鈴木勝利の「つれづれ日記」

コラム

vol.3 漢字とひらがな
鈴木勝利 顧問
2008/03/15

 私事になるが私の二番目の娘がアメリカに在住している。世にいう国際結婚なのだが、たまにしか会えないながら、会えば日本語と英語の違いについて意見を交わす。

 こんな話だ。漢字は読み手の感情が移入される。たとえば、悲しい感情を表現するときに「かなしい」とひらがなで書くのと、「悲しい」と漢字で書くのとでは、どちらが悲しく感じるかということである。ひらがなの「かなしい」は前後の文章の脈絡から「悲しく」なるのであり、「悲しい」は文字そのものが読み手の気持ちを「悲しく」させる。漢字に読み手の感情が移入されるからである。

 もう少し例を挙げてみよう。日本社会は儒教の影響からか女性を軽視する風潮が強い。有名な例では「女は、幼ければ父に従い、結婚しては夫に従い、老いては子に従う」と、一生人に従う立場に立たされてきた。文明の進歩や人権尊重を柱とする民主主義の発達に伴い、男女同権が常識になったのはごく最近である。それでもなお、セクハラを法律で規制しなければならないほど人々の意識変化のスピードは遅い。そこで女偏の漢字を拾い出すと興味深いことが分かる。
 辞書をひもとくと女偏の漢字は意外に多いが、その中で印象がよい漢字を拾い出してみると、「好き」「嬉しい」「妃」「才媛」など少数で、どちらかといえば中立的印象を持っているのが、「媒酌人」「妙手」などである。この中でも「好き」は「女の子」だから「好き」なのであり、男から見た意味を持っているから必ずしもこのグループ分けが正しいわけでもないが。
 反対に悪い印象を意味するか持っている漢字は非常に多い。ざっとあげても「奴隷」、悪巧みをいう「姦計」、「姦淫」、「姦しい」、「妄想」、古い女を意味する「姑」、「妖怪」、結婚は夕暮れ(黄昏)に行われたから「婚」、家の中にいるから「家内」、掃除に使う箒との合わせ字の「主婦」、「いやだ・きらい」の「嫌悪」、「ねたみ」を意味する「嫉妬」etc。実に多いのである。

 言い換えれば日本社会には女性軽視が日常の漢字文化に浸透しているのである。余談だがある会合で、「日本ではこのように女性軽視が日常の文化に浸透しているので、真の男女平等社会を作るには大変力が要る。そのことを承知して女性運動を進めよう」と発言したら「差別」だと非難されたことがある。今もってなぜなのか納得できないのだが、いずれにしても男女平等問題は置くとして、日本語は漢字が持っている読み手に対する感情移入の大きさが特徴なのである。

 英語はどうか。簡単にいえば「アルファベット」の羅列である。 「ABCDEFG」を組み合わせて言葉が成り立つ。その組み合わせに感情が入ることはない。悪く言えば無味乾燥なのが英語だ。

 こうして漢字には読み手の感情が移入されるから、文章は漢字を多く使えばいいというわけではない。教育宣伝を担当する上では注意しなければならないのは、もう一つ「読みやすい文章を書く」という使命がある。皆さんが今読んでいるこの文章は、一行40字ある。もし漢字ばかりで文章が成り立っていたら紙面は真っ黒になり読み難いことおびただしい。俗にいう「戒名文章」、見出しで言えば「戒名見出し」になってしまう。
 一行40字の中に漢字をどのくらい使えば紙面が読みやすく感じるかも考えなければならない。段落が多過ぎても、ひらがなばかりでも読みにくい。そこには漢字の方が理解されやすい言葉と、紙面を明るく見せるひらがなの使用という微妙なバランスが求められるのである。

 そんなことを考えながら手元にある商業紙を手にとって見てみよう。なにか昨日までとは違う新聞の読み方が出来たように思えないだろうか。
 本文も参考になればと願う。