ゆにおん・ネタ帳

2019年 - 2018年 - 2017年 - 2016年 - 2015年 - 2014年 - 2013年 - 2012年 - 2011年 - 2010年 - 2009年 - 2008年

2016年

察し合うより、伝え合う
室橋
2016/10/16
疲れたときに、ふと思い出す顔。とてもおおらかな優しい表情を思い出すだけで、疲れが癒えます。2月に東大寺を訪れてからというもの、盧舎那仏像(いわゆる奈良の大仏、国宝)の虜になりました。

東大寺といえば、南大門の門番である金剛力士(国宝)も有名。口を開いたものを「阿形」、口を閉じたものを「吽形」といいます。「阿」と「吽」は物事の始まりと終わりを表しています。息がぴったりと合い、意志の疎通ができていることを「阿吽の呼吸」というのは、金剛力士が由縁だそうです。

阿吽の呼吸、暗黙の了解、以心伝心、察するなどは、日本特有の文化です。共通しているのが、言葉にしない美学ということ。しかし、この文化がコミュニケーションを難しくする原因になることがあります。意思疎通ができないことで仕事がスムーズに進まず、ストレスがたまったり、モチベーションの低下につながったりすることもよくある話です。

「どうして、こうなっちゃうかな??」「全然わかってないじゃん!!」……、自分の言いたいことがうまく伝わらないときに、つい相手のせいにしてしまうことがあります。しかし、相手の立場や業務スキルによって理解度が違うため、相手はどんなふうに理解したのか、相手の頭の中を推測しないとうまくいきません。理解してくれているはずと思わずに、お互いに理解していることを伝え合ったり、自分が相手の視点に立った伝え方になっているかを見直すことで、伝わらないストレスが軽減できるかもしれません。
働きたい組織の特徴はどんなもの?
松山晃久
2016/10/05
ある調査結果を参考に、組合活動でできることを考えてみたい。


2017年3月卒業予定の大学生・大学院生を対象にした調査(就職みらい研究所実施)。調査テーマは「働きたい組織」の特徴となっている。
『組合員の働きがいを高めることを目指します』を、 活動方針やビジョンに掲げている組合は多く存在する。
私が研修で、『この組織(会社)で働くことの価値』を参加者みんなで考えるワークを実施させていただくと、様々な観点の声が出てくる。


以下、調査結果の上位5項目(働きたい組織の上位5項目)に沿って、実際に組合がやっていること、これやったらおもしろそうという活動を挙げてみたい。


1位(大学院生2位)、コミュニケーションが密で、一体感を求められる。
-----------------------------------------------------------------------------------------------
一つ目は、節目ごとに組合で同期又は同年代を集めることをお薦めする。 例えば、入社3年経つ頃に一度集める。傾向的には離職率の高まる時期なので、またみんな頑張ろうというきっかけになる。さらに、30代前半(入社10年目など)で集まる。その際、今後のライフステージを考える研修を合わせて行う。『同期も活躍しているなあ。また自分もがんばろう』という、きっかけになる。その後は40代、50代の節目に組合で定期的に集めることができれば、会社生活全体を通じて、一体感を高める手助けになる。

二つ目は、コミュニケーションの取り方を学ぶ機会を組合で用意することをお薦めする。上司とのコミュニケーションの取り方や、プレゼン方法、会議の進め方など、仕事上のコミュニケーションに必要な力を組合で身につける機会を持つのである。そうすれば、『組合でこんな仕事にも役立つサポートもやってくれるんだ』と思う組合員も多く出てくるはずだ。


2位(大学院生1位)、仕事と私生活のバランスを自分でコントロールできる。
------------------------------------------------------------------------------------------------------
ライフステージや業務の繁忙、業界の特性など、バランスを取る必要が出てくる要因は様々あると思うが、自分でコントロールできることが大事なのであるから、組合での労働時間管理(休暇取得促進や長時間労働者対策等)のみならず、一人ひとりがコントロールできる技術(タイムマネジメント)を身につけて実践していくことをお薦めする。


