鈴木勝利の「つれづれ日記」

コラム

vol.8 核家族と村八分
鈴木勝利 顧問
2008/09/01

  前号で、昔はケンカはよくあったが、今でいうイジメらしきものはなかったことにふれた。
時代は変わるということなのか。考えてみると青少年の犯罪でも時代を反映していることがよく分かる。警察白書によれば、万引きする子供たちの動機も変化しているという。昔の貧しい時代に万引した子供の動機は「欲しいから」であり、生活水準が上がり始めるようになると「もう一つ欲しい」となり、近年では「面白いから」と開き直るらしい。テレビでは中高年層の万引きの急増を報道しているが、これも時代の反映といえるのだろう。世の中の変化は何も子供たちだけに現れているのではない。子供は親の鏡なのであり、良きにつけ悪しきにつけ時代を最も強く映し出すから、親のあり方も変わってきているということになる。

 警視庁少年課でまとめた資料を見ると、万引きした子供に対する親の態度で適切さを欠くものとしていろいろと例をあげている。

恥だ、みっともないと叱りつける親
おろおろして学校へだけは言わないで欲しいと、学校に知れることばかり気にしている親
万引きした品物を返せば、あるいは買い取ればすむと思っている親
昔、自分も柿泥棒をしたからといって、笑ってすませる親
父親には内緒にして、お母さんだけで何とかしようとしている母親
一緒に万引きした友人ばかり責める親

そして警察からの呼び出しに父親が来ることはめったにないという。もちろん平日で勤務中ということもあるが、家庭内では子供の教育を母親にばかり負わせている現状を垣間みる話だ。


 話はガラッと変わる。子供時代、父親とケンカするとまず母親が父の宥め役になるのだが、それでも怒りが収まらないと遂に家から外へ放り出されてしまった。
しばし庭先で泣きじゃくっていると、近所のおばさんが様子を見ながら我が家を訪問してとりなしてくれる。
 応対のために玄関の引き戸が開いた瞬間に家の中に飛び込むのがお決まりのパターンだったが、この近所づきあいに随分と助けられた。
隣家の留守中に雨が降ってくれば洗濯物を取り込んであげるのは当たり前のことであった。こうした近所づきあいが地域社会を作っていたのは間違いない。

 家の中も同様である。祖父母・両親との三世代世帯も当たり前の時代があった。我が家もその例に漏れないが、祖母から教えられる生活の知恵でも助けられた記憶も多い。

 しかしこの近所づきあいも多世帯家族の生活も、いいことばかりではない。プライパシーがない、煩わしいなどの不満が生まれる。
 そこで結婚を機に独立して新たな家庭を作る。核家族社会への変化だ。嫁・姑の心労もなく、隣近所との煩わしさもなくなり、あゝ核家族万歳! と言っているうちに、気がついたらすべて自分たち家族でやり遂げなければならなくなっている。
 育児も教育もすべてだ。周りのことなどにかかわりあっていられない。隣の部屋の住人が孤独死していても誰も気がつかない、人間関係が希薄化した社会が出現してしまった。

 人は自立し尊重されなければならない。同時に人は一人では生きられないのだ。

個人主義が発達しているアメリカの話。自立した個人や家庭がばらばらでは生きていかれない。その間を埋めるにはどうすればいいのか。個人主義を機能させるためにはこの問題を解決しなければならない。そうしたとき、人々は自然発生的にボランティア活動に取り組むことで解決を図った。

 農耕民族だから、共同体社会を通じて相互扶助を図ってきた日本社会は、共同体を破壊する道を選びながら、核家族社会がもたらした地域社会の崩壊の前に戸惑いを隠せない。
 個人が自立し尊重されながらも、一人では生きられない現実との微妙なバランスをとることをおろかにしてきた報いでもあるのか。

 日本には昔から「村八分」という言葉がある。
 村で個人や家をイジメている印象が強いこの言葉も、語源にさかのぼれば微妙な共同体社会の知恵かもしれない。共同体を守るための制裁ともいえる村八分は次のような仕組みになっている。
共同体社会には十の付き合いがある。出産・成人・結婚・病気・葬式・法事・火事・水害・普請・旅立ちの十である。
 この中でどんなに絶交しても完全に絶交してはいけないものを二つ作った。「火事」と「葬式」である。
 本人が死んだときと、火事は全財産を消失させるから助け合う必要があるからと、この二つは絶交しない。残りの八つを絶交するから「村八分」というのである。
 村八分は封建的制度のように見えるが、真実のところでは、人や家族の孤立を避ける手立てにもなっている。
 それに引き換え核家族化は、人間の孤独化を進める「村十分」社会の性格を持っているのかもしれない。


 今一人ひとりが自分の生活スタイルを見つめながら、この話をどのように感じるのか、時に考えるのも悪いことではないと思うが……。