「おんなへん」など「女」がつく漢字は百数十個あるそうだ。女と家で「嫁」、女と良で「娘」、女が掃くで「婦」「姑」「婚」「嫉妬」「妾」「安」「嫌」……。
男尊女卑・女性蔑視な社会だったことが伺われる。「歴史」を英語で言っても「History=His+story」だから、男尊女卑は日本に限ったことではないのかもしれない。
そんないわれなき性差別が存在した暗黒の時代を経て、1985年日本社会にも「男女雇用機会均等法」が成立し、翌年施行された。
その後の男女雇用の内実はともかくとして法律という外圧が導入されたことは、女性・男性を問わず日本社会にとってもよいことであった。
ただし、1985年にはもう一つの労働法関連の法律が表裏関係のように制定されている。
「労働者派遣法」である。当初の13業務も1996年には26業務と拡大適用され、1999年には原則自由化、2004年には製造業への派遣も解禁された。
ヒトを必要なときに必要なだけ供給できるようになり、合法的に派遣社員は拡大した。
実は女性が中心的に担っていた「パートタイマー」「アルバイト」「契約社員」などの非正規社員も1985年に16・4%だったが2016年には37・5%に激増した。
一部の女性を総合職正社員ともてはやしておきながら、低賃金の非正規社員をこしらえて総額人件費を調整するという無意識の力学が形成されてしまった。
今の格差拡大と貧困をさかのぼると1985年の表裏の労働法改革に突き当たる。
最近、安倍総理の掲げる「一億総活躍社会」の実現に向けた「働き方改革」はどうだろうか。
2017年3月28日、安倍総理が自ら議長となり産業界と労働界と有識者が集った「働き方改革実現会議」にて「働き方改革実行計画」が策定されている。
項目を挙げれば、「雇用の処遇改善」「賃金引上げと労働生産性向上」「長時間労働の是正」「柔軟な働き方がしやすい環境整備」
「病気の治療、子育て・介護等と仕事の両立、障害者就労の推進」「外国人材の受入れ」「女性・若者が活躍しやすい環境整備」
「雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の充実」「高齢者の就業促進」であり、実行計画まで示されている。
この内容は、従来の連合の方針や民進党の政策とも合致するものも多いのではないか。
今般の改革が、もし生産性向上という組織都合だけではなく、個人(ヒト)を主人公とした多様な働き方を認め合える社会づくりの一環であればそれは否定すべきものではない。
政府が唱える、少子高齢化に真正面から挑み、「希望を生み出す強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」の「新・3本の矢」を成功させ
「一億総活躍社会」を実現しようとする精神も、個人の幸せに根ざしているものなら異を唱えるべきではないだろう。
ただし、この議論の裏でもう一つの制度策定への布石が打たれていることも忘れてはならない。
「解雇の金銭解決制度」について話し合う厚生労働省の有識者検討会も同時に進められていることである。組織都合の論理が垣間見られるのである。
有期契約が無期契約になったり、限定正社員が増えるなど、どんなに働き方の選択肢が増えたとしても、金銭で解雇がしやすくなる社会は安心して働ける社会ではない。
雇用の流動化がまだ進んでいない日本においては、不安でしかない。格差拡大という社会は、社会保障も含めて最も経済効率の悪い社会でもある。
多様な働き方の選択の時代の地平には自己責任・格差・無縁社会が待っているかもしれない。2017年の働き方改革を表裏ある改革にしてはいけない。
共働き時代において、「家」に「女(性)」がいて「安(らぐ)」時代は終わったが、「やすらぎ」や「あんしん」自体の必要性は変わることはない。
美辞麗句の背後を洞察する労働組合の慧眼が問われているのである。