3位(大学院生3位)、周囲に優秀な人材が多く、刺激を受けられる。
------------------------------------------------------------------------------------------------------
これは、会社の社内報と競合するが、機関紙などで様々な職場の組合員をリレー形式で特集し、業務上の活躍を載せてお互いに刺激を受ける取り組みがある。

大学生4位、入社直後の給与は低いが、長く続けることで後々高い給与をもらえるようになる。
ブラック企業だのワーキングプアだの嫌悪するような言葉が躍っているが、大多数の人が会社生活全体を通じた安定を求めているということである。雇用の安心感を得られる様々な制度の整備とあわせ、組合が自分たちで給与を高めていくような人材育成の一部を担いながら、会社にも人材育成に関する提言をしていくことができる。

大学院生4位、歴史や伝統がある企業である。
多少こじつけだが、70周年あるいは60周年を迎える企業が増えている。その際記念誌を作ることが多いと思うが、それを組合員教育の材料にすることが可能だ。自分の会社が乗り越えてきた歴史をダイジェストで冊子にして組合員に配布して組合役員が説明する。 「自分の会社はこんな困難を乗り越え、こんな転換期があったんだなあ」「その時、組合がこんなことをしたんだ」と組合員が見つめる機会になるはずだ。

大学生5位、ウェットな人間関係で、プライベートでも仲が良い。
これはやや意外な感があるが、組合員もつながりを求めていることがうかがえる。 人間関係をつくるサポートとしては、レクイベント活動が効果的だ。 レクイベントの3大効果(2012年 株式会社JTBモチベーションズ実施調査から引用) 「職場の中でコミュニケーションが増えた」「他の部門と仕事がしやすくなった」「仕事に対するモチベーションが上がった」に見られるように、そういう場をきっかけにプライベートでも仲が良くなるケースも出てくるだろう。

大学院生5位、多くの人を巻き込んで行う仕事の割合が多い。



以上、組合活動を考えるネタになれば幸いである。
自分も幸せになっていいんだ
小林 薫

先日、義祖父が90歳の誕生日を迎えました。家族で旅館に泊まり、卒寿祝いを行いました。お祝いの席では、曾孫にあたる我が家の子どもたちはそろばんやバレエを披露。私も恥ずかしながらモノマネをやらされました。90年を生き抜いて、家族から愛されている義祖父はきっと幸せな人生を実感していることと思います。

さて、日本国憲法の第13条にはこう記されています。「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」幸福追求権と呼ばれる国民の権利です。

労働組合は組合員の幸せを実現する組織です。なかには、苦労や困難で必ずしも幸せな日々を過ごしていない組合員もいると思います。けれど忘れないでいましょう。私たちは誰でも幸せになる権利を持って生まれてきたということを。幸せだったと言える人生を送れるように、支援するのが私たちの役割なのだと。モノマネを強制的にやらされる私にも、きっと幸せになる権利があると信じています。

対話しよう!
2016/09/18
「j.unionには組合があるの?」
お客様からよくこんな質問をいただきます。

「ありますよ。実は私も執行委員なんですよ~」
そう答えると多くのお客様に驚かれます。

今期、私が主に担当しているのは機関紙の発行と職場会の企画、運営。
どちらも大変さがありますが、協力してくれる役員の皆さんと一緒に考え、
実行に移していくことには、やはり楽しさを感じます。
つい先日、今期第1回目の職場対話会を終えました。

職場集会には様々な目的やスタイルがありますが、
今期から私たちは「組合員同士の対話により、お互いをよりよく知ること」を
そのねらいとし、「対話会」という名目で実行することにしました。

「対話(ダイアログ)」について、『ダイアローグ 対話する組織』(中原淳、長岡健/共著)では
以下のように説明しています。

■「雑談」「対話」「議論」の違い
「雑談」=<雰囲気:自由なムード>の中での、<話の中身:たわむれのおしゃべり>
「対話」=<雰囲気:自由なムード>の中での、<話の中身:真剣な話し合い>
「議論」=<雰囲気:緊迫したムード>の中での、<話の中身:真剣な話し合い>

