ゆにおん・ネタ帳

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2017年

日本の美・三方よしと働き方
吉川 佐和子
2017/08/13
北から南までおよそ3000kmと長い国日本。そこには景色、食、文化などさまざまな美しいものがあります。
特に群を抜いて美しいのは、調和を重んじる精神でしょう。
日本は気候が厳しい地域が多く、島国という特性から、お互いに助け合い仲間を大切にする国民性です。

「共に生きる」、それを表す言葉に『三方よし』があります。
これは、買い手よし・売り手よし・世間よしをモットーに活動した近江商人の理念。
国の成長に経済活動は最も重要な要素ですが、売れればよいとか、自分たちの利益だけを満たすものであってはなりません。
取引をしている当事者間はもちろん、世間つまり国をよくする社会貢献の意識が重要です。
国の成長は当然時間を要するもので、世代を引き継ぎながら進んで今の日本があります。


日本人は諸外国から見ると、自分の意見をはっきり言わない、自己主張が苦手だと指摘されることがあります。
しかし、意見を慎重に扱い、周囲との関係性を重視するその気質こそが、世界でも他に類を見ない長い歴史を育くんでいます。
私たちの根底には、あなた・私・周囲を大切にする精神が息づいているのです。

そして、労働組合は働く人を支援し、その組織、産業、ひいては国をよくするための組織。
労働組合にこそ、『三方よし』が必要です。

例えば困っている組合員の問題解決をするにあたって、単に問題を肩代わりするのでは、相手○・自分×・周囲△(または×)になってしまいます。
相手も自分も○で、さらに周囲まで○になる解決には、とても知恵が必要ですね。


日常の活動では、どちらかといえば身近なことに時間を割くことが多いのではないでしょうか。
ともすると、自分のこと・自分の組織のことで手一杯になってしまうことは誰しもあるでしょう。
そんなときこそ、この活動が何につながっているのか意識するのが大切なのだと思います。

今の私も、目の前の締め切りが頭のほとんどを占めているような日々ですが、
労働組合の活動は国につながっていると考え、自分の仕事の意義を再認識し取り組んでいきたいと思います。

 
鍵を握る3つのオープンイノベーション ~労働組合の強みを活かしたセンスある働き方改革のススメ~
淺野 淳
2017/08/06
働き方改革が社会的テーマとなっている今、労働組合が社会的に存在価値を示す岐路に立っています。
働き方改革実現会議がオープンな議論を通じて決定されました。各企業内労使で実現に向けた議論と行動が展開されています。
この一連の流れを評価する声がある一方で、金銭的解雇自由化・ホワイトカラーエグゼンプション本格導入など、不安・批判の声もあります。
当事者である労働組合は、働き方改革を未来志向で見極め、自らの強みを活かしセンスあるオープンな議論を展開し、社会的ニーズに応える機会を得ています。
「オープンイノベーション」とは、立場の違う人たちがお互いを尊重しながら本音を語り合い、新たな価値を生み出すための議論スタイルを意味します。
今回の「働き方改革実現会議」も、誰もが首相官邸ホームページから議事録を確認することができ、オープンだといえますが、
実際には各参加識者が胸襟を開いてオープンな議論をしたとは言いがたい時間配分であり、内容になっています。
今回の働き方改革に限って言えば、「9つのテーマと19の対策」を既に決まった枠組みとして「演繹的」に具体策を議論するのではなく、
「帰納的」に現場目線で捉えなおし、実行性のある主張を提案することがポイントです。職場に起こっている事実とその背後に着目し、
真の働き手のニーズに着目した議論を進めることで、さらに「労働組合の強み」は発揮されます。
短期的な指標化しやすい活動だけを重視せず、長期的視野で重要なテーマを議論する、両面思考することが「センスある」活動です。
制度づくりに没頭せず、現場が納得する制度の運用促進を通じて、働き手が納得する主体的な「現場ルール」づくりを実現することが、働き方改革の目的です。
それでは、労働組合の強みを活かしたセンスある働き方改革の鍵を握る活動のコンセプトを3つの視点でご提案します。

