■両立支援策の功罪
女性の活躍支援への取り組みが転換期を迎えている。企業は、育児と仕事の両立支援を拡充し、女性が長く働ける職場環境づくりを進めてきた。
それは、日本生産性本部の「第6回 コア人材としての女性社員育成に関する調査(2015)」という調査結果からも明らかである。
調査によると、女性活躍推進の取り組みで実現できているもの(3年前と比較)は、「女性社員の勤続年数が長くなること」(86・0%)、
「出産・育児明けに就業する女性社員が増えること」(81・7%)、「女性社員の離職率が低下すること」(76・8%)とする企業が多い。
半面「部長以上の職位につく女性社員が増えること」は19・9%と最も少ない。
つまり制度を中心に両立支援策は拡充したものの、活躍支援についての取り組みはあまり進んでいないと言える。
実際に現場へ行っても、組合も女性組合員も“両立支援に関する制度”の話に終始することが多い。
「弊社は女性が育児と仕事を両立できる制度づくりを進め、他社と比較してもトップレベルにあります。それなのに女性社員は昇進意欲がないのです。
女性たちに何が足りないのか聞きたい」このような認識のまま進めると、さらに充実した両立支援制度ができあがるだろう。
ある組合から聞いた話では、今でも小学校6年生まで時短制度が使えるというのに、さらに「無制限に使わせて欲しい」という要望が出てきたという。
これでは男性上司が「女性を使いたくない」と思っても仕方がない。行き過ぎた両立支援策が、かえって女性の活躍の機会を奪ってしまうとも限らない。
その証拠に、近頃現場でよく聞く声は「権利を主張する女性社員達」である。はっきりと「ぶら下がり社員」という言葉を使うところもある。
■女性活躍支援に向けてのステップ
神戸大学の平野光俊教授によると、企業の女性活躍推進において重要なのは、女性の就業継続率を高めて母集団を厚くし、優秀な人材を管理職に登用することである。
大企業を中心に両立支援制度が整えられ、妊娠・出産では辞めずに定着するという傾向が出てきた。
母集団形成のところまでは出来つつあるのだが、問題は その母集団に昇進意欲のある女性たちが少ないということだ。
両立支援策だけに解決策を求めても、女性がキャリアに関して意欲的になることや長期にわたって職場で活躍することにはつながらない。
むしろ両立支援を推進すればするほど、男性が仕事中心になる働き方を助長することになる。
妻が働く時間を減らして子供の面倒をみてくれれば、夫は仕事に没頭できるからだ。
さらには時短社員の女性たちが増えることで、そうではない社員たちに仕事のしわ寄せが行く。
このしわ寄せが、同じような仕事をしている女性社員にいくと、職場内で不協和音が起こりやすい(男性は黙って我慢する傾向の人が多い)。
「女性の敵は女性」このような話は筆者が新人であった20年前にもあったが、当時は出産後も働く女性は少なかったし、職場にはそれをカバーする余力があった。
しかし今は事情が異なる。最近では、いち早くこのような状況に陥り苦慮した資生堂が「時短でも甘やかさない」制度を導入したという。
ただ時短社員に負担を強いるかわりに、キャリアアップの支援も怠らない。やる気のある女性社員には限界を設けない方針なのだ。
時短社員だとしても、将来に向けてキャリアを形成してもらい戦力になってもらわなければ困るのだ。
会社はボランティア団体ではないのだからそれは当たり前の話なのである。しかし、この当たり前の話が、育児をしている女性を前にすると曖昧になる傾向がある。
それは男性を中心にした組織全体に「女性(特に子供がいる)は大変だから責任ある仕事をさせない」という「やさしさの勘違い」があるからだろう。
その考えが女性の昇進効力感を制限し、女性管理職の成長を阻害している。
■目的を明確にした支援を
勘違いしてほしくないのは、両立支援策を否定している訳ではない。事実、外食産業などは、その辺をもう少し充実させたほうが良いとも思う。
問題なのは、そこをゴールにした支援のあり方にあるということだ。家庭と仕事を両立させた先にはイノベーション(成果)がなければならない。
女性活躍支援や男女共同参画を本気で実現したいのであれば、その先の目的を見据えた支援をすることである。
本来、両立支援策は目的達成のための戦術だったはずであり、いつの間にかそれが戦略(目的)になってしまっているのではないだろうか。
そろそろこの踊り場から抜け出し、次のステップに移る時期である。
自己のキャリア形成に意欲的で成果を出す女性社員を増やすには、均等推進(ポジティブアクション)とキャリア教育である。
職場でも組合でも、思い切って女性に役割と責任を与えてほしい。
若いうちから使命感や達成感、社会的意義を実感できるような仕事を与えて、仕事の面白さを感じさせてほしい。