また、このようにも語っています。

「人は『対話』の中で、物事の意味づけ、自分たちの生きている世界を理解可能なものとしています。
…(途中略)…相互理解を深めていくには、単に『客観的事実(知識・情報・データ等)そのもの』を
知っているだけでなく、『客観的事実に対する意味』を創造・共有していくことが重要となるのです。」


同じ出来事であっても、それをどのように解釈し、どのような経験とするのかは人によってさまざまです。
対話のねらいはそれを一致させることではなく、お互いがどのような解釈を持っているのかを知る、ということにあります。
さらには、相手だけでなく自分自身を見つめなおす効果もあるのです。

今回の対話会では「自分史を語り合う」というワークを行いました。
自分の人生を振り返り、どんな出来事があり、その時にどんな気持ちだったのか、
プラスの感情になるのはどんな時か、マイナスになるのはどんな時か…
ざっくばらんにグループで共有するのです。

参加した組合員からは以下のような声が聞かれました。

・普段の仕事では知ることがない相手の一面が知れて、とても楽しかった
・質問されることで、自然に自分のことを振り返ることができた
・楽しくて自分のことも相手のことも、もっと話したいと思った


まだまだ改善点もたくさんありますが、こういった声をいただくにつけ
「やっぱり対話しよう!」と決意をあらたにするのでした。



予測って天気予報以外に身近にあるの?
渡辺 秀一
2016/09/09
プロ野球もシーズン終盤で、広島の四半世紀ぶりの優勝やパリーグの熾烈な首位
争いなどが見られます。
出勤時には駅売店の新聞立てに赤青黄色の見出し文字が躍っています。

全てではありませんが、この新聞の仕入れ数は実は毎日異なっているのをご存知
でしょうか。
たくさん仕入れて売れ残りが出たのでは原価の無駄です。
また少なく仕入れてしまって早めに売切れてしまっても売上機会の損失になってし
まいます。
では、どのようにして仕入れる部数を決めることができるのでしょうか。

今回は仕入れ部数を例に取って「数量化Ⅰ類」という統計手法をお話ししましょう。

また、訳のわからない難しそうな名前が出てきたな、と思った方もお時間があれば読
んでみてください。
計算自体はパソコンに任せればよいので、「仕組み」を理解していただけるだけで充
分です。

まず、ある駅の売店であるスポーツ新聞が実際に売れた部数を毎日記録します。

これだけでも1年間くらい継続して取れば、結構なデータになります。
「ああ、この新聞は夏場には売れるけど寒くなってくると売れなくなるな」などの見た
目で判断できる情報です。

この手法で大事なのは、売上部数と同時にそれにまつわるいろいろな要素を一緒
に集めることです。

「要素」ってなに?となりますが、例えば上記のように部数の変化を目で見てわかる
ことですが「月」などはまず取れます。
それに付随して「日」「曜日」なども出てきます。
その日の「天気」「温度」なども集めることができるでしょう。
これら以外にも「何か大きな事件があったか」「巨人は勝ったか(主に東京向けです)」
「週末に競馬で大きなレースがあるか」「芸能人のスキャンダルが起こっているか」
などなど、考えればいくらでも出てきます。
調査するというよりも、事実をデータとして残すので誰でもできるはずです。

全てをパソコンに入力して、「部数」に対して上記の要素がどのように影響しているか
を計算し、一年間のデータから部数を予測するモデル式を作るのがこの数量化Ⅰ
類になります。

モデル式ができてしまえば、「9月」「11日」「日曜日」「曇り時々雨」「最高気温30度」
「最低気温23度」「大きな事件なし」「巨人負けた」「競馬GⅡレースあり」「芸能人ス
キャンダルあり」などと予報から得られるケースを打ち込めば、「仕入れるべき部数」
が予測できるというものです。

このように「天気」などのようにもともと数値で表しても優劣の定義がしにくい要素か
らある数字を予想することができるのがこの手法の特徴です。
(「晴れ」と「雨」とどっちが上かを選べないようなことです)


