【必要とされる共感力】
最近、労働組合の役員向けに、リスニング研修を行うことが多い。
労働組合の役割のひとつとして、組合員の不満の聞き取りや苦情の受け付けがある。
放っておけばメンタルの問題にもつながりかねないので、当然の流れであると思う。
この対人支援のための共感力というものは、労働組合に限ったことではなく、リーダーにとって必要不可欠なスキルである。
会社のマネージャー層で、部下のモチベーションマネジメントの必要性を否定する人間はいないだろう。
しかし、本物の共感を理解し支援を実践しているリーダーは少ない。
【危うい問題解決】
研修では、さまざまな相談事例を用意し、相談する人、される人に分かれて、
8分間のロールプレイを行うのであるが、
多くの組合役員は相手の問題(相談内容)に対して、すぐに解決をしようとする。
役員の多くが経験も豊富で問題解決力が高い人物であるため、
自らの経験にあてはめて相手の問題を解決し、それがもっとも重要なことだと信じている。
しかし、事柄的なことだけを解決すれば事足りる問題は少ない。
強い情動を伴ったものや、まだ相談する側が心を開いていなかったり、本人すら悩みの本質を把握していないようなときは、
このアプローチの仕方では危うく、下手をしたら、役員だけが「解決したつもり」の自己満足に陥ることも少なくない。
そうすると本当の問題解決を妨げるばかりか、相談する側の成長は望めない。
【問題解決の主体】
リーダーは、支援の仕方を今一度考える必要がある。
もちろん、相談をする側は最終的には自分の問題を解決することを望んでいる。
だが、問題解決の主体がブレてはいけない。
問題解決の主体は、あくまでも相談する本人であるべきである。
固有のパーソナリティーや問題解決力の差もあるため、人によっては多くの支援をしなければならない場合もあるが、
最終的に行動を決めるのは本人であるべきである。
これを読んでいるあなたも、相談されてあれこれアドバイスをしたにもかかわらず、
相談する側が納得いかない表情をしていたり、アドバイスどおりに動かなかったという経験があるだろう。
そのことについて無力感を感じるかもしれないが、それは仕方がない。
人は自分で納得して決めた目標に対する行動力が一番高い。
また、仮に無力感を感じたから次からは支援をやめるという行動選択を取るのもよくない。
それは支援に見返りを求めている証拠であり、自己満足的な行動にほかならない。
【ストレスと成長欲求】
思い通りにいかないことがあってストレスを感じるという状態は、
自分のありたい姿に対して「このままじゃイヤ」「もっとどうにかしたい」という成長欲求が強まったときである。
現状のままでよいという人はストレスそのものを感じない。
つまりストレスは、やっかいなものではあるが、自己成長のチャンスと捉えることもできる
(蓄積されすぎるのは問題であり、別のケア方法があるが)。
それゆえ、ストレスは「心の宝」ともいわれる。
つまり、ストレスは自己成長欲求の表れであり、
他人が解決策を決めてしまう支援の仕方は、
その人の自己成長のチャンスを奪っているともいえる。
【誤った手助けが作りだす依存体質】
職場におけるストレスでよくあがるのが、人間関係である。
例えば、部下に同僚との仲の悪さを相談されたときに、
上司が間を取り持ち、解決策を決め、お互いをいい含めて仲を取り持ったとする。
それで最初の人間関係の問題は解決するだろうが、次にその部下が別の同僚との関係に悩んだときはどうだろう?
このような問題の解決の仕方は、結局は「困ったときには人になんとかしてもらおうとする依存的な人間」を作ることになる。
そうするといつまでたっても相談者の問題解決能力は上がらず、自立もせず、ストレスを感じやすいパーソナリティーのままである。
また最近は、女性委員会などの女性の活躍推進を目指した活動のお手伝いをする機会が多いが、
そこでも男性役員が指示を与え、最終決定をする場面に出くわす。
これも男性役員は優しさや思いやりから手助けしているのであろうが、実は女性たちの自立を阻害している。
自分が課題に取り組むより前に、手助けをしてくれる人がいれば、
人は自然に何もしなくなり、助けてくれる人に依存するようになるものだ。
【必要なときに適切な支援を】
間違ってほしくないのは、支援は必要である。
だがそれは、決して過保護に甘やかし、大変なことを代わりにやってあげることではない。
その人間に役割を与えて、壁があっても最終的には自分で乗り越え、その人間がイキイキと自分らしく役割を全うできるようになることである。
支援者は、それを見守り、必要なときに適切な手を差し伸べる。支援とはかくあるべきである。
共感との関係でいえば、人は共感されることで、ようやく安心して自分の心を開き、自分の言葉で自分の本心を語り始める。
その結果、自分自身の中にある本当の問題が何であるのかに気づき、どう行動していけばよいかという自己決定ができるのである。
支援者は、その力を信じて待つことも重要である。