ゆにおん・ネタ帳

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2018年

ダイバーシティを成功させるために押さえるべき3つの視点
中岡 祐子
2018/08/05
ダイバーシティ関連のセミナーが増えています。会社が「ダイバーシティ経営」を掲げたので、労働組合として、何をすれば
よいのかというニーズがあるようです。ダイバーシティは経営戦略であり、働き方改革を実現するための重要な戦術でもある
ため、押さえておきたいキーワードです。にもかかわらず、真の意味でダイバーシティが理解されないまま漠然と取り組んで
いる印象があります。今回、ジャーナルを執筆するにあたり、私なりに整理してみましたので、ぜひ以下の視点でチェックし
てください。逆にいうと、この視点が押さえられていなければ、ダイバーシティを進めようとしても、進んでいるのか進んで
いないのか、どこに向かっているのかもわからず、混乱するはずです。


◆◆ダイバーシティ経営を進めるに
あたってチェックしてほしい視点◆◆
※ダイバーシティのテーマにもいろいろありますが、今回は多くの企業の課題であるジェンダーの観点で語ります。


【スタート】
    トップの強いコミットメントがあるか
【ゴール】
    目標が明確で、それが組織に共有されているか
【プロセス】
    ヘルシーコンフリクトを歓迎する風土があり、それに対応するマネジメント力やコミュニケーション力があるか

【スタート】まず、トップの強いコミットメントがないとダイバーシティは進みませんので、必須条件です。さらには、それ
に継続性があるか、何か具体的なアクションにつながっているかまで含めてチェックしてください。具体的なアクションがな
いと管理職が動かないので、現場は変わりません。トップのコミットメント力が弱い場合は、ダイバーシティの理解を促す必
要があります。ダイバーシティを進めるか否かという議論になった場合は、すでに組織は多様性にあふれており、放置するこ
とは企業の競争優位性を失う可能性が高いことを説明してください。様々な違い(=強み)が埋もれると、イノベーションが
起こりにくくなります。

【ゴール】例えば、ジェンダーがテーマの場合、ゴールは「女性の活躍」です。企業経営としてどこをゴールとするか具体的
に決めてください。活躍の定義は、キャリア(人)の視点からみたら様々ですが、ダイバーシティ経営の視点からみると「指
導的地位に立つ人の割合を増やす」、つまり管理職の増加と捉えて差し支えないと思います。
女性活躍推進法に則って行動計画目標を掲げている組織は、その妥当性、進捗具合のチェックも必要です。セミナーに行くと、
誰も行動計画の目標を知らないといったこともあります。計画期間を過ぎて、古い目標のままネットなどで検索できる状態に
なっていることも避けたいものです。また、従業員の男女比が9:1であるのに、「3年後に管理職の男女比を7:3」にするといっ
た目標も妥当性に欠けると言えるでしょうし、「女性社員が全員研修を受ける」といった目標も、課題を前向きに捉えていな
いと思われても仕方がないでしょう。

【プロセス】研修会場であったある課長の話です。彼は異動で女性の部下が増えました。メンバーには、育児休暇から復帰し
たばかりで仕事に集中できない方がいて、彼女に対して攻撃的な人、そのような問題にしらけている人、そしてそれをおっか
なびっくり眺めている男性メンバーといったふうで、部の雰囲気はとても悪かったようです。前任のマネージャーはとても優
秀でしたが、ついぞその部署をまとめることができず、マネージャー交代になったそうです。就任時の彼の本音は「人のこと
をとやかく言う前に目の前の仕事をしてほしい」でしたが、傾聴ができたので、自分の気持ちは脇に置いてメンバーの気持ち
に寄り添うことにしたそうです。そのため面談が増え本来業務が遅れましたが、結果的に部署に笑顔が戻り、メンバーのモチ
ベーションが高まったそうです。

このように、同じ女性でも価値観は違いますし、違いが多いほど対立が起きます。イノベーションには、健全な対立が欠かせ
ません。しかし、日本の組織や日本人には対立を避ける傾向があります。これではイノベーションは起こりようがありません。
違いをアピールするアサーション力、違いを受け止める共感力、コンフリクトをマネジメントする力。ダイバーシティの仕組
みづくりやアンコンシャス・バイアス・トレーニング以外にも、そのようなコミュニケーション力やマネジメント力を同時に
鍛えていかないと、違いがもろ刃の剣となって組織は混乱するでしょう。
ダイバーシティを進めると、制度や仕組みは複雑化し、組織はまとまりや一体感に欠け、現場の管理者の負担が増えます。単
に違いを増やして、あとは現場にお任せでは、組織はストレスをためます。ダイバーシティは終わりなき旅といわれています。
旅にハプニングはつきものですが、ハプニングの連続も困りものです。しっかり準備して出発しましょう。