組合で調査を実施することもあると思います。
その際に「年齢」「性別」「勤続年数」「部署」「職種」「支部」などといった基本属性を
取ると思います。
それと共に「組合活動に興味がある」を段階評価で問う設問があれば、どんな属性
の人が組合活動に対して興味を持ってくれているのかという実態と、こんな属性の
人だったら組合活動に興味を持ってくれるのか?という予測も可能になります。

興味を持ってくれそうなグループと、くれそうにないグループで職場討議をして、なぜ
興味があるのか、どこが課題なのかを見極める基礎データとして利用してみてはい
かがでしょう。




女性の活躍を支援する ~育児休業の現場から~
2016/09/04
◆マイノリティ体験

4月から育児休業をしている。育児休業中でも休業前賃金の13%までなら働くことが可能なので、
すでに契約済みのセミナーなど月に1、2本対応している。お客さまや会社のためというのもあるが、
女性活躍推進を仕事のテーマとしているため「ワーキングマザーの実体験をするのにちょうどよい」という思いもあった。
本当に大変なのは子供を保育園に預けてからだと思うが、それでも当事者になってみて、わかることもあった。

 ◆「育児を中心にした仕事」から「仕事を中心にした育児へ」

今、子育てをしている女性の両立支援で悩む企業が増えている。
厚い制度を中心に「休むための支援」を行った結果、親の愛情を考えれば当然の帰結ではあるが、仕事よりも子育てを優先する「育児を中心にした仕事」の女性が増えてしまったからである。
それでは女性活躍には程遠い。仕事と家庭の両立支援は、本来働くための支援である。言い方は冷たくなってしまうが「仕事を中心にした育児」の社員を増やすこと、
自分のキャリアと組織への貢献を意識した自律的な社員を支援することが目的である。仕事をしながら育児となると、その社員への特別対応が必要になる。
筆者の場合は、自分で経営陣に直談判して自宅から社内LANへのアクセスや、テレビ会議などを可能にする仕組みを作ってもらった。また、周囲の方の暖かい理解と協力を得ることもできた。また自宅作業時の申請の仕方なども会社と双方で協議し、「育児があっても働くためのサポート」をお願いし理解してもらえた。
そもそもセミナーやコンサルティング業という仕事は、事務所に出勤する必然性もなく、今のこの体制が自然にも思える。
実際にこの原稿を書いている横で、赤ん坊は寝がえりの練習に余念がない。職場の理解・協力が大前提とはなるが、現場の考え方や仕組み一つで働く支援ができるのなら、可能な人からどんどんそうすればよい。

◆「仕事を中心にした育児」の課題

しかし今の働き方の実現において、筆者にとって有利な点が多くあるのは否めない。
まず筆者が管理職で、すでに裁量権のある働き方ができていること、会社が小さく小回りが利くこと、周囲の理解・協力をいただけたこと、筆者がこのテーマについて詳しく交渉する術を知っていたことなどである。
ある程度の規模の組織であると、同じような対応をするのは難しいと思う。まず一定の個人に特別対応をしてよいのかという考え方がある。
この課題には、ワーク・ライフ・バランスをいま一度、正しく理解することをすすめる。ワーク・ライフ・バランスの真の目的は、
全社員が個々人の価値観やライフスタイルを尊重しながら、働きやすい環境を整備し、新しい価値観や成果を出し続けることである。
認識してほしいのは働く場所や時間が同じであることはなく、成果を出すためにその人にあった場所や時間があるということだ。
もうひとつの課題は、特別対応の人がいると今までのルールが通用しない場面があり、効率が悪くなる点だ。筆者の場合、手書きの交通費申請書を誰が書くかでもめた。
事務所では取るに足らない作業も、自宅でやるとなると、思った以上に大変だったりする。
結局、事務所にいる同僚が代筆してくれる協力があって乗り越えられたが、同じような人が増えたら、やり方を変える必要があるだろう。
このように「普通と違う人」がいると効率が悪い。しかしながらダイバーシティ(女性活躍)が目指すのは、「効率」でなく「効果」である。
ダイバーシティを始めたところ、最初のうちは効率が悪く、かえって後退したという話も聞く。しかし本当のゴールは違いを持っている人を排除したり、
同質化させたりすることではなく、違いを力として活かし新たな価値を創造し、組織の存続発展につなげることである。
今までと違うやり方を進めようとすると、当然そこに摩擦や衝突が起こるが、新たな価値は安定からは生まれない。