組織内部門別オープンイノベーション

【なにを】有志組合員による良い働き方の研究と実践を促進するプロフェッショナルクラブを結成する。
【なぜ】企業内の部門横断的な横串活動による知恵の共有と新たなアイデアの創出という組合員ニーズがある。
【どのように】青年部を有している労働組合は、組織のコンセプトを再構築しクラブ化。
そのほか、組合員意識調査の結果などを活用して組合員から候補者を募る。
産業間・業界別オープンイノベーション
【なにを】地方連合が産業の枠組みを超えた交流を促し、産業間の連携やイノベーションを促進する。
【なぜ】一般的な短期的利益を目的とした異業種交流会と違い、参加者同士の本質的な議論から新たな発想が生まれやすい。
既に有している人的プラットホームを活用することで価値を生み出せる。
【どのように】異業種の組織間交流(メーカー労組×サービス業労組/自治体労組×金融サービス労組など)、
職種限定しての交流(研究職/開発職/製造職/営業職/間接職など)、
WLBにおける共通テーマでの交流(子育て/育児/介護/セカンドキャリアなど)

労働界仕事別オープンイノベーション

【なにを】労働組合の活動の一環としてNPO活動と協働する。
NPOの活動分野では「社会教育」「まちづくり」「男女共同参画」「子どもの健全育成」「経済活動の活性化」などの5分野が労働組合の強みを活かせる。
【なぜ】NPOと労働組合は働く仲間でつながっている。労働組合が社会的意義をもったNPOと連携することで、資源交換により相互の価値創造が実現できる。
労働組合はNPOに対して、人的資源組織マネジメント上のノウハウを提供する。一方でNPOから労働組合は働く目的や真の働きがいについて気づきを得る。
【どのように】各地方のNPO・ボランティア団体の組織ニーズを把握することから始める。NPOには「人材不足」「予算不足」「成果の定義」「組織マネジメント」などの課題があると想定する。
労働組合は、従来型の政治活動、特定の組合員によるボランティアや寄付といった限定された活動から、組合員にとって、より身近な活動が展開できる。

働き方改革時代、労働組合が社会関係資本として世の中から価値ある存在として期待され続けるには、
人と組織の「関係性マネジメント」の分野に着目し行動を起こすことが大切なのではないでしょうか。これからの活動づくりの指針になれば幸いです。
働く、を変えるためには
藤栄 麻理子
2017/07/30
7月24日。3年後の東京オリンピック開会式の日にあわせてテレワーク・デイが実施されましたね。
「働く、を変える日」と銘打って働き方改革のさらなる推進のために実施されたこの取り組みには、
延べ927の企業・団体が参加されたとのこと。ここからも、「働くを変える」という機運の高まりが感じられます。

労働時間の上限規制やテレワークなどの柔軟な働き方の推進は、これからますます広がっていくでしょう。
本連載でも何度も取り上げられていますが、こうした仕組み面の変革だけでなく、
私たち働く一人ひとりの意識変革や労働の質向上にも目を向けていかなくてはなりません。
皆さんの組織でも、この「働く意識をどう変えるか」に頭を悩ませているのではないでしょうか。

『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』の前編集長である岩佐文夫氏は、
「日本人は仕事に対して我慢をしすぎ」と語っています。
これまでの日本企業においては終身雇用を前提とした雇用慣行の中で、
ある程度個人が我慢(長時間労働や全国転勤など)をして組織の事情に
合わせて働くことが、企業にとっても個人にとってもメリットが大きかった。
けれども、ビジネス環境がどんどん変わっていく今の時代において
この前提が大きく揺らいでいることはさまざまな事例を見ても明らかになっていると思います。

