「感働塾」という組合リーダー育成塾で、長野県のアルプスの谷間に佇んでいる食品会社を訪問させていただく機縁を得た。
「現地」まで足を運び、「現場」の人をと対話をし、「現物」に触れて、初めて、生の「現実」が実感できた。
たくさんの感動をいただいた。
文章ではお伝えにくいが、少し変わった、でも偉大なる経営のエピソードを想い起こすまま、列挙する。
・会社は株主のためのものではなく、まずは社員のものである。(大原則)
だから「夜勤はさせない」「海外赴任はさせない」「上場はしない(株主にふりまわされない)」
・「会社の社員は家族なので、○○ファミリーと呼び、とにかく信頼しています」
例えば、社内の申請書類は極めて少ない。従業員が提出する交通費清算などをチェックする人はいない。・・・「だって、家族に悪いことをする人はいませんから」
・土日に、会社の清掃道具や大型車など会社の備品を借用する個人がいる。会社も認めている。
・社員旅行の参加率は98%である。みんな楽しみにしている。
・土日にも、社員同士で遊んでいる人が多い。
・毎朝、会社の周りの清掃から仕事が始まる。
自分の周りだけではなく、人のために清掃しているので、居酒屋に社員同士で行っても、食べ残しなし。皿をきれいに並べてから退出する。
・ジョブローテーションは少ないが、常に組織横断的な協力関係はある。
「研究所が繁忙期の製造を、総務が集中時のコールセンターを、事務スタッフが繁忙時のレストランを臨機応変に手伝っています」
・本社や研究棟を建てる際、敷地の真ん中に駐車場をつくる。
「だって、本社や研究棟を美しい樹木や清流のできるだけ近くにしたかったから」
・本社オフィスはコストセンターではない。快適な職場環境づくりに励んだら、日経ニューオフィス推進賞を受賞した。
・メンタルヘルスの調査はしない。
「みんなが、仲間のプライベートまで干渉しすぎるので(笑)、調査しないでも人事に情報が入るし、その前にみんながケアしてくれます」
・「年功制度の処遇をしています。だって、年齢を経るごとに、普通、お金がかかるでしょ」
・「目標管理制度は導入しても、成果評価はしません。社是(社員としての心掛け)の実現度を支援する育成面談だけに留めています」
・「従業員400名ですが、経営者(会長)が、名前が分からない人がいると、自省して落ち込んでいるんですよね」
・「商品開発は、売れる商品ではなく、世に出したい商品をだしているので、売れなくても廃盤にしていません」
・「営業には、明確な数字のノルマはありません。ただし、成長しようという目標はあります」
・「取引先も信用しています」
例えば、社宅を建て替える時に、見積もりを取って、会長に打診しようとしたら、会長が「(業者さんはふっかけたりしない筈だから)見積もりを取る時間も無駄じゃない。早く建て替えに入ったら」といった。
・約3万坪の敷地には、レストランや地域の人に開放している。ミュージアムやギャラリー、健康パビリオンや水汲み場があり、年間約35万人が来場している。
「寒天」という斜陽産業下で、48年も連続して「増収・増益・増員」を続けた奇跡の会社、
「伊那食品工業株式会社」である。
人々は、それを「年輪経営」と呼ぶ。
信頼(性善説)のマネジメントこそ、一番のローコストであること、
社員を大切にすることが、社員がお客さまを大切にし、
お客さまが会社を大切にしてくれる(永続的な成長をもたらしてくれる)ことを
この会社は教えてくれる。
会社の中心に石碑がある。そこには、江戸時代の農政家、二宮 尊徳の言葉が記されていた。
「遠きをはかる者は富み 近くをはかる者は貧す。
それ遠きをはかる者は百年のために杉苗を植う。
まして春まきて秋実る物においてをや。
故に富有なり。
近くをはかる物は 春植えて秋実る物をも尚遠しとして植えず
唯眼前の利に迷うてまかずして取り
植えずして刈り取る事のみ眼につく。 故に貧窮す。」