◆仕事をするための支援を
子育てをしている女性の中には「本当は責任ある仕事をしたいが、もしできなかったら周りに迷惑をかけるので自分から言えない」という人も少なくない。
日本人は極端に周りとの摩擦や衝突を嫌うので、自分の思いを封印してしまう傾向にある。その結果、多くの優秀な女性が働くモチベーションを下げ、キャリアを諦めている。
このような女性が「責任ある仕事がしたい」と言え、マネージャーも本気で役割や機会を与え、成果を出す支援体制を整える環境が望まれる。
制度だけでなく本人も含めた周りの人間の意識改革が必要である。そしてこれは職場だけでなく家庭も同じで、夫も例外ではない。
紙面の都合でここまでしか書けないが、現場からはいろいろ反論や意見や質問が出そうである。
しかし、その一つひとつを組織で議論することに意味があると思っている。
いつの間にか赤ん坊は疲れて寝ている。

パラリンピックに思う「ソーシャル・インクルージョン」
佐々木務
2016/08/29
リオ・オリンピックが閉幕しました。日本中が史上最多のメダルラッシュに沸いた夏。
私も時差12時間の観戦にも関わらず、地球の裏側で競われるアスリート達の闘いに魅了されてしまいました。
帰国後のメダリスト達は各メディアに引っ張りだこで、世間の関心はすっかり選手達のオリンピックの裏話やバラエティでの活躍などに移っています。
 
ところで、オリンピックの熱狂の後も、現地ではまだまだ大会は終わっておらず、9月8日からパラリンピックが開催される事は多くの方がご存知でしょう。
オリンピックの盛り上がりと同時に、パラリンピックも注目を集めるようになってきたのは、長野パラリンピックからメディアが取り上げるようになってからでしょうか。
障がい者スポーツに馴染みの無かった私も、パラリンピックをメディアで目にするようになって、障がいを持った方でも、道具などの補助があるとはいえ、あれだけの事ができるのかと本当に驚くばかりです。
 
先日、久しぶりに会ったメディアに関わる仕事をしている知人から、パラリンピックの関係者と仕事をした際の話を聞きました。
彼は、健常者のスポーツ競技にも多く関わっており、パラリンピックをメディアで取り上げる際に、ハンディキャップを負った中でもアスリートとして自分の限界に挑戦する姿を、健常者のスポーツと同様に、スポーツの魅力として純粋に取り上げたかったにも関わらず、障がい福祉の世界の人たちから、あまりに規制や表現に対する注文が多く、選手たちを過剰に保護するような姿勢に辟易したため、つい批判的な物言いをしてしまったとの事でした。
その場では多くの方から強く非難されてしまったとの事ですが、後になって障がいスポーツのあり方に常日頃、疑問と危機感を持っていた方々からは、良くぞ言ってくれたと声をかけられたとの事ですが、まだまだ障がいスポーツの世界も成熟していないという事でしょうか。
 
この知人の話を機会に、障がい者に対する考え方を新ためて考える事がありました。
24時間のチャリティ番組で障がい者が取り上げられたり、また、一か月前の相模原の障がい者施設の入所者19人が殺害された事件も思い出すと、いつ自分の身にも起きるかわからない身近な現実として避けて通れないものだとも感じます。
 
チャリティ番組では障がいを持った方や身内の悲しみ、苦悩、また障がいを克服していく過程を感動的に描きます。
普段関心の無い障がい者に対し、社会の注目を集めるためにこのような番組が存在するのは大変良い事だと思いますし、実際今回私が障がい者について改めて考えるきっかけのひとつになりました。
 
但し、障がい者の周辺のストーリーを美化しすぎ、過剰な取り上げかたをすることで、本質的な障がい者への理解が進まず、妙な先入観や誤解を生んだり、健常者の自己満足ともいえるような過保護の押し付け、過剰な甘やかしが生まれることがあります。
これは一方でその反動としての福祉に対する反発、嫌悪感、差別を生むことさえあり、もしかしたら相模原のあの忌まわしい事件は、そのような背景が要因にあったとも言えるのではないでしょうか。
 