サッカーに見る組織運営
伊東
2018/07/22
ある組合役員の方から、組織運営に関する考え方を聞いていた時のことです。
しきりに「戦略を持って進めていきたい!」と繰り返していました。
一般的に戦略とは“特定の目的に対する枠組みや方向性”のことを指します。
行き当たりばったりではなく、目的に向かって進んでいく為には、確かな枠組みや方向性が欠かせないと感じていたのでしょう。


さて話は突然変わりますが、つい先日までサッカーのワールドカップがロシアで開催されていました。
日本惜しかったですね!ベスト8行けるかも、と一瞬でも夢を見られて幸せな大会でした。

よくサッカーでも戦略の話になります。
この場合は、勝つためにどのような枠組みや方向性を持つのか、ということになりますが、
仮に
チームの監督が「どういう戦略でワールドカップに臨むのか?」と聞かれた場合、どのような回答が正しいのでしょうか?

「私たちの戦略、それは決勝トーナメントでベスト4に入ることだ」
「今回の代表メンバーはこの23人。先発はこの11人で、こういうポジションで配置する。後半では状況に応じて○○のメンバーチェンジやシステム変更を考えている」
③「対戦相手は○○国なので、こうやって攻めてくるはず。グラウンドコンディションは悪くないだろうし、当日の気温や天候はこうなっている」
「最近の世界的な流れは、出来る限りボールを保持する時間を長くし、相手ボールになったら高い位置から素早く奪うこと。だから我々もそれで行く」
「選手のモチベーションは非常に高い。最後まで得点を狙い続けるだろう!」

どれも違和感があるような…それぞれ見ていきましょう。
明らかに戦略ではなく、目標です。目標が設定されなければ戦略も何もありませんが、目標設定=戦略ではないはずです。
戦略ではなく組織体制の話です。従って「役員体制は○○人、専門部は○種類あり、そのメンバーは誰と誰にする!」というのも戦略ではありません。
環境分析です。経済状況や社会情勢といった外部環境、企業業績や社員モチベーションといった内部環境を正確に把握するのは重要ですが、それは戦略とは言えません。
他者事例です。他組織のやり方を学び、何が上手くいっているのかを知るのも重要なことですが、それを自チームがそのまま実践できるとは限りません。
自チームなりの、「らしさ」を発揮しなくてはならないでしょう。

もはや精神論です。「どのように点を取るのか」という決め事が存在していれば、戦略の一部になるかも知れません…

というわけで、実はこの場合の戦略とは、①~⑤すべてを含んだ、一連の一貫した取り組みを指します。どれか欠けても上手くいかないでしょう。

そして最近、こういった組織運営のお話を伺う機会が増えていますが、最も難しいのは①であるように感じます。より正確に言えば「目標達成度の測定」です。
例えば「集会の参加率」であれば数字で測ることができますが、方針や理念に掲げるのは抽象的な状態(ex豊かでゆとりある生活)が多く、
どれほどそこに近づけたかの評価がしにくいのではないでしょうか。抽象的な理念に近づくため、
具体的に何をするのか、どこまでやるのかを適切に設定し、進めていくことが求められています。

組合員を活動に巻き込む、上手なお願いのコツ!
加藤瞳
2018/07/15

7月に入り暑い日々が続いていますが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。
先日の西日本豪雨により多くの方が命を落とされ、未だ行方不明の方も
多くいらっしゃいます。
災害に遭われた方のご冥福と一刻も早く行方不明者の方が発見され、
復興されますことを心よりお祈り申し上げます。

昨年、私の実家(秋田)も大雨の影響により床上浸水の被害に遭いました。
浸水してしまった1階の家電や畳は処分しなければならなかったのですが、
幸い家族全員無事だったのが救いでした。
災害はいつ起こるかわからない、今の生活が永遠に続くとは限らないことを
目の当たりにし、何事もない日常に感謝するとともに、「いつかやろう」と
先延ばしにしていたことに今年はチャレンジする年にしよう決めるきっかけ
となりました。
そして私は今、いつか取ろうと思っていた自動車免許を取得すべく教習所に
通っています!
しかもマニュアル車です。