岩佐氏は、この変化を乗り越えていくためには、社員一人ひとりが我慢することなく
積極的に声を出せる環境が必要であると説いています。
また、働く一人ひとりとしては「自分自身の生き方を、責任をもって決める」ことが
これまで以上に必要になってくるでしょう。働き方についても、「どのような生き方、
働き方が自分にとってハッピーなのか」を自分で考え、行動を起こすことで、
変化に対応することができるのだと思います。
そうした選択をしていくためには、自分自身の仕事の価値が何なのかを定め、
その価値を高めていくこと、自分の仕事をよりプロフェッショナルなものにすることも重要です。
こうした一人ひとりのビジョンや仕事のあり方、価値観を明確にするための支援や
それを個別の労使関係の中で上司と話し合い、すり合わせていくための支援も
「働く、を変える」ための取り組みの一助になるのではないでしょうか。

2020年、東京オリンピック開会式の朝をどんな働き方で迎えるか。
まずは私たち一人ひとりが自分の働き方のビジョンを持つことから始めなくては、とあらためて感じました。



若年層と働き方改革
伊藤 友美
2017/07/23
昭和の働き方が身についてしまっている私のような人間は「働き方改革」と聞くだけで、「そうですね。はいはい。いつものアレですね」なんてシラケた気分になりがちです。
よくよく学べば「いつものアレ」ではないことがわかるのですが、人間、いったん印象がついてしまうと頭からなかなか離れません。
 
「結局、環境は変わらないから自己改革しろだって?無理言うなよ!」
「日々、努力してるのに、さらに変われって?!勘弁して!」
「また、若者・女性優遇ですか。ここまで頑張ってきた僕はどうなるんだ」
「え、別に残業なんかしてないし関係ないでしょ」
「改革、改革って、今までもやってきたじゃないか、それはなんだったの?」
「人が減って、やることが増えて、働き方改革どころの話ではないんですよ」
 
このようなコメントが頭によぎる人こそ「働き方改革」にキッチリ取り組むべきでしょうが、これまでの職場での経験から培われた意識ですから、経験の長い人ほど、このマインドブロックを解くことは難しいのではないかと感じます。
 
では、培われた経験の浅い若年層はどうなのでしょうか。
「働き方改革」の取り組みについてどう感じているのか、若者に聞いてみました。
(私が日ごろ接するのは若手といっても組合活動に接している人ばかりなので意識の高い意見が集まりがちですが……。)
 
・先輩方に比べると労働時間についても配慮いただけている世代だと思うし、
 休みもとれていますが、働き方改革によって、もっと仕事が楽しめる状態に
 なればいいなと思っていますが、今は……私はまだなっていません。
 仕事と生活のバランスは悪くはないと思うのですが、きっと、もっと楽しめる
 とおもうんです。ちゃんとやれば。でも、う~ん……。
 
・労働時間の削減は大切なこと。でも、それだけではなくて自分がやりたいと思う計画の
 実行や、楽しくできることって精神衛生上必要だとおもっています。
 自分のやりたいことを先延ばしにせず、実行できるようにしたい。
 正直、働き方改革というのは、自分からは遠い話であって、自分の力が及ぶとすれば
 意見を言う場があって、それが反映されるということがあれば違うかもしれないけど。
 
・働き方改革については、何が成果として見えてくるのか。このまま成果が見えず形骸化
 するのではないかという心配があります。考え方はよくわかりますが、きっかけや仕組
 みづくりは個人レベルではできないことで、踏み込んだことをどれくらい会社側、また
 組合などの組織がしていくかにかかっているとおもいます。
 自分自身が何かやるようなイメージはないですね。制度や何か全体のことをガラっと
 変えるのが変革・改革ですよね?
 