私自信は身近に重度の障がい者の友人、知人がいるわけでも無いので、誤解があれば大変申し訳ないのですが、障がい者とその周囲には、健常者が想像もできない苦悩があると同時に、健常者と同じような善悪入り乱れた感情や欲望も存在するでしょう。
彼らは好奇や同情の視線を向けられ、特別視して欲しいという訳ではなく、健常者と少しでも同じように(優しく、同時に厳しくも)接して欲しい、少しでも同じような活躍ができる機会を与えて欲しいと思っているのではないでしょうか。
そのためには、障がい者を殊更に隔離したり特別視したりせず、障がい者が社会の中に普通に溶け込んで生活している風景、そういった自然な障がい者感を時間をかけて作っていく事が大切ではないかと思います。
 
昨年「一億総活躍社会」という怪しい言葉を持ち出した政府に対し「ソーシャル・インクルージョン」と言い換える事を提唱した菊池桃子氏は、各方面で大きな賛同を得ていましたが、「ソーシャル・インクルージョン」は「社会の中から排除するものをつくらない、すべての人々に活躍の機会がある」という意味で、日本語では「社会的包摂」と訳されます。
近年、閉塞感が強まる中、障がい者をはじめとするマイノリティに対するヘイトスピーチやヘイトクライムが引き起こされる社会状況の中で、いろんな環境にある者、いろんな障がいを持つ者を社会が排除せずに受け入れ、誰もが活躍する機会が与えられる社会を作っていくという概念はとても大切な考え方だと思います。
 
本当の意味でこのような弱者を社会の一員として受け入れるという事は、単に手を差し伸べたり甘やかすという事ではなく、健常者と同様の厳しさとともに、彼らに社会で活躍する働きがい生きがいを持ってもらう事だと思いますし、そのような事ができる社会構造を整える事だと思います。
もちろん、その手の差し伸べ方や接し方のバランスはとてもデリケートなバランスの上に成り立っていて、本人たちの中にも葛藤はあると思いますし、常に試行錯誤しながら弱者や障がいを持つ方の立場や状況を社会が理解する事が大切です。
 
私たちがオリンピックで感じたスポーツの魅力をパラリンピックでも感じられるかどうか、選手たちがオリンピックで感じた達成感をパラリンピックでも感じられるかどうか。
私たちが妙な色眼鏡で障がい者を見ずに、彼らが変な負い目を感じずに生き生きと躍動する姿を見届けられる社会でありたいと思います。 
ポケストップのような職場リーダーを全国に
2016/08/21

この夏、ポケモンのキャラクターを用いた位置情報連動型ゲームであるポケモンGOが大流行しました。私が勤務する名古屋市では、市内で桜の名所として有名な鶴舞公園がこのゲームの「聖地」とされ、連日多くの人々であふれかえっています。ゲームの公開とともに急遽大量の人々がスマートフォンを片手に訪れるようになったため、その模様はニュース番組でも報道されることになりました。こうしたポケモンGOの流行現象について肯定的な意見も批判的な意見も様々にありますが、ここでは私たちが行う空間に対する意味づけに注目してみたいと思います。

ポケモンGOをプレイしていると、それまで全く気にも留めていなかった場所に意味が生まれます。例えば、それまでは誰もがただ通り過ぎていただけの道角が、ゲームに必要なアイテムが手に入るポケストップになっていることがあります。その結果、私たちはその空間に「駅に向かう途中でポケストップが手に入る便利な道角」という新しい意味を与えることになります。

しかし、こうした現象は何もポケモンGOのような位置情報連動型ゲームに限ったことではありません。むしろ、もっと日常的な現象だと言えるでしょう。待ち合わせに便利な場所、パワースポットやデートスポット、高校野球の聖地としての甲子園など、私たちは様々なかたちで空間に意味を与えることで社会生活を営んでいます。そして、その意味は一定で不変というわけでもありません。古地図を手にして町歩きを楽しむ人々がいるように、私たちは空間が時間とともにその風景や意味を変化させていくことを知っています。