さて、組合様ではそろそろ来期の役員が決まってきている頃ではないでしょうか。
新しいメンバーになり、新人の役員も期が始まって早々に組合員にお願いして
回ることが出てくるでしょう。
例えば、職場集会の参加を呼びかける、組合イベントの集客をする、
選挙の時期に支持者カードの協力をお願いする…
組合員がすんなり応えてくれる場合はいいのですが、なかなか応えてくれない
方にも粘り強くお願いしなければならないことが多々あると思います。

もしも、組合員にお願いすることで苦戦されている新人役員がいましたら、
【相手の「ノー」を「イエス」に変える7つの切り口】でアドバイスされて
みてはいかがでしょうか。


【「イエス」に変える7つの切り口】出展:『伝え方が9割』佐々木圭一氏

①相手の好きなこと
「イベントに参加してください」

「(組合の)運動会で日々のトレーニングの成果を出してみない?」
 
②選択の自由

「イベントの運営手伝って」

「イベントの司会か受付、どちらかお願いできないですか?」
 
③認められたい欲
「誰か誘ってくれない?」

「佐藤さんは社内で顔が広いから何人か声をかけてもらえないかな?」
 
④あなた限定
「職場集会に来てください。」

「他の人が来なくても、佐藤さんにだけは来てほしいんです。」
 
⑤チームワーク化
「飲み会の幹事やって」

「いっしょに幹事しよう!」
 
⑥嫌いなこと回避
「調査に回答して」

「今回の調査に回答しないと、個別に委員長から声がかかるんです。」
 
⑦感謝
「これからも現場の課題を教えてください。」

「これからも現場の課題を教えてください。ありがとうございます!」



組合活動では組合員とコミュニケーションを取ることが必須となってきます。
人とコミュニケーションを取ることに苦手意識を持つ人も、様々な個性を持つ
組合員とうまくコミュニケーションを取っていくことができれば、組合活動を
楽しく感じられることはもちろん、組合以外でもその能力が生かされ仕事や
私生活でも良好な人間関係のもとで物事を上手に進めていくことができます。

新人役員と一緒に来期の活動を活性化されていってください。
また組合活動でも「いつかやろう」と思っていたことを先延ばしにせず、
挑戦する1期としてもらえたら幸いです。


■老舗企業にいきる精神伝統
細越 徹夫
2018/07/08
 先日、なじみの温泉旅館に行ってみると閉店の紙が正面玄関に大きく張り出されていた。
「創業40年ご愛顧ありがとうございました・・・」。文字がなんとも言えない淋しさを誘
う。最近なじみの飲食店や雑貨屋さんが、軒並み店じまいする場面に出くわすことが増え
ている。
創業40年というと、開店時から働いている人であれば60歳を迎える頃合いで定年当たりで
あろうか。継承者がいなかったのか、経営不振なのか、いずれにしろ残念この上ない。
ひいきにしていた店が閉店するというのは、単にそのにあった店が亡くなり、そこの商品
が手に入らなくなるということだけでなく、店員とのかかわりや、そこで団らんした思い出
などそこを利用させてもらった側の記憶にも終止符を打つことになる。
そして、あったはずの店跡に真新しいコンビニや薬局が開店したりすると脳裡に「栄枯盛衰」
の言葉が過る。まさに時代の移ろいを感じさせる場面でもある。

あくる日、旅番組を見ていたところインタビューで紹介されたお店が創業80年を迎える
老舗という紹介をされていた。世間では企業40年説がいわれる中で、80年という業歴は
容易く築けるものではない。
とはいえ、京都に行くと老舗といえば江戸時代から続くお店のことで、200年以上の歴史
を持つお店のことを指すらしいが、そういったお店がいたるところに散見される。
京都イコール歴史というイメージを持つ自分にとって、京都にこそ老舗が一番多いものだ
と思っていた。ところが実は200年以上続く老舗というのは日本各地に点在するらしく、
件数的には東京が一番多いらしい。

