って9,913万人となり、50年後の2060年には8,674万人になることが見込まれている。
総人口の減少は同時に私たち労働者にとって気になる生産年齢人口(15~64歳)も減少させる。生産年齢人口は2010年が8,173万人(総人口に占める割合は63.8%)であったものが、その後は減少し続け、2060年の4,418万人(同50.9%)の減少を待つまでもなく、すでに労働者不足に陥っている。
また、65歳以上の高齢者人口は、2010年の2,948万人から、2042(平成54)年に3,878万人でピークを迎える。その後は減少に転じ、2060年には3,464万人となる。しかし総人口が減少するので、総人口に占める高齢者が占める割合は、2010年の23.0%から上昇を続けて、2060年には39.9%に達する。
これらの数字を見るとき、企業にとって労働者不足の中でどのように人材を確保していくのかが課題になる。それは当該企業で働く従業員で構成する労働組合にとっても重要な課題である。
慢性的な人手不足への対策は、女性労働力と高齢労働力を活用するしかない。処遇制度の中にも男女平等の理念が確立されていなければならないし、あるいは高齢者に冷たい会社は、人手不足で存続自体が危ぶまれる時代を迎えるということになる。とくに、出生率が減少しているなかでは、女性が職場で活躍しつつ、同時に出生率を上げられる社会を作らなければならない。
将来を担う子どもの出生率は都道府県によって大きな差がある。最も出生率が低いのは東京都で、日本一子どもを育てにくいといわれるゆえんである。しかし一極集中といわれる東京都は、子供が生まれなくても地方から労働力が集まってくるので、全国の総人口に占める割合は高いままである。
 
 さて、女性労働力の活用について、ここに2015年2月に発表された日本生産性本部のアンケートの結果がある。これは、女性労働力の活用に対して、会社の意識と実態を調べたもので、非常に興味深い内容となっている。いくつかの項目を下記に取り上げてみると、
①女性の活躍が、「業績向上の要因の一つになっている」20.9%。「組織が活性化するなど変化がある」19.7%。
②女性社員の活躍を推進する上での課題は、「女性社員の意識」81.5%(男性上司は「昇進や昇格することへの意欲が乏しい」が79.3%、「難しい課題を出すと、敬遠されやすい」63.5%という見方をしている)。「育児等家庭的負担に配慮が必要」61.4%。
③経営者または管理職の理解・関心が薄い理由としては、「女性社員の育成の経験がない(または少ない)」63.5%。「女性に戦力としての期待が乏しい」51.1%。
「女性の数が少ない」49.6%。
④女性社員の管理職登用に関する数値目標の設定については、「設定を行っている」13.7%。「女性総合職の新卒採用に関する数値目標の設定を行っている」18.9%。
⑤女性活躍推進の取り組みで実現できているもの(3年前と比較)では、「女性社員の勤続年数が長くなること」86.0%。「セクシャルハラスメントが起きないこと」82.1%。「出産・育児明けに就業する女性社員が増えること」81.7%。「女性社員の離職率が低下すること」76.8%。
となっている。

 本稿で問題にしたいのは、女性の登用について各企業の大方の意識ははっきりしているのに対し、労働組合の役員への女性登用の動きが鈍いことである。
 もし労働組合を対象に前記のアンケートを行っていたらどうなっていただろうか。会社自体の女性活用の状況にはまだまだの感があるが、それでも企業なりに努力し、かつ意識も進んでいるように見受けられる。ところが、労働組合の女性役員への登用は、企業に比べて遅れているように感じられるのである。
 今後は女性労働者が間違いなく増大していくことが明らかな中で、労働組合役員への女性の進出が進んでいないとしたら、社会の中で労働組合はやはり異質な存在として見られてしまうであろう。
 女性組合員が少ない、あるいは、引き受け手がいない、さまざまな理由があるだろうし、苦労も多いことはわかるとしても、いつまでも現状のままということは許されない。
いまだ古い日本的慣習に影響され、「女性は家にいるべき」という精神文化を捨てきれない人々がいることは否定しないが、女性を尊重した上で活用を図らなければ、日本の人口減少はますます進み、企業の労働力が決定的に不足することで、事業の継続さえも危ぶまれることになる。
 労働組合自らが、「役員の何%は女性」という歯止めをかけていかなければ、女性役員が増えることは考えられない。それを達成できない労働組合がある企業には、女性労働者の入社もおぼつかないことも起こり得る。そうなってからでは遅いのである。