ゆにおん・ネタ帳

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2009年

倒産の危機⇒社員を幸せにする⇒V字回復させた労使
小野
2009/01/11
世の中では暗いニュースが多いが、戦後焼け野原から復興し、バブル崩壊の未曾有の不況を乗り
越えた日本の底力を忘れてはならない。

これまでも数々の苦難と危機を、経営と社員が一丸となって乗り越えてきた数々の隠れたエピソード
が皆さんの組織にも存在するはずだ。

そのことを思い出すきっかけとして、過去に労使一丸、経営危機を乗り切った「名古屋ターミナルホ
テル」のエピソード(一部)を紹介したい。

<経営危機によるリストラ>

今から10年ほど前、すぐ近くに高層ホテルが開業することとなり経営危機に陥った。

会社が主導した経営計画は頓挫し経営陣が総退陣する中、総支配人となった柴田氏(過去、組合専従
を20年経験)は労働組合と一丸となってホテルの再生を目指した。

事業のフレームを換え、婚礼などの宴会場を閉め宿泊に特化することで再起をはかることにした。
しかし売上げ規模は40億円を15億円に縮小するそのために社員数150名を50名にしなければならない。

この150名を50名に縮小するに当たっては、1名の解雇も出さないことを条件にした。
2年がかりで従業員150名と1人につき約1時間を5回ずつ、計約700時間にわたる個別面談を行った。
面接はどれもこれも互いに涙でぐしゃぐしゃになってしまうような状態だった。

この時『要る人・要らない人』を分けないことにした。全員が要る人でなければならない。
もし選別すれば、全員のモチベーションもチームワークも低下してしまうからだ。

<経営の苦しい時期に一人当たり10万円を教育へ>
最初転籍を希望する人が4名しか現れなかったのだが、それは社員が他社でやっていく自信がないから
だと分かった。

そこで、1名あたり10万円×150名=1,500万円を投じて一流のホテルマンとしての自信がつくような研
修を実施した。転籍していく人も残る人も含め全ての人にである。

だんだん自信を取り戻していき一人ひとりの自発的な意識改革が、転職を前向きに考えるものや、
残って会社をも変えていこうとするための原動力となった。

そこで一気に転籍者を募って、希望者と一緒になって受け入れてくれそうな会社を何十社も懸命に周り
全員の受け入れ先を確保した。

残った仲間は転籍する道を選べば、もっと給料が上がり、しかも大きな会社に行けるにも関わらず残る
道を選んだのだ。

<活力の源泉は人である>

「会社側の経営者だけで作った計画がだめなら、今度は自分たちでやろう。」

組合も経営者の責任のみを追及せず、積極的に経営に参画していこうと「経営改善プロジェクト」に組合
役員が参画した。

まず20数年間続いた経営理念を刷新し、従業員全員で明確な組織目標を考えた。
真剣に議論し「すべての活力の源泉は人である」を経営理念とした。

我々の財産は人しかない。『人』こそが全ての活力の源泉となると考えるに至ったのである。

夢は「日本一のホテルをつくろう」と掲げた。

経営の第一目標を「私たちは日本一の幸せな従業員とその家族をつくります」とした。

まず「日本一幸せな従業員をつくらなければ、日本一のサービスができる従業員にはなれない。
だからスタッフが幸せでなければ、お客様を幸せにすることはできない」と考えたからだ。

以後、労使一体となって具現化していった。

・汚かった社員食堂をまず綺麗に改装して、食事もレストランで出すものと同じものに変更
 (お客様に出す料理を、社員も味わっているからこそ、心底から料理がおいしいと自信をもてる)

・毎月2回の労使懇談会(労使協議)

・年4回の全従業員参加で事業計画をつくるオールスタッフミーティング
 (全員で事業計画を作ることで、個々の参画意識、サービスや業績に関する姿勢に責任感が生まれた。)

・毎年12月30日に、従業員とその家族・応援して下さる多くの人達を招いて「感謝の夕べ」を開催
 「身内を感動させられない、身内に心の底からありがとうと言えないやつが、お客様を感動させ
  たり、本音でありがとうと言えるわけがない」これがサービスの原点になっている。