さて、現存する世界最古の企業をご存じだろうか。その最古の企業は日本にある。
4000年の歴史を誇る中国でもなければ、中東やヨーロッパでもなく日本にあるのだ。
それら世界最古の企業を調査した資料によると、古い順のランキング10に日本の企業が
何と7つも名を連ねている。
東京商工リサーチによる全国「老舗企業」調査によれば、2017年の時点で創業100年以上
となる老舗企業は国内で3万3,069社にのぼる。
なかでも大阪にある社寺建築の(株)金剛組は、世界最古の企業として創業1400年の歴史
を誇る。
日本国内の企業総数は421万社あり、その中で大企業は2万社(0.3%)に満たない。
その一方で、老舗企業数が3万企業もあるという事実は驚くばかりである。

※世界最古の企業ランキング
 1位 金剛組(日本) 578年~(1440年)
 2位 池坊華道会(日本) 587年~
 3位 慶雲館(日本) 705年~
 4位 千年の湯 古まん(日本) 717年
 5位 法師旅館(日本) 718年~
 6位 源田紙業 (日本) 771年~
 7位 シュティフツケラー・ザンクト・ペーター(オーストリア) 803年~
 8位 パリ造幣局(フランス) 864年~
 9位 田中伊雅仏具店(日本) 885年~
10位 王立造幣局(イギリス) 886年~

ところで、フランスには創業200年以上の老舗企業だけが加盟できる「エノキアン協会」
というクラブがある。1981年に設立され、パリに本部を構えている。
このクラブには各国の老舗企業46社がメンバーで、日本からも8社の企業が加盟を認めら
れており、先のランキングにある「法師旅館」(エノキアン協会加盟企業の中では最古企業)
はその一つである。
エノキアン協会加盟の企業には、いくつかの共通点があるという。それによると、
『危機に対して柔軟で創造的な適応をなしうる点』であり、また、オリジナル商品の「品
質に対するこだわり」、「後継者の育成への努力」などである。このような共通点は、世代を
越えて企業が存続する条件ともいえるものだ。それに加え、過度な成長や企業規模を望まない
という点も、多くの加盟企業に共通しているとの指摘がある。

それら老舗といわれる多くの企業では、自身の長い歴史の中で、数えきれない程の苦難を
乗り越えて今に至っている。長い業歴には規模に関係なく学ぶことが多い。
ある冊子の記事で最古企業ランキングに入っている源田紙業株式会社の源田善朗氏が次の
ように述べている。
『日本人の共通認識として捉えられている「しきたり」や「習慣」の本来的な精神がいつ
のまにか正しく伝わっていないことが心配です。結局それは、「受け継ぐこと」と
「そうすべきでないこと」を正しく判断できていないからです。
時代を見据えながら変えていくべきところは変え、精神伝統といった根本的な部分は生きた
形で残していかなければいけないと思います』
1000年以上の歴史を持つ老舗企業経営者の言葉には、時代を越えた深い意味を感じる。

さて、いま私たちの働く現場では時間を尺度とした働き方や仕事内容そのものの見直しが
迫られている。労働者の多様化、AIの活用、社会保障の変化、すべての問題や課題は有機
的につながっており、その変化の最前線の一つが私たちの「働く現場」である。
「どのように働き、どのように生きるか」未来に向けて一人一人にその問いが投げかけら
れている。
生産向上を目指せば労働時間は短縮化することになるが、なぜか不安感はそれとは反比例。
AIの活用は極限まで生産性を向上させ利便性は最大になるはずだが、非効率であった仕事
を行っていた当事者は新たな仕事を見いだせない...
今までの常識が問い直され、今までの行いや価値観に大きな変化を求められるなかで、ま
さに源田氏の言う「受け継ぐこと」と「そうすべきでないこと」を正しく判断する洞察力を
もって、「受け継ぐこと」とは一体何なのか、
改めてその本質を考えるときに来ているのではないだろうか。


労働組合の社会的責任とは
大川 守
2018/07/01
SDGs(Sustainable Development Goals)とは

SDGsとは、全世界のあらゆる社会課題を解決するための「持続可能な開発目標」のことを指す。2015年9月の国連総会で採択された17のグローバル目標と169の達成基準で構成されている。
本稿では詳細は割愛するが、その背景には地球規模でさまざまな社会問題が進展していることがある。地球環境の急速な悪化、著しい経済格差や人権問題、大小の激しい紛争など。また日本で生活していると実感しにくいが、安全な食料・水資源の不足や未整備の社会インフラなど、世界には解決すべき社会課題が山積しており、いずれも人類の安全・安定・繁栄にとって持続可能性が危ぶまれる「不都合な真実」にあたるものだと筆者は解釈している。