などなど……様々な意見を聞くことができました。
 
若者との対話の中で感じたのは、
メディアの影響もあってか「働く人の視点に立った働き方改革の意義(基本的考え方)」のメッセージが
ポジティヴに浸透しているということが認識できたことが大きな発見となりました。
一人ひとりの意識面、行動面を従業員の側から変革を支えていく立場としては追い風でしょう。

会社のカウンターパートナーとして、この風をどのように見て、舵をとるか。
ますますユニオンリーダーの手腕に期待が集まりますね。

 
「平均寿命」あと何年生きられる?
渡邉 秀一
2017/07/13
 私は今年54歳をむかえ、大きな病気もしていることから「あと何回この暑い夏をむかえられるのだろうか……」などと考えてしまうこともあります。


昨年発表された日本の男女別の平均寿命では、女性が86.8歳で世界首位、男性が80.5歳ででした。(男性の首位はスイスの81.3歳)
世界的にも長寿国であることがわかります。
ちなみに世界全体(統計が取れる国)では女性は73.8歳、男性は69.1歳でした。

1990年~2015年までの推移を見てみますと、25年間の間で男性は4.83歳、女性は5.09歳伸びており、女性の方が寿命が長く伸び率もやや大きいことがわかります。

 


内閣府の高齢社会白書「平均寿命の将来推計」によると平均寿命は今後も伸びると予想され、2060年には男性は84.19歳に、女性は90.93歳になるという結果も出ております。
明治後期の統計では、平均寿命は男性は42.8歳、女性は44.3歳とされており、現代の半分くらいであったことがわかります。

では、そもそも「平均寿命」はどのように算出されているかご存知ですか?
平均寿命の計算法は各年齢の年間死亡率を求め、今年生まれた人口がこの死亡率に従って毎年どれだけ死亡するかという予測値から、それぞれの死亡した年齢を平均したものが平均寿命として算出されています。
「平均寿命」とは、それぞれの年に生まれた子どもが、今後何年生きられるかという期待値を基に算出されている数値ということになり「その年に生まれた子どもの予測平均余命=平均寿命」ということになります。
最新の2016年では、男性80.75歳、女性は86.99歳となっていますが、これは2016年の実死亡年齢の平均ではなく、2016年に生まれた子どもの予測平均寿命ということになります。

つまり、少なくともこれを読んでいる方の平均寿命ではないというのが結論です。
そこの40歳男性のあなた、「平均寿命だとあと40年生きられるぞ!」というのは大きな間違いです!(笑)
あなたの年代の平均寿命は、72.69歳です。

「あと何年生きられる」より「どうしたら素敵な人生にできるか」が大切ではないでしょうか。


おまけとして職場会などで平均寿命について話す際のネタを添付しておきました。

 


GPSウォッチとパフォーマンスマネジメント
佐々木 務
2017/07/10
先日、父の日のプレゼントにランニング用のGPSウォッチを貰いました。
子どもたちからというよりも、ほとんど妻からもらったという感じでしたが、ランニングをしている私には、いつか欲しいと思っていたものだったので、とてもうれしいプレゼントでした。
 
さて、GPSランニングウォッチ。
ランニングをあまりしない方にはそこまで必要なのか?何がそんなにいいの?とその必要性は分からないと思いますが、ランニングを続けていると、今日は何キロ走ったのか、どれぐらいのペースで走れたのか?という事がランニングを続けていく事のモチベーションの維持につながります。
 
ランニングを始めたころは、地図を見て大体これぐらいの距離かな?と思うコースを走り、ゴールまでのトータルのタイムを計測して、これくらいのペースだったんだなと把握する程度でした。
もう少しきちんと把握したいとなると、自宅周辺のマイコースを設定し、WEBの地図ツールなどで距離を計測しておき、1キロ毎の計測地点を確認してラップタイムを記録できるランニングウォッチでランニング中に記録していきます。
こうなると前半に比べて後半ペースが落ちてきているとか、目標タイムでゴールするには残りをどれぐらいのペースで走らないといけないか等がランニング中に分かってきます。
 
しかし、ランニング中についつい計測地点での計測忘れがあると次の計測地点まで押さずに、その区間は2キロのラップとして考える事になります。
長い距離を走っていると、あれさっき押したんだっけ?えっと2キロでこの時間だから1キロのラップは・・・等と考えなければいけなくなってきます。
 
また、計測地点を把握できていないコースで走るときは、ペースも距離も分かりません。
今日はいつものコースは風が強いから走りたくないな。今日は時間がないから短めに走りたいけどどうしようか?
旅行先や帰省時に走りたいときにも何キロコースなのかは全く分かりません。
実際に走ってみると地図では分からなかったような迂回コースを走らなければいけない場面も出てきます。
 
