前号では「漢字とひらがな」について記したが、その中で「見出し」についてもふれた。漢字ばかりの見出しを「戒名見出し」と称すると話した。たとえばこうだ。組合の機関紙によく見られる見出しに、会議報告の記事があってメイン見出しが「○○方針決定」、サブタイトルは「○○委員会開催」とある。全部が漢字表記だ。もともと読みたいとは思っていない組合の機関紙を眼にして、戒名見出しを観た瞬間、読者は中身を読む気にならない。読まれない機関紙の典型的な例である。
一般の新聞や週刊誌は読者の読む気を起こさせるために見出しに力を入れている。今日も帰ったらそんな思いで新聞や週刊誌を手にして欲しい。しかし、読者の興味をそそるために得てして陥りやすい罠がある。スポーツ紙や三流週刊誌によくみられるのは、興味本位になりすぎ真実性を欠いたり、下品になることである。組合の機関紙では許されないことだ。読者に興味を抱かせながら、かつ品格を保たなければならない。
ところで一般の商業新聞には、もう一つ気をつけなければならないことがある。それは新聞社や記者がある意図を持って記事を書いたり、見出しをつけることである。
今アメリカでは大統領選挙の予備選挙が行われていて、ワシントンポスト紙やニューヨークタイムズ紙など、私たちも知っている有名な新聞が特定の候補者を支持することである。アメリカの新聞は日本と違って自分の社の考えを明確にして編集する。読者のそれを承知して購入する。
ところが日本では、新聞は「中立・公正」を旗印にして販売されるし、私たちも記事は客観的中立の記事だと思って読む。購買部数を増やすために「中立・公正」を標榜しているのが実情のようだが、実はここにも落とし穴がある。「中立・公正」だと思っていた新聞が、記事や見出しで特定の考え方を押し付けていることがある。アメリカのように始めから「この新聞はこういう立場に立っている」前提で読めれば、内容がどうであれ「あゝそうか」となって自分の考えとの違いが分かる。ところが日本では「中立・公正」だと思って読んでしまうから、それが真実と誤解してしまう。巧妙に世論誘導が行われているのである。
少し古い例になるが次の新聞の見出しを見てほしい。言うまでもなくアメリカで初めてスペースシャトルの打ち上げが成功したとき(1981年、昭和56年4月13日付各紙)の見出しだ。
A紙=(一面) 「ヒヤリの旅立ち、耐熱タイルが脱落、船体上部七ヵ所」
(社会面)「〞重荷〟背負い宇宙定期便、青空にさす暗い影、難産続き、初飛行も事故」
B紙=(一面) 「宇宙旅行、新時代幕開け。貨物室のドア開閉、重要なテストに成功」
(社会面)「さあ次は宇宙旅行だ! ハイヒールでどうぞ」「大歓声・口笛・子踊り、50万の市民〞米国の再生〟に熱狂」
C紙=(一面) 「順調に地球を周回、〞宇宙連絡船〟実用化へ、耐熱タイル7箇所脱落、影響なし」
(社会面)「ゴォーと青空へ一直線、あの〞ガガーリン〟から20年、飛んだ! 瞬間大歓声、シャトル・フィーバー100万人」
D紙=(一面) 「地球周回軌道に、荷物室ドア開閉に成功、〞実用〟有人飛行時代へ」
(社会面)「宇宙旅行の夢発信、12年、2兆円注ぎ、その瞬間どよめく100万群集」
さてこの四紙を全部読んでいる読者はまずいない。仮にA紙だけを読んでいる読者は、スペースシャトルの打ち上げをどのように受け止めるだろうか。何か問題だらけで心から喜べないに違いない。反対にB紙は手放しではしゃぎ過ぎの感を持ってしまう。
しかしどの新聞も嘘は書いていない。「耐熱タイルが船体上部七ヵ所で脱落した」のも、「難産続き」なのもいずれも事実なのだ。ただA紙がいう「ヒヤリの旅立ち」も「〞重荷〟背負い」も「青空にさす暗い影」も、いずれも記者か新聞社の主観なのだ。反対に、「さあ次は宇宙旅行だ! ハイヒールでどうぞ」もオーバー表現で主観といえる。
皆さんに知っておいて欲しいのは、新聞といっても必ずしも客観的で「中立・公正」な記事が書かれているわけではないことである。読者全員が真実を見抜く眼を持っていたら、こうした欺瞞はできない。
個の確立といわれるように、自分の意見を持つことが非常に重要な時代なのだから、マスメディアの長所・短所を熟知し、真実やことの本質を見る目を養う。難しいことだがその努力をすることが、21世紀のあなたを成長させる鍵になるのである。