ポケモンGOがその流行とともに社会問題化した背景には、このゲームが同時多発的に日本中のあらゆる場所で新しい空間の意味を生み出すことで、もともとあったそれぞれの空間の意味の秩序と競合し、人々が予測していなかった変化を引き起こしているからだと考えることができるのではないでしょうか。

労働組合の活動にとってはやはり職場こそが最も重要な空間だと言えるでしょう。職場もまた空間である以上は、その意味を変化させているのかもしれません。例えば、かつては「職場集会が定期的に開かれる場所」だった職場がその意味を失いつつあるという悩みを組合役員の方々から聴くことがあります。職場が職場である以上、そこが働く場所であることは変わらないかもしれません。しかし、労働組合にとっての職場とは、単に組合員が働く場所であるだけでなく、職場役員が組合員の意見に耳を傾ける場所、執行部の方針を職場役員が伝える場所、課題解決が行わる場所、組合員が働きがいを実感できる場所だったりします。そうした職場という空間の意味は、常に人々の振る舞いによって新しく生まれたり、その内実を変化させていきます。「あの人に相談すれば、職場の課題が解決できる」、そんなポケストップのような職場のリーダーが、組合員にとって真に働きがいのある職場を作っていくのかもしれません。

夏から秋にかけて日本中の労働組合で新しい活動の期がスタートします。私にとっては新任役員研修で多くの職場役員と出会う季節でもあります。全国でポケストップのような職場のリーダーが新しい一歩を踏み出せるように努力を重ねたいと思います。

厄介者(ドローン=drone)にも価値がある
2016/08/14
遠隔操縦できる神出鬼没の無人機「ドローン(drone)」の由来をご存知ですか。
もともと「drone(英語)」は「オスのハチ」を指し、ブーンと飛ぶ「厄介者」という意味があるそうだ。
生物学では、ハチやアリ※1などコロニーを形成して集団生活をする特殊な生物を「真社会性生物」と呼び、
その世界は、女王バチ・女王アリは存在しても王様バチ・王様アリは存在しない完全な女系社会とのことである。
実は働きバチや働きアリもみんなメスであり、オスは女王の交尾の時期だけ現れ、交尾をすると死んでしまう。外敵とも戦わない。
だからオスのハチ(drone)は、「厄介者」なのである。アリの世界になると、オスアリは働くこともしないそうである。
集団生活を営む真社会性生物の世界は、一見無駄だらけである。(ホモ・サピエンスの世界でも、オスは厄介者であり、家では特に働かない者であるとのメスのご指摘は多いのではないか?)
生物の世界は、自然選択で淘汰され適者のみが生存していく極めて合理的な世界なので、厄介者や働かないハチやアリにも何か意味があるはずである。
女王バチ1匹に数千~数万の働きバチ(メス)でコロニーを形成するミツバチの社会では、1匹の女王バチは20~30匹のオスと交尾する。
たくさんのオスと交尾をすることで父親の遺伝子型を多様にし、個体の多様性を確保する。ハチやアリには、刺激に対して行動を起こす限界量に個体差「反応閾値」がある。
1匹の働きバチが蜜源を見つけて巣に戻り、「8の字ダンス※2」で仲間の働きバチに花までの方角と距離を情報伝達する。
その刺激で仲間の働きバチが興奮して花に向かうが、蜜量と応援バチの投入量の調整は、女王バチの判断ではなく反応閾値の個体差によって調整される。
また、巣内の温度上昇は幼虫の死に直結する死活問題であるが、個体によって羽を動かす温度(=反応閾値)が違う。
つまり、反応閾値という個体差(個性)があるので、ハチの投入量を臨機応変に対応しているのである。
ハチやアリにも過労死があるので、全ハチが一斉に小さな花畑に蜜を採集しに行ったり、少しの温度上昇で全ハチが羽を動かす無駄を避けなければ適者として生存はできない。
ハチやアリは高等な脳や判断能力を有していないが、刺激に対する反応に個体差があるので、予測不可能な変化にも柔軟に対応できる組織構造になっている。
多様な個性は短期的には一見非効率ではあるが、長期的には組織としての生存効率(生産性)を高めてきたのである。
高等な脳や判断能力を有し、後天的に学習できるホモ・サピエンスと同列には論じられないが、
ヒエラルキー階層を築き意思決定と命令系統で適者生存を繰り広げる企業社会での多様性(ダイバーシティ)の意義を考える上で、「真社会性生物」の多様性は面白い示唆を与えてくれる。
また、アリの世界でも個体差(個性)は有効だ。7割のアリは巣の中で何もしていないそうだが、アリにとってはいつ出会うかもわからない大きな餌をできるだけ早く発見し、
他のものに捕らえられる前に、自分たちの巣に運ぶことが種の存続にとって何よりも大事なことである。突発的に大きな餌を見つけた働きアリは、
巣に戻る時にフェロモンという化学物質を地面に着けて他の応援アリに餌への道程を情報伝達して動員効率を高めている。
その際、そのフェロモンの道を間違えるアリもいる。ただ、その間違いで近道が見つかることもある。
「お利口な個体ばかりがいるより、ある程度バカな個体がいるほうが組織としてはうまくいく※3」と進化生物学者、長谷川英祐氏は指摘する。
高等な脳や判断能力を否定はしないが、進化生物学の知見では、ドローン(厄介者)や働かない者や道を間違える者もにも存在価値があり、
組織の適者生存には合理的に必要なのである。ただし、ここで「働かない者」とは、長谷川氏の言葉を借りるなら
、「社会の利益にただ乗りし、自分の利益だけを追求する裏切り者ではなく、働きたいのに働けない存在のこと※3」だそうである。
働かない筆者の我田引水が終ったところで、そろそろドロンすることにしよう。
ドローンは神出鬼没なのだから。