GPSランニングウォッチはこうしたストレスを解消し、よりランニングに集中させてくれます。
リアルタイムで細かくペースと走行距離を示してくれるので、ほんの数10メートルでもペースが落ちれば分かるため、すぐにペースを修正する事ができ、コーチが併走して常にアドバイスしてくれるような安心感があります。
また、事前に設定するマイコースに縛られず、気分や体調やスケジュールによって好きなコースを好きなように走りながら、ランニングの途中でどのようにコースを変えても、ペースや走行距離が確認できるので、走りの自由度が増してストレスが少なくなります。
 
さて、今回のGPSランニングウォッチの話。設定した目標に対して、自分のパフォーマンスを把握するという事は、ビジネスにおける目標管理とどこか共通する部分があると思いませんか?
 
従来の目標管理制度が行き詰っているのは、誰もが感じている事と思いますが、問題点のひとつが、期初の目標設定を基に年次で評価をしていく従来の仕組みが、スピード感や柔軟性を求められる最近のビジネス環境に対応しきれていないこと。
もうひとつが画一的な目標設定により、個々人や現場の多様性に対応しきれておらず、個人の納得性に結びつかないこと。
 
最近、欧米では年次評価がパフォーマンスの向上に役立っていないという認識が高まり、従来のパフォーマンスマネジメントの根幹にあった年次サイクルの評価を廃止する企業が増えています。
そういった企業では、期中において頻繁に上司と部下の対話を継続して、よりリアルタイムで目標設定とフィードバックを実施しているそうです。
また、個人が主体的に目標設定をし、画一的なマネジメントではなく、個人の強みを発揮できるようにする事も重視されているとの事です。
 
デジタル化やグローバル化が急速に進展する環境で求められるタイムリーな変化対応力。
異なる専門性や価値観の人材のコラボレーションを活性化するための個人の強みを発揮させる柔軟性。
これからのパフォーマンスマネジメントはGPSランニングウォッチのごとく、タイムリーで細やかな柔軟な対応と、そのための現場での運用強化が求められているのではないでしょうか。
薬よりも人を
2017/07/03

先日、本連載で「平田オリザ氏の「演劇ワークショップ」を受講し」という記事があった。その記事を読んで思い出したのが、平田氏の活動を描いた相田和弘氏のドキュメンタリー映画『演劇1』『演劇2』だ。相田和弘氏は日本を代表するドキュメンタリー映画監督の一人だが、その作品のひとつに「こらーる岡山」(現在は閉鎖)の山本医師の活動を描いた『精神』がある。その印象的なシーンを記しておきたい。

 

薬物の大量摂取によって自殺を試みた女性が診療所「こらーる岡山」にとぼとぼと歩いてくる。彼女がゆっくりとした足取りで診療所の扉をくぐる時、その扉を開いておくために最後まで支えている男性がいる。彼は心に「インベーダー」を抱えてしまっているがために、いつしか自己をコントロールできなくなってしまうのではないかという不安を抱えている。

女性は今回の自殺未遂によって、家族や周囲の人々から見放されてしまったと涙をこぼし、診療所の山本医師に「もう死んでしまいたい」と涙ながらに訴えかける。

医師はその間ほとんど表情を変えず頷くばかりであったが、彼女が話し終えるのを待って、静かにゆっくりと語りかける。「これまでにこんな経験をしたことはないの」と。女性はやはり涙を流しながら、「何度もあります」と医師の言葉に答える。そのことを物語るように、彼女の手首にはリストカットの傷跡がいくつも残されている。

医師はそれでも表情を変えない。静かに頷きながら、「そのときはどうやって、それを乗り越えてきたのか」と問いかける。

これまでは家族や周囲の人々を遠ざけることによって乗り越えてきたと答える彼女に、医師は「今あなたが感じている苦しみは、これまであなたの周囲の人々が感じてきた苦しみなのかもしれないね」と伝えながら、少しずつ対話の糸口を開いていく。カメラはさっきまで頬をつたっていた彼女の涙が止まっていることをしっかりと映し出している。