・毎月「夢・ありがとう賞」お客様からほめられたこと、感動を与えてくれたことへの表彰

・毎月全従業員の「誕生会」開催

 etc

<組合の心意気>

これから苦しくなると分かっていて、ここで一緒にやっていきますと決めたメンバーなので、みんな腹
をくくっていた。

組合では10%基本給を下げることも了承した。
さらに、全員で作成した経営計画を実施しはじめたにも関わらず、あと少しのところでまたもや赤字決算
となりかけた際に、組合は一時金をゼロとし要求書を出さないという勝負に出た。

柴田GMからは一時金の要求書を出せと強く言ってきたが、組合は出さないことを決め、なんとか800万円
の黒字が出ることになった。
この危機を乗り切ったという体験に名古屋ターミナルホテルの労使の全てが集約されている。

組合幹部は言う『結局、経営の中身も明らかにされているわけだし、儲かる・儲からないも全部自分達で組み
立てていった数字だから経営の事情もよく分かるのです。企業として存続の危機だったのです。その時組合
は絶対黒字を出すということで、一時金の要求を見送ったのです。
近い将来かならず回復して自分たちに返ってくるという感覚があったからかもしれません。』

さらに、この800万円の利益の中からボロボロのスニーカーを履いてくるアルバイトを見るに見かねて、なけ
なしの利益から全従業員にホーキンスの靴を買ってあげることを決めた。

組合役員にしてみれば、組合員の一時金を削っておいてアルバイトに靴を配るのだから、従来では考えられ
ない話だ。しかしそれが当たり前のようにできる人になっていたと組合幹部はいう。

<マニュアルを超えたサービスへ>

仕事では上司のOKがなくても自分がよいと思うサービスを自ら行ってよい、何のブレーキもない。
それも失敗してもよい「8勝7敗でよい」という風土になった。

やがて何もやらないことこそ罪になるという風土が根付くようになり、アルバイトも含めた従業員
が次々と自由に新しいサービスを始めるようになった。

それら自発的なスタッフの行動が、数々のすばらしいエピソードを生みだした。

・客がホテルに来る道で落としたイヤリングを、深夜懐中電灯で必死に探し見つけ出すスタッフ
・豪雨で深夜帰宅不能になった街の人々をホテルロビーに無料で招きいれ食事を振舞うスタッフ
・競馬に行きたいというおばあちゃん客の話を聞き、夜勤明けに連れて遊びに出かけるスタッフ
・体にハンディーのあるスタッフを自分たちがカバーするから是非雇って欲しいと懇願するスタッフ
Etc

(すばらしい人が生み出す数々のすばらしいエピソードの一部が下記に掲載されている。)
http://www.associa.com/nth/special/occasion_intro.html


我々主催の研究会で、何度か訪問してお話をお聞きしたが、いつも涙が止まらないほどの感動と
気づきを得る。

このような、人を幸せにする会社だからこそ、顧客に心底支持され栄えるのだと思う。
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以上 、何かの折りにネタとして使っていただければ幸いである。



「非合理的思い込み」に支配される辛さ
大川
2009/01/04
明けましておめでとうございます。
とはいえ・・・
百年に一度と言われる世界規模の経済不況の影響を受け、とても本心から「おめでたい」という気持ちになれない方も多いことでしょう。急転直下の業績悪化で賃上げどころか正規・非正規の従業員雇用に対する不安も増している企業が増えています。そのような中「春闘要求案をまとめていかなければならない立場」の組合役員の多くは、お正月の餅でさえ胃が重たくなる思いなのではないでしょうか。

実態のある「不安」と想像上の「不安」

今ではBEST主義(明るく楽しく元気よく考える)の実践を自負する筆者も、元来は情けないほどの小心者。心配性と不安気質の合併症状を引き起こすことが多かった。「今現在」のことで心配したり悩んだりするならまだしも、「将来、不安に陥る状態にならないだろうか?」と、つまり「不安になるかもしれないこと」に対して不安になっていたものである。だからこそ、経営陣からの発言内容を予測し、組合員からの冷ややかな反応に思いを巡らせ、悩む気持ちがよく分かる。また連合の方針やら産別の掲げる賃上げ要求基準と我が社・我が労組の実態とのギャップにストレスは増すばかりとの声もよく耳にする。