企業の社会的責任(CSR)が問われている

持続可能な社会を実現するために、各企業はあらゆるステークホルダーに対して社会的責任を負っている。この考え方はすでに一般化しているが、あえて平易に表現するなら「自社の利益や特定顧客のメリットだけ追求するのはダメだよ」ということだろう。消費者・利用者はもとより株主・取引先・従業員さらには社会全体に対して貢献していくこと、責任を果たしていくことが求められているのだ。したがって環境に良い経営にはじまり、安全性、公正取引、情報公開、雇用維持・拡大や処遇の公正さなど、企業倫理に関するあらゆる分野で対策が講じられている。
それにもかかわらず、現実的には連日のように企業のコンプライアンス違反や不祥事、事件、事故、重大インシデントなどが報道され、企業経営のあり方に私たちが不信感を抱いてしまう事例があまりにも多いと感じる。


今日問われているのはSustainability(持続可能性)

グローバル化する社会においても、一企業や地域・自治体においても、希望に満ちた明るい未来を思い描きにくい現代において、むしろ不安材料ばかりに目が向いてしまうこともあるのは事実だ。誰もが根源的に求めているのは「持続可能な社会的発展」であり、個人の持続的成長や生活の発展であるはずだが、政治に期待するだけでは難しいことは自明の理といえよう。
ましてや多くの企業業績が回復基調とはいうものの、その持続的・永続的成長を確信できる産業はほとんどないのではなかろうか。
では、私たち雇用労働者は何を志向し、どうすればより良い未来を切り開いていけるのだろうか?


労働組合の社会的責任

私自身が多くの労働組合と関わる中で、組織の持続可能性を高めるために果たすべき責任があると確信するのは次の3つである。

①経営チェック機能を果たすこと
経営チェックといっても多岐にわたるが、事業計画と業務遂行、働き方、コンプライアンス、安全衛生などについて、計画やルールを完璧に整備しても現場レベルで運用チェックしない限り、順守は担保されない。企業の健全な持続的発展のためには不可欠な機能といえるであろう。

②人材育成機能の発揮
主体性があり、当事者意識の高い組合員を育成すること。また求められる役割や成果が変遷する中でも自分自身の能力を高め、周囲と調和しチームパフォーマンスを向上できる人材の育成が特に肝要である。

③職場自治機能の発揮
「自分たちの職場は自分たちで良くする」という職場自治精神のもと、職場環境の変化にも積極的に適応していく活動を推進。そして事業所(職場)レベルの労使協議で問題解決できることも求められる機能といえよう。


雇用の持続可能性という課題

組合員の雇用維持は労働組合にとって最も重要な使命であることは言うまでもない。労働条件の維持改善以前の必須条件といっても良い。しかし、組合員の能力や職業志向性と企業の期待ニーズの間のギャップが大きくなった場合はどうであろうか。雇用期間の長期化と技術革新・市場環境の変化の速さゆえ残念ながらミスマッチも増えゆくだろう。だからこそ、労働組合が目指すべき方向性を次のように考えている。
「労働市場で競争力の高い組合員が、企業へのロイヤルティ(帰属意識)の高さで結ばれている状態」
このような状態を実現するアプローチこそが究極の「労働組合の社会的責任」だと考えている。
豊かで安心できる社会の実現のために、私たちはお客様である労働組合と真摯に向き合い、その取り組みを応援し続けていきたい。
組合活動の効率化について考える
渡邊祐
2018/06/24
今、多くの組織が「働き方改革」の名の下に、さまざまな施策を立案し取り組みを展開しています。

私たちに求められているのは、今までよりも短い時間でより高い成果を生み出し、仕事と私生活における自身のスタイルを確立することといえます。そのための効率化施策として、新たな設備投資や仕事のムダ取り、各種制度の整備などが行われています。現場で展開されているさまざまな取り組みによって、私たちの働く環境は年々改善されています。また、柔軟な働き方を可能にする制度整備が進んだことで、さまざまな立場に置かれた社員が働くことを諦めることなく、持てる力を発揮できるようになりつつあります。