映画のパンフレットにあった山本医師の印象的な言葉がある。

「科学が進んできて、鬱病や統合失調症の人への薬がどうだとか、そういう薬が出てきてそれを使えばよくなるんだという、これは、ぼくは一部正しいとは思うのですが、しかしそれは本当に一部であって。

例えば、病気の状態、悪循環がどんどん進んでいっている状況に対しては有効だと思うのですが、回復を含めて本当にその人らしさを取り戻すのには効かなくてね。生き方を含めて自分がもう一回、自分自身を整理したり見直していくチャンスを与えてくれるというのは、体の病気もそうかもしれませんけど、心の病はもっともっとその意味は大きいと思うんです。

そのときに、薬だけでなくて、人間が必要なんだと思います。色んな体験をしたり、色んな考えを持った人がその人の周辺にいて出会える、という状況が大事なんだと思います。この部分が落ちちゃって、薬に頼るというか、そっちの方だけになってゆくというのが、今ちょっと考えなきゃいけない問題じゃないかなと思うんですな」

映画『精神』パンフレット(アステア) p.11より

 

「薬だけでなくて、人間が必要なんだと思います。色んな体験をしたり、色んな考えを持った人がその人の周辺にいて出会える、という状況が大事なんだと思います」。この一言は、労働組合にとっても重要な一言だと思う。

町の計画設計
伊東
2017/06/25
突然ですが公共施設等総合管理計画って、聞いたことありますか?

皆さんが住むほぼ全ての街も、この計画を今年3月までに策定しています。
(正直言って自分も知りませんでしたが。)

戦後の高度経済成長期に整備され老朽化した「施設」をどのように更新していくか、総務省が地方自治体に対し策定を求めた計画です。

学校・公営住宅・公民館・図書館など「建物施設」と、
道路・橋・トンネル・下水道など「インフラ施設」に分けて現状を把握・分析し、
中長期的な維持管理・修繕・更新の費用を推計しました。
そして老朽化対策を計画しているものです。

見ると多くの自治体が更新(建て替え、改修)費用を賄うことができず、施設を削減(廃止・集約)する方針です。
人口減もあり仕方ない面もあるかと思いますが、実際に施設の廃止や移転となると地域住民からの反対の声も上がる事態も予想されます。
そこで計画から実行に移る中で、地域の合意をいかに得るかがポイントのようです。

そして、地域住民からの合意を得るために各自治体が取り組んだ事例として多かったのが、
「住民に向けた情報の見える化」「住民との対話(ワークショップ)」でした。

一例として、さいたま市では「公共施設マネジメント計画」を策定しましたが、マンガで分かり易く概要を知ってもらおうとパンフレットを作成しました。
また、市民との合意を得るため「意見交換会」を実施しながら基本計画を作成していったそうです。



今まさに、多くの関係者の「合意」を得ながら組織の活動計画を策定していく時期かと思います。
大きな環境の変化に対応を迫られている、皆さんの活動設計に対して何かの参考になれば幸いです。

平田オリザ氏の「演劇ワークショップ」を受講し
加藤瞳
2017/06/18

みなさん平田オリザ氏を知っていますか?
著名な方なのでご存知の方も多いと思いますが、簡単にご紹介します。
日本の「現代演劇界」で注目されている劇作家・演出家で、国際基督教
大学在学中に立ち上げた劇団「青年団」の主宰をされています。
また、大阪大学COデザインセンター特任教授、東京藝術大学COI研究
推進機構特任教授、四国学院大学客員教授・学長特別補佐、京都文教
大学客員教授・・・
など活躍の場は広く、新しい教育、研究領域を切り開いている方です。

多方面で活躍されている平田氏の「演劇ワークショップ」における効果や
ファシリテーターの関わり方、そして現代の教育課題において自身の見解
をまとめられた講義を受講した際の感想を本日は共有します。