アルバート・エリスのABC理論

小心者で不安症候群の筆者が大いに影響を受けたものの一つに、アメリカの臨床心理学者アルバート・エリスのABC理論がある。このロジックに基づいて課題を捉えると全く違う心理状態になるから不思議だ。以下、確認のために概要を転載する。

理論
人の悩みは出来事そのものではなく出来事の受け取り方によって生み出されるものであり、受け取り方を変えれば悩みはなくなるというのが基本的なスタンスである。そして、それはABC理論と非合理的思い込み(イラショナル・ビリーフ)に集約される。

ABC理論
A:Activating event (出来事)
B:Belief (信念,固定観念)
C:Consequence (結果)

出来事があって、結果があるのではなく、間にビリーフによる解釈があるという考え方である。とくに非合理な考えによる解釈をイラショナル・ビリーフと呼び、それを粉砕することを目的とする。

イラショナル・ビリーフ
「失敗してはならない」「すべての人に愛されなければならない」「世の中は公正でなければならない」などという思いを持っていると、それらが満たされなかったときに悩むことになる。イラショナル・ビリーフは以下のような特徴がある。
・事実に基づいていない
・論理的必然性がない
・気持ちを惨めにさせる
イラショナル・ビリーフは願望(~ねばならない、~であって欲しい)と事実を混同することから起こっている。このような混同を論理的に否定し、ラショナル・ビリーフ(合理的信条)へと変えてゆくのが論理療法の役割である(「文章記述を書き換える」という表現をする)。ラショナルビリーフは
・事実に基づいている
・論理性がある
・人生を幸福にする
ラショナル・ビリーフの例は「失敗しないほうがいいが人間だから失敗することもある。失敗から学ぶべきである」「人に愛される・愛されないとは関係なしに具体的になにかをするべきである。その結果人が愛してくれればありがたいし、愛されなくとももともとである」などである。
端的に言ってしまえば、「~ねばらならない」ではなく「~であるにこしたことはない」という文章記述の書き換えである。
* 以上、國分康孝氏「カウンセリングの理論」(誠信書房)より転載

この非合理的思い込み(ラショナル ビリーフ)は、注意しないといくらでも起こしてしまう。それに気づきさえすれば筆者の場合は大抵の不安や悩み、ストレスは解消されていくのでお薦めしたい。

労働組合の非合理的思い込みとは

例を挙げるとキリがなくなるので、典型的なものを一つ
 「労働組合は賃金、労働条件の維持・改善を要求し実現するべきである」
さらに言えば、
 「会社の立場で組合員に説得するのではなく、組合員の考えを経営に強く伝えるべきである」
これらの組合員にとってのイラショナルビリーフをよく理解できているからこそ、労働組合役員は悩み、不安になり、胃が痛くなることもあるのではないかと考えている。
先のラショナルビリーフ(合理的信条)で考えるとどのようになるであろう。おそらく、
 「労働組合は賃金、労働条件の維持改善を要求することを旨とするべきであり、実現できるに越したことはない。しかし、健全経営による業績向上と雇用の安心が優先され、働きがい・やりがいといった『心の報酬』を犠牲にしていいものではない。」
そして、「組合員の考えや思いが経営にしっかり伝わるためにデータを集め、現場の声を伝えていくこと。また、経営の考え、意思、状況が組合員にも理解されるように情宣活動や情報伝達をすること。」
これらに尽きるのではないだろうか。

辛い春闘をチャンスと捉える

前述のように「非合理的思い込み」から「合理的信条」へ発想を転換すれば、組合役員としてなすべきことが何なのか見えてくるのではないだろうか。そして、「いかに組合の立場で会社に主張しているか」を見せることに思い悩むことなく、「組合員を第一に考えるからこそ経営を支えていこう」というシンプルなメッセージを発信できるのではないだろうか。
世界経済を徹夜で議論して得られることより、組合員の気持ちに思いを巡らすことのほうがはるかに大きな果実を得られると信じている。

いかがでしょうか。少しは胸のつかえと胃の重さから開放されたでしょうか? 効果を感じた方は、もう少しだけ「お屠蘇(とそ)気分」を楽しみましょう。 えっ、何故って? あなたの表情が冴えないと、来期の組合役員のなり手がいなくなるからですよ・・・