※1 アリは、生物分類学上【昆虫網・ハチ目・スズメバチ上科・アリ科】に属するハチの一種。
※2 オーストリアの動物行動学者で、カール・フォン・フリッシュが解明。ミツバチの「8の字ダンス」研究で1973年にノーベル生理学・医学賞を受賞。
※3 『働かないアリに意義がある』(メディアファクトリー新書 長谷川英祐氏)

記録を残すか、記憶に残るか
伊東
2016/08/07
昨日、いよいよリオデジャネイロオリンピックが開幕しました!

これから2週間余りにわたって、熱戦が繰り広げられるわけですが、
日本との時差がちょうど12時間あるため、見ようとすると寝不足が予想されます。
社会人なのでほどほどにしたいと思います。

さて今回のオリンピックでも、さまざまな競技で記録の更新が期待されています。
しかし、国際オリンピック委員会が記録を認定しているのは
アーチェリー、陸上、自転車、射撃、競泳、ウエイトリフティングの競技だそうです。
意外と少ないですね。

世界記録=オリンピック記録とは限りませんが、アスリートにとって
オリンピック記録を更新することは大きな名誉とされています。
競技によっては、メダルを取ると報奨金が出る場合もあります。


もちろん選手たちは順位やタイムといった記録を目指して全力を尽くすわけですが、
結果として記録には残らなくても、つまりメダルを取るわけでもなく、新記録をマークするわけでもなく、
記憶に残る選手もいます。

私が記憶に残っている選手は、ガブリエラ・アンデルセンです。
1984年ロサンゼルスオリンピックにおいて、女子マラソンに出場しました。

順位は37位、タイムもトップとは20分以上も離された記録でしたが、
彼女を有名にしたのは、熱中症にかかってしまいレース終盤フラフラになりながら、
何とか最後まで走り切りゴールした姿でした。

https://www.youtube.com/watch?v=-hzmMbScCM4

組合組織では、その活動を議案書やホームページなど「記録」に残すことが多いですが、
本来、人と人の関わりの中で存在し、仲間や関係者と向き合っていく活動ですので、
いかにして関わる人の「記憶」に残るか重要になるはずです。

オリンピックが終ったあとで、改めて人の記憶に残ることとは何かについて考え、
どのようにして記憶に残る取り組みができるか、議論してみてはいかがでしょうか。