まず「演劇ワークショップ」について、私は劇団員や役者、演劇に興味の
ある人が自身の表現力を高め、即興的な発想力や豊かな表現をして
いくためのトレーニングだと思っていました。
そのため、「演劇」というものは学校教育や地域活性化、さらには
ビジネスにおいて有効であるとは全く認識していませんでした。
この講義が私の仕事の役に立つとは思わず、興味本位で受講した
のですが意外にもビジネスに役立つことがわかったのです。

それは「演劇」で自分とは違う立場の人を演じる・なりきることを通じ、
相手の立場を理解できる効果があるということです。
平田氏の言葉を借りてまとめると、以下の効果があるということです。
「様々な考えを疑似体験できる」
「多様な人、異なる感性の人同士が関わり合い、わかり合おうとする場を
つくることができる」
「ひとりひとりが持っている表現・個性・価値観を大事にする(受容される)」

今や企業は国際化や多様化により「お互い察してわかりあえる」という状況
ではありません。
だからこそ、違いをわかりあうためのコミュニケーションが必要であるにも
関わらず、効率化・生産性を追求せざるを得ない職場で今、人と人との
繋がりが希薄になっていき孤立や排他的な環境となっています。
また労働人口の減少に伴い、女性・高齢者・外国人…など様々な環境に
おかれている多様な人が同じ職場で働くようになりました。
働く私たちは個別的な家庭の事情や制約を仕事に持ち込まざる負えない
状況になっています。

今までよく行われていた講義型の研修だけではなく、演劇型の研修により、
強制的に立場の異なる相手を演じることで自分と異なるものを感じ、理解
するという教育がこれからは注目されるのではないでしょうか。
多様な人々がわかりあい共生していく環境づくりに私自身も貢献できるよう
今行っている研修プログラムに生かしていきたいと思います。

寒立馬(かんだちめ)
細越徹夫
2017/06/11
 寒立馬(かんだちめ)という馬をご存じだろうか。馬といえば血統が重んじ
られる競走馬のサラブレットを思い出される方が多いと思う。精悍で、シャー
プで、見るからに速そう!そんなイメージがサラブレットにはある。
対してこの寒立馬は、もともと農耕馬の系譜をたどる小ぶりでがっしりとした
馬である。ウィキメディアによると「青森県下北郡東通村尻屋崎周辺に放牧さ
れている馬。厳しい冬にも耐えられるたくましい体格の馬である。南部馬の系
統で足が短く胴が長くて、ずんぐりしている。「寒立」とはカモシカが冬季に
山地の高いところで長時間雪中に立ちつくす様を表すマタギ言葉である。冬季、
寒風吹きすさぶ尻屋崎の雪原で野放馬がじっと立っている様子がそれに似てい
たことから「寒立馬」と詠んだ」とのこと。

5月下旬、青森県の八戸へ帰省した際、無性に真近で寒立馬に会いたくなり、
足を延ばして尻屋崎まで出かけてみることにした。帰省する前に寒立馬が取り
上げられたテレビ番組を見て、風雪の尻屋崎でモクモクと白い息を吐きじっと
たたづんでいる『野放馬』の姿に魅せられていたのである。以前から馬に関心
や知識があったわけではないが、一度『野生』の寒立馬を見たいと心が引き付
けられるものがあった。

津軽の竜飛岬や下北半島の大間は、全国的にも知名度のある観光地である。そ
れと比べ、下北半島の最東部である尻屋崎はさほど知られていない辺鄙な地で
ある。地図で調べると尻屋崎は、青森県下北半島の北東部に位置し東通村の最
北端にある。早朝レンタカーを走らせ、一路、尻屋崎を目指した。途中、六ヶ
所村、東通村と日本有数の原子力関連施設が点在する地域を抜けていく。また、
原発施設だけでなく、このあたりは無数の白い風車が立ち並ぶ自然エネルギー
施設の密集する地域でもある。巨大な風車が林立する様は、まるでSF世界の
ような光景である。