日々お客様を訪問させていただく中で運用面における課題は数多あるように感じますが、私たちを取り巻く環境は着実に良い方向へ進んでいるのではないでしょうか。

しかし、誤った理解で効率化を進めてしまうと本当に大事なことまで効率化という名の下にムダ取りの対象となってしまい、結果として新たな非効率を生み出し、目指す目的を達成できないということも起こり得てしまいます。
組織に所属する誰もが笑顔で働き続けることのできる良い会社を実現するために、労働組合はさまざまな取り組みを展開しています。働く私たち一人ひとりの価値観が多様化している現代において、そのニーズに応えるべく労働組合が行う業務も多岐にわたり、また、役員のなり手不足が積年の課題となっている中で、特定の人物に対する負担が増加し続けています。


だからこそ、数ある組合活動や業務の中から優先順位をつけて中長期的な展望の中での対応が必要となってきます。労働組合がいつの時代においても大事にしてきたこと、それは現場第一という考え方です。組合員に寄り添い、現場の声を集約することによって労使で良い会社づくりを進めてきました。
しかし、慢性的な人手不足や組合役員の若年化が進む中で、組合員との対話機会が減ってきてはいないでしょうか。労働組合の本来的意義や存在価値などの本質を理解せずに、効率化という一点で活動を整理してしまっては、組合員と共に描く理想の状態を実現することはできないといえるでしょう。

労働組合とは組合員一人ひとりのものであるからこそ、組合員との接触頻度は減らすことはできません。ただし、その手段・方法によって効率化を図ることは十分に可能だと考えます。労働組合が目指す目的を見誤ることなく、その成果を発揮するための支援を今後も続けていきたいと思います。
労働法が改定されるこれからがチャンス!
池上 元規
2018/06/17

みなさんの労働組合の「存在意義」はどのように定義していますか?
一般的には綱領、理念や規約に掲げているのではないでしょうか。
綱領や理念は設立より、変えずに普遍的な位置づけとしている傾向があります。

公然の事実として、この綱領、理念のもとになっているのが、労働組合法第2条。
労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する

おそらくみなさんの労働組合の理念や綱領に「労働条件の維持改善」「経済的地位の向上」などの文言が入っていることでしょう。
組合活動の実態としては賃上げ、労働条件の改善などにとどまらず、幅広い取り組みを行っています。

ただ、組合員から組合への率直な希望や興味関心事は「賃上げ、労働条件の改善」だと思います。
そこで、綱領や理念に掲げている「労働条件の維持改善」「経済的地位の向上」を成果として可視化できるのが労働協約ではないでしょうか。
労働協約は労働組合が存在しないと締結できません。会社と労働条件等について対等に協議できる制度です。
労働組合が無い企業では就業規則によってワークルールが定められています。
就業規則とは会社の憲法とも言われていまして、集団的・統一的に労働条件や服務規律などについて使用者が定めたワークルールとなります。
また、労働条件などのワークルールは就業規則に記載して周知する義務が会社にはあります。

ただ、ここが重要で、就業規則の作成と変更に際しては、
従業員の代表から意見を聞いて書面に記名押印して、労基署長に届けて出れば成立します。
もう少し踏み込んで書くと、従業員の意見の賛否は問わず就業規則は受理されます。

一方で労働協約は労使の合意なくして変更はできません。
労働協約の締結内容や協議事項については、労働条件・賃金以外にも協議することが可能で、原則法的制限が無いのが特徴です。労働条件等について会社側からの一方的な作成・変更を防ぐためには、労働協約の締結に向けて労使が対等な立場で協議し、
就業規則同等またはそれ以上の労働条件等を書面に残し、会社と集団的な労働契約することが必要です。

本来、労働組合は労働協約を締結することで存在意義が発揮されると言っても過言ではないでしょう。

しかし、多くの労働組合で労働法のセミナーを実施していますが、
参加者に「労使協定と労働協約」「団体交渉と労使協議」の違い、「労働契約、就業規則、労働協約」の効力の優先順位などを
質問してもあやふやな回答が返ってきます。
また、労働協約の存在や内容についても同様に質問すると、①~④ケースに該当することが多いです。

 ①そもそも周知されていないから知らない
 ②周知しているようだが保管場所がわからない
 ③存在や保管場所もわかるが見たことがない
 ④見たことがあるが、読んだことがない

そもそも労働協約を周知していない、周知していても認知されていない、見たことはあるが内容まではわからないケースが多いです。
このことからも周知の仕方や理解の促し方にも課題があるようです。

