広告労協 産業政策プロジェクト

『広告業界の動向といま労働者・労働組合として必要な対応』


~広告産業の動向~
広告業界では、2008年9月のリーマンショック以降、広告主が経費削減の一環として、広告宣伝費の大幅削減を行ない、2009年に入ってからの大手広告代理店の受注高は、各社平均して対前年比でマイナス15%位にも及ぶような窮地が続いている。媒体別では、各社平均するとテレビ広告が対前年比マイナス10%程度、新聞広告が対前年比マイナス20%程度、雑誌広告は対前年比マイナス30%程度というような状況になっており、経営上広告収入に一定程度依存する新聞社、民放局、出版社などの経営を直撃。大手マスコミ各社の2009夏季賞与は、かつてない大幅減を余儀無くされた。また広告代理店全体で2009夏季賞与が対前年比で推定250億円も減額となり、大半が投資ファンドの傘下にある外資系広告代理店各社では、一斉に人員削減の動きが表面化している。

こうした危険な状況が更に長期間に渡れば、多くの広告代理店、広告制作会社、媒体社等が経営破綻の危機に直面せざるを得ない。このため産業上の当事者である広告労協では、その社会的責任も鑑み、労働組合として緊急対策に着手。大学研究者やマーケティング専門家等の協力も得ながら「広告宣伝費の水準回復の必要性」を産業界全体に向けてアピールする活動を独自に展開している。具体的には、業界紙誌への寄稿、広告主の業界団体や広告主各社の経営層への資料配布など、実行し得る様々な方法論で活動を進め、広告業界の一日も早い回復に向けた努力を重ねている。一方で、デジタル化をはじめとしたメディアの変化や消費者のメディア接触の変化など、産業構造の変貌に発展するような構造的な変化も次々と表れてきている。これら広告業界の直近の動向について、列挙する。


■広告宣伝費減少の危機
『「多品種少量生産」と「値引き」で、企業の広告費捻出が困難な状況に。打開策必要な広告業界』

2008年9月のリーマンショック以降、日本国内の産業にも大きな影響が出ている。企業のコストカットの一貫として、研究開発費や人件費が削減され、広告宣伝費も大幅削減を余儀無くされている。
広告宣伝費を巡っては、その必要性についての企業内での理解がまだ不足している事と共に、その深層においては、以前から産業界そのものに構造的な変化が起きている事に着目しなければならない。
いま業種を問わず、事業効率の低下が顕著になってきている。

第一に、海外生産分も含め供給過剰で、過度な寡頭競争に陥っているのが実情だ。例えば、家電の分野では、国内家電市場そのものが低成長の中、総合電機メーカー各社は、ほぼ類似した製品ラインナップを展開していて、共に厳しい採算状況に陥っている。

第二に、行き過ぎた価格競争がある。特に大手流通業が展開するプライベートブランドで、メーカーのナショナルブランドが大きな打撃を受けている。国を超えた世界的な競争となり、せっかく革新的な新技術の製品を発売しても、すぐに格安の追随製品が販売され、莫大な先行投資が回収しにくいケースも目に付く。例えば従来、家電製品やハイテク製品の分野では、国内向けに製品開発すれば、必然的に海外よりも技術的に先行し、海外市場向けでも優位に展開できた。しかし半導体や大型テレビが顕著な例だが、現在はアジア諸国の方が技術的に先行し、世界市場をリードしているという。日本のメーカーの「日本市場向けの製品開発パターンの優位性」は、もはや保てない状況と言う。

第三に、少子高齢化と人口減という人口上の問題がある。また正社員の比率が低い就職氷河期世代では、年収の低さから住宅や乗用車が購入できず、結婚難にも陥るなど、世代間の貧富の差も浮き彫りになっている。こうした状況から日本市場の将来性に疑問を感じ、海外市場に活路を見出す広告主も出てきている。

第四に、「多品種少量」という手法が広告主の事業効率の低下を引き起こしている事に気付かなければならない。1980年代後半以降、日本の産業は、それまでの「大量生産・大量販売」から「多品種少量」に大きくシフトしてきた。多様化する消費者のニーズに応えるという名目で、少しでも販売を上乗せするために、「多品種少量」に突き進んできたのである。

博報堂出身で、外資系コンサルティング会社の実務経験もある「マーケティング・リテラシー―知的消費の技法」著書の谷村智康氏も、次のように語る。「消費者の嗜好の多様化に応え、メーカーでは多種多様な商品が用意しています。当然ながら、商品ごとの売り上げは小さくなります。また、企業間の激しい競争の末、価格は下がりました。パイも粗利も小さいのですから、そのプロモーションに用意できる予算は減ります。だから、広告は掲載面が小さくなり、露出量が減りました。従来の広告主はこうしてどんどん減っていきました。広告の出稿量が減り、メディアの広告枠は空く一方です。
一部の粗利の高い商品と市場の大きな商品を除いて、広告はなくなっていきました。事業部別や商品別の管理会計を短い期間で見れば、コストは削減され、赤字は減りましたが、ねらったような売れ行きはでなくなりました。「広告デフレ」とでも言うような停滞に、現在の広告は陥っています。そこに消費者の視聴者離れが加わって、広告は危機的な状況です。」

