世の中では暗いニュースが多いが、戦後焼け野原から復興し、バブル崩壊の未曾有の不況を乗り
越えた日本の底力を忘れてはならない。
これまでも数々の苦難と危機を、経営と社員が一丸となって乗り越えてきた数々の隠れたエピソード
が皆さんの組織にも存在するはずだ。
そのことを思い出すきっかけとして、過去に労使一丸、経営危機を乗り切った「名古屋ターミナルホ
テル」のエピソード(一部)を紹介したい。
<経営危機によるリストラ>
今から10年ほど前、すぐ近くに高層ホテルが開業することとなり経営危機に陥った。
会社が主導した経営計画は頓挫し経営陣が総退陣する中、総支配人となった柴田氏(過去、組合専従
を20年経験)は労働組合と一丸となってホテルの再生を目指した。
事業のフレームを換え、婚礼などの宴会場を閉め宿泊に特化することで再起をはかることにした。
しかし売上げ規模は40億円を15億円に縮小するそのために社員数150名を50名にしなければならない。
この150名を50名に縮小するに当たっては、1名の解雇も出さないことを条件にした。
2年がかりで従業員150名と1人につき約1時間を5回ずつ、計約700時間にわたる個別面談を行った。
面接はどれもこれも互いに涙でぐしゃぐしゃになってしまうような状態だった。
この時『要る人・要らない人』を分けないことにした。全員が要る人でなければならない。
もし選別すれば、全員のモチベーションもチームワークも低下してしまうからだ。
<経営の苦しい時期に一人当たり10万円を教育へ>
最初転籍を希望する人が4名しか現れなかったのだが、それは社員が他社でやっていく自信がないから
だと分かった。
そこで、1名あたり10万円×150名=1,500万円を投じて一流のホテルマンとしての自信がつくような研
修を実施した。転籍していく人も残る人も含め全ての人にである。
だんだん自信を取り戻していき一人ひとりの自発的な意識改革が、転職を前向きに考えるものや、
残って会社をも変えていこうとするための原動力となった。
そこで一気に転籍者を募って、希望者と一緒になって受け入れてくれそうな会社を何十社も懸命に周り
全員の受け入れ先を確保した。
残った仲間は転籍する道を選べば、もっと給料が上がり、しかも大きな会社に行けるにも関わらず残る
道を選んだのだ。
<活力の源泉は人である>
「会社側の経営者だけで作った計画がだめなら、今度は自分たちでやろう。」
組合も経営者の責任のみを追及せず、積極的に経営に参画していこうと「経営改善プロジェクト」に組合
役員が参画した。
まず20数年間続いた経営理念を刷新し、従業員全員で明確な組織目標を考えた。
真剣に議論し「すべての活力の源泉は人である」を経営理念とした。
我々の財産は人しかない。『人』こそが全ての活力の源泉となると考えるに至ったのである。
夢は「日本一のホテルをつくろう」と掲げた。
経営の第一目標を「私たちは日本一の幸せな従業員とその家族をつくります」とした。
まず「日本一幸せな従業員をつくらなければ、日本一のサービスができる従業員にはなれない。
だからスタッフが幸せでなければ、お客様を幸せにすることはできない」と考えたからだ。
以後、労使一体となって具現化していった。
・汚かった社員食堂をまず綺麗に改装して、食事もレストランで出すものと同じものに変更
(お客様に出す料理を、社員も味わっているからこそ、心底から料理がおいしいと自信をもてる)
・毎月2回の労使懇談会(労使協議)
・年4回の全従業員参加で事業計画をつくるオールスタッフミーティング
(全員で事業計画を作ることで、個々の参画意識、サービスや業績に関する姿勢に責任感が生まれた。)
・毎年12月30日に、従業員とその家族・応援して下さる多くの人達を招いて「感謝の夕べ」を開催
「身内を感動させられない、身内に心の底からありがとうと言えないやつが、お客様を感動させ
たり、本音でありがとうと言えるわけがない」これがサービスの原点になっている。
・毎月「夢・ありがとう賞」お客様からほめられたこと、感動を与えてくれたことへの表彰
・毎月全従業員の「誕生会」開催
etc
<組合の心意気>
これから苦しくなると分かっていて、ここで一緒にやっていきますと決めたメンバーなので、みんな腹
をくくっていた。
組合では10%基本給を下げることも了承した。
さらに、全員で作成した経営計画を実施しはじめたにも関わらず、あと少しのところでまたもや赤字決算
となりかけた際に、組合は一時金をゼロとし要求書を出さないという勝負に出た。
柴田GMからは一時金の要求書を出せと強く言ってきたが、組合は出さないことを決め、なんとか800万円
の黒字が出ることになった。
この危機を乗り切ったという体験に名古屋ターミナルホテルの労使の全てが集約されている。
組合幹部は言う『結局、経営の中身も明らかにされているわけだし、儲かる・儲からないも全部自分達で組み
立てていった数字だから経営の事情もよく分かるのです。企業として存続の危機だったのです。その時組合
は絶対黒字を出すということで、一時金の要求を見送ったのです。
近い将来かならず回復して自分たちに返ってくるという感覚があったからかもしれません。』
さらに、この800万円の利益の中からボロボロのスニーカーを履いてくるアルバイトを見るに見かねて、なけ
なしの利益から全従業員にホーキンスの靴を買ってあげることを決めた。
組合役員にしてみれば、組合員の一時金を削っておいてアルバイトに靴を配るのだから、従来では考えられ
ない話だ。しかしそれが当たり前のようにできる人になっていたと組合幹部はいう。
<マニュアルを超えたサービスへ>
仕事では上司のOKがなくても自分がよいと思うサービスを自ら行ってよい、何のブレーキもない。
それも失敗してもよい「8勝7敗でよい」という風土になった。
やがて何もやらないことこそ罪になるという風土が根付くようになり、アルバイトも含めた従業員
が次々と自由に新しいサービスを始めるようになった。
それら自発的なスタッフの行動が、数々のすばらしいエピソードを生みだした。
・客がホテルに来る道で落としたイヤリングを、深夜懐中電灯で必死に探し見つけ出すスタッフ
・豪雨で深夜帰宅不能になった街の人々をホテルロビーに無料で招きいれ食事を振舞うスタッフ
・競馬に行きたいというおばあちゃん客の話を聞き、夜勤明けに連れて遊びに出かけるスタッフ
・体にハンディーのあるスタッフを自分たちがカバーするから是非雇って欲しいと懇願するスタッフ
Etc
(すばらしい人が生み出す数々のすばらしいエピソードの一部が下記に掲載されている。)
http://www.associa.com/nth/special/occasion_intro.html
我々主催の研究会で、何度か訪問してお話をお聞きしたが、いつも涙が止まらないほどの感動と
気づきを得る。
このような、人を幸せにする会社だからこそ、顧客に心底支持され栄えるのだと思う。
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以上 、何かの折りにネタとして使っていただければ幸いである。