 <参考>
厚生労働省 平成23年労働協約等実態調査結果の概況
 ①労働協約の締結の有無  有り91.4% 無し8.6
 ②周知の方法(している86.4 %/していない9.9%)
・労働組合員全員に配布・・・・・・・・・・・・・・・・39.7

・職場ごとに回覧、提示・・・・・・・・・・・・・・・・40.4

・説明会の開催・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23.2

・電子的手段(インターネット、LANなど)の活用・・・・・32.8

・その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7.1

 調査時期:平成23630日現在 調査対象数:4086件 有効回答率は63.6

組合の三役からすれば、支部執行委員クラスなら最低でも労働協約の内容や基本的な考え方ぐらいは知っておいて欲しいところでしょう。
組合員からすれば「仕事も忙しくわざわざ労働協約なんて読んでいる暇はないですよ」と言いたいのかかもしれません。

これから「働き方改革」の取り組みと関連して、早ければ2019年4月より「時間外労働の規制」など
労働法の改正も予定されています。
多様な働き方やワーク・ライフ・バランスの実現に向けて各企業でもワークルールの変更や見直しがこれから進んでいきます。
これは組合員の働き方にも大きく影響し、重要な関心事項となり得ます。

組合員が組合に対して興味関心が無いと頭を抱えている現状に対して、
ワークルールの見直し、変更が増えるこの機に、組合活動の根幹である労働協約をもっと上手に活用しない手はないと思います。


 改めて労働協約の意味や価値を知らない組合役員及び組合員に理解を促し、
労働組合としての存在意義、労働組合の特権・メリットをもっとアピールすることで労働組合への理解が深まることでしょう。


「ビジョンストーリーマップ」のご紹介
荏本
2018/06/10

組合活動は、情報収集・情報伝達の繰り返しです。
頻度や中身の差はあれど、対話、会議、オルグ、広報活動など、組合にはさまざまなコミュニケーション活動が存在します。

しかしながら、組合役員の入れ替わり、情報ツールの不整備、組合員の帰属意識の低下などにより、
「決めたことそのものが認識されていない」「決めたことが遂行されない」「目的のレベルがばらばら」……
といった問題が発生しがちです。場合によっては毎年活動がリセットされている組織も。

組合活動をステップアップさせながら、情報のやり取りの方法・行動の継承を実現するために、
組合役員向けの「ビジョンストーリーマップ」というアウトプットをご紹介します。

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ビジョンストーリーマップ

◆主なねらい
1 個別の問題提起に終始せず、「目指す状態」に向かう組合活動を意識する。
2 できるだけ多くの組合役員が前向きに活動構築に関与する。
3.アイデアや議論の軌跡を可視化し、活動実践や後任への継承に活用する。

◆やり方
1 テーマを決める(組合全体、支部別、職場別、「労使関係」「働き方改革」などの課題別 etc)
2 そのテーマの目指す状態と達成目標時期を定める
3 目指す状態に至るまでに中間ポイントを2~3か所置く(例:半年後、1年後)
4 各ポイントの目指す状態を定める
5 各ポイント間で必要な活動・行動を出す★
6 全体をチャートで表現 ⇒ビジョンストーリーマップとして模造紙にまとめ★

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特に★部分を共同作業により、目指す状態(ビジョン・方針など)への意識が高まり、
活動構築の意味理解や組合役員同士の価値観共有などが期待できます。

また、研修カリキュラムとしてはもちろん、ビジョンストーリーマップをアレンジすれば
活動方針策定、組合員向け議案書、労使協議用の資料、職場集会用の資料などにも活用できるでしょう。

《お問い合わせください》
既に、いくつかの組合様で課題解決や方針策定に向けたビジョンストーリーマップづくりをお手伝いしています。
進め方・具体的なアウトプットイメージなど、詳細はお問い合わせください。

労使が目指す組織づくりに向けて
吉川 政信
2018/06/03
労使が目指す組織を一言でいうならば、労使双方が感じる「良い会社」をつくることだと理解できる。
「良い会社」の指標としては、財務諸表の結果が代表的な指標といわれるが、財務諸表の結果だけではその結果に至ったプロセスを読み取ることは難しい。プロセスとは、例えば労使が合意した事業計画がその通りに運営できたか、継続して事業を発展させていくための人材育成や業務改善を行うことができたか、また、職場で働く従業員が「やる気」や「活力」のある状態で働け、今後もポジティブな状態で働く意思も持てている状態か、などが挙げられる。それらを測る指標として、代表的なものこそが「従業員満足度」である。