下北半島東部の三沢市以北の地域は、原発施設ができるまで広大な湿地とやせ
た土地が続く地域だった。そのため農業にも適さず、目立った産業もなく、人
間の営みを拒んだ土地であった。道の整備も行き届かず、他の地域から隔絶さ
れたような地域であった。
けれど今、目の前に広がる風景は、自然と科学がミスマッチしつつ人口の未来
社会をイメージさせるような雰囲気がある。広大な敷地に原発施設が林立し、
その合間をきれいに整備された道路が延々と伸びている。
科学技術の粋を尽くした電力施設を目にする一方で、広大な自然の風景とテレ
ビ番組で見た厳冬の中でじっとしている寒立馬の姿が、何んの脈絡もなく頭の
中にコラージュして浮かんでくる。「なんなんだろうこの感覚は・・・」訳の
わからぬ困惑を感じていると、すべてのイメージがシンクロし、「生きる」と
いう言葉に統合する。どう表現すればよいのか思考の奇妙な体験だった。

尻屋崎についたのは8時前。寒立馬がいる尻屋崎灯台へ向かう道は入り口付近
にゲートがあり、時間にならないと入っていけない。しばらくゲート付近に併
設されているビジターハウスの中に入り資料を拝見した。事前に寒立馬のこと
をよく調べづにここまで来たが、資料によるとこの付近にいる寒立馬は「ノラ
馬くん」ではなく、ちゃんと放牧されている馬であるらしい。ちゃんと飼い主
もいるという。そうこうしている間にゲートが開く時間が来たので灯台へ向か
った。

ゲートから5分ほど走ると白い灯台が道の先に見えた。テレビや写真で見た風
景が広がっている。晴れ渡り気温も高いはずなのに風が強く寒い。きっと冬の
間は想像以上の寒さなのだろう。灯台から3kmほど先に進んだ海岸沿いに目
当ての寒立馬が数頭の群れをつくり草を食んでいた。
群れに近づき、じっとその光景を眺めていると、こちらを意識することなく黙
々と草を食んでいる。サラブレットと比べると1回り以上小ぶりで、思った以
上に図太い足をしている。小さな丸太のようなしっかりした足だ。
もともと寒立馬は農耕馬として徴用されていた。

しかし、時代の変化の中で機械が役目をとってかわり、経済的な活躍の場を奪
われ、行き場を失ってしまった。一時は9頭まで数も減り、絶滅の危機さえあ
ったという。いま寒立馬は多くの支援者の活動を受け、県の天然記念物に指定
された。そして、今心ある支援者は、人と共に働いたり、乗用馬や観光資源と
して地域と人と共存していく道を探りつつ絶滅の危機を逃れようとしている。

寒立馬たちにとって、この厳しい環境は果たして望むべき環境で幸せな場なの
だろうか。サラブレットのように颯爽と走りゆく姿を夢見ているのだろうか。
つらい厳冬の中で息をハァハァさせる生活に幸せを感じているのだろうか。
そんなことを考えながら3頭の馬を眺めていると、背後の松林から突然2頭の
親子がやってきた。その後、馬たちの群れに入り一緒に草を食んでいた。しば
らくして母親らしき先ほどの母馬が突然ブルブルと鼻を鳴らせたかと思うと、
来た道を戻り始めた。ほかの馬たちもその後を追っていく。松林に入ろうとし
た時、母馬が一瞬足を止めヒヒヒィーンと声を上げ松林に姿を消した。

寒立馬を見たい一心でここまで来たが、道中で考えさせられたことはまさに結
論の出ないことばかりだった。
今時代は急激な変化の黎明期にあるという。人間にとって代わる頭脳が現れた
時、人間本来の役割や存在の意味は果たしてどうなるのか。生物の多様性、社
会の多様性、働く現場での多様性。多様性とは、それぞれの違いを認め豊かな
個性とつながりのことをいう。
進化、発展、そして多様性という重要なキーワドと共に「働くことと、生きる
こと」というテーマをいろいろな場面を通じて、じっくり考えてみる機会を大
切にして行きたいものである。