昨今、労使で力を入れて取り組んでいる「働き方改革」は、労働生産性を高めるための施策といわれるが、生産性を高めるためには従業員一人一人の満足度を高める取り組みを意識しなければ、継続した改革は難しいと考えられる。また、働き方改革も含めて経営施策を変更する際に重要となるのは、数値化された目標だけではなく、むしろ施策を実現する目的が一人一人の従業員にとって何を意味し、組織としてどのような姿を目指しているか、その期待を示すことが大切である。この期待こそが戦略であり、戦略は労使でしっかりと対話・合意し、夢や希望を与えるものでなくてはならない。

2016年より厚生労働省が開始した「働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」で表彰されたSCSK株式会社の取り組みを通じて感じるのは、スマートワーク・チャレンジの取り組みの中で実施してきた有休・残業目標に達成した職場単位に、特別ボーナスの支給や20時間分の残業代を固定支給する制度など、インパクトのある制度の取り組みに世間からは強い印象を持たれている。だがその背景には、何に基づいて取り組むかを示したメッセージがしっかりと落とし込まれていることが大きく影響している。「社員の心身の健康を保ち、仕事にやりがいを持ち、最高のパフォーマンスを発揮してこそ、お客様の喜びと感動につながる最高のサービスができる」というメッセージに従業員が共感し、行動した結果と考えられる。

では、労使がどのようにして目指す姿に向けて取り組むことが効果的なのか。そのポイントは、

①(労使)トップの明確な従業員への宣言
②従業員満足(ES)の向上を目指した視点
③現場主導によるボトムアップ型の取り組み
④意識改革・業務改革の視点での職場活動の展開
⑤人材育成(管理職、組合員の育成〈研修、対話活動〉)


の5つが挙げられる。
最近では、①~⑤を推進するために多くの労使で力を入れているのが職場労使懇談会である。職場労使懇談会では、職場ごとに目指す姿を共有し、目指す姿に対する阻害要因があれば、その解消に向けた検討を行い、目標を定めて具体的な活動へと展開していく。
職場労使懇談会では自由闊達な意見を奨励しながらも、具体的な行動計画まで落とし込み、最終的には参加者の行動を促進するファシリテーション型の進行を行うことが効果的である。また、ここで大切になるのは、お互いの強みに着目し、その強みを活かした取り組みをコミットし、お互いに取り組むことを定め、実行することである。また、労使懇談会は一過性の取り組みで終わらせず、実行計画を描き、その経緯を定期的に共有しながら、進捗確認と改善を繰り返し展開していくことも大切である。さらにこのプロセスに関与することが職場課題解決能力を向上させ、人材育成へとつながる。労使対話の場をシステム化し、プロセスを共有しながら、目指す労使ビジョン達成に向け取り組みを強化する風土づくりを形成することで、今後も起こりうるさまざまな事象を乗り越えることにもつながると考える。
組合員の「不」を取り除くために
清水 典明
2018/05/26
多くの組合では、そろそろ今期の活動の総括、及び来期に向けての活動方針・計画の検討を始める時期ではないかと思います。
どういった活動が所属する組合員にとって有益なのか、組合訪問時に私もよく相談をいただきます。

企業活動の顧客満足の観点から、組合活動でもヒントになるのではということを記載します。
企業活動の顧客満足度向上の重要な考え方の一つとして、「不」を取り除くことがよく言われます。
不便、不安、不足、不快‥。
製品やサービスで各社が創意工夫をしながら顧客満足を高め、社会貢献と企業の発展に力を注いでいます。

組合活動の観点でも、組合員の「不」を取り除くことが活動への満足度を高めていくことにつながるのではないでしょうか。
・不信‥活動の目的が分からない
・不安‥会社との対立に巻き込まれるのではないか
・不快‥職場の実態を見ていない
・不必要‥労組があっても変わらない
・不満‥入っているメリットが見えない

上記の観点を考えてみると、今後どんな活動が必要なのかが明確になってきやすいのではないかと考えます。
ビジョンや活動の目的を定義し説明をしていく、会社と目指す方向は一緒で建設的な議論をしていることを伝える、
職場の声をしっかり把握し、解決に向けた取り組みをしていく‥ など。

弊社でも上記取り組みとともに、組合役員の皆さんの不安や不足といった「不」を取り除くために活動をしています。
お気軽にご相談ください。