一方、一貫して好調な業績を続けているユニクロは、日本の広告主の多くが陥っている「多品種少量」型ではなく、「大量生産・大量販売」型のビジネスモデルだ。一定の利幅が得られないと、広告主は研究開発投資もできないし、広告も展開できない。いま広告主は低収益性下の限られた利幅の中で、広告宣伝費を拠出している背景にある。限られた広告宣伝費の有効な使い方について、より高度で精緻な方法論が広告主内で経営的に求められているのは、このためである。
広告宣伝費の減少の真の要因とも言える利幅の減少を解決するためには、日本企業全体として、マーケティングの大きな方向転換が必要である。行き過ぎた「多品種少量」型を是正し、「選択と集中」の上、できるだけ利幅の確保できる「大量生産・大量販売」型を拡大してゆく事が望まれる。
その主導役となるべきなのが、広告主のマーケティング上のサポート役である広告代理店だ。広告代理店は、より有効な新しい広告手法を取り入れる事はもちろんだが、市場環境を的確に分析しながら、広告主ができるだけ利幅を確保できるような事業プランを積極的に提案してゆくべきである。
今後広告代理店には、「新しい広告手法への取組み」と「広告主のブランドマネージャー、経営者と渡り合えるだけのコンサルティング能力」が一層求められる。クライアントのビジネスを成功裡に導くのが、広告代理店の使命。しかし現状は、広告代理店側も広告代理店自身の経営問題に目を奪われ、その本来の使命がまっとうできていない状況と言えるだろう。いま広告代理店は、広告主側の理解・協力の下、できるだけ速やかに広告代理店の経営を安定させ、「新しい広告手法の導入」「広告主が利幅を確保できるような事業プランを提案」など、広告主へのサービスの質を高めてゆく必要がある。


図:『広告宣伝費減少の危機』の構造
『広告宣伝費減少の危機』の構造


■短期的な広告効果ばかりが求められる問題点。広告宣伝費の必要性とは。

資生堂のシャンプー「TSUBAKI」は、広告が明確に牽引する形での大ヒット商品だったが、このところ不況も相俟ってヒット商品も小粒化。広告が牽引し、広く世代を超えて支持されるような大ヒット商品が少なくなっている。

しかしながら、期間限定で実施されたエコカーへの補助や2009年5月から実施されたエコポイントといった政府主導のキャンペーンは、乗用車や大型家電製品が好調な販売を記録するなど、大きな効果を挙げている。

したがって広告の機能そのものは衰えている訳でなく、この例のように不況下といえども、消費者に上手く訴えかける事ができれば、消費意欲が喚起される事を物語っている。四半期決算の影響やPOSデータでの販売結果によってコンビニなどでの販売継続が決定される仕組みなどによって、企業は自社が行なう各種施策に対し、より性急な結果を求める傾向にある。この流れの中で、広告効果として、より短期的な「販売促進効果」を求める傾向が強まっている。短期的な販売促進効果の中で、費用対効果を測定するような試みもみられるが、実際には、広告効果は、企業活動全体に影響する総合的なものであり、ブランドイメージに対する「中期的効果」、企業イメージに対する「長期的効果」も働いている事も考慮しなければならない。「広告宣伝費」研究の第一人者、東海大学の小泉眞人教授によれば、不況期は広告宣伝費は削減傾向にあるが、その中においても一定の広告宣伝費の水準を下げなかった企業は、景気回復期において、企業の成長率が高いという研究成果を発表している。特に広告の費用対効果については、

今後も広告主内でシビアな議論が展開されそうだ。その背景として、広告主内部での宣伝部の位置付けの変化や社内での発言権低下が指摘されている。各事業部から広告宣伝費を集める形で運営されている広告主が増えており、事業部からは費用対効果の明確な説明が求められている。中には購買部門が発注窓口となり、専らコスト削減の側面から広告宣伝が管理されているケースもある。

一方、近年は宣伝部への人事異動が短期的で、宣伝部内で広告宣伝のプロが要請されていないという課題も出てきている。広告主内の状況は、広告本来の役割を真に理解した上で広告活動を展開する姿勢からは遠ざかるばかりだ。


■クライアントの動向
『危機感を背景に新たな動きをみせる広告主』
 
リーマンショック以降、消費は低迷し、広告主の業績も大幅に落ち込んでいる。「多品種少量生産」「低価格化」で、事業の低収益下の傾向は強まっている。これらを背景に、自社が展開する広告の有効性を少しでも高めようと、広告主があわただしい動きを見せている。
トヨタ自動車は、社内の宣伝部門を独立させ、子会社の広告関連会社各社も含めて再編する形で、同社のマーケティング活動全般を担う新会社を2009年秋に設立する。この新会社にはトヨタ100%出資の広告代理店「デルフィス」も合流する。自社の将来に対する強い危機感の下、広告代理店に任せては置けないと言わんばかりのダイナミックな動きだ。

一方、イオンは、NTTドコモの協力を得て、自社カードユーザーを対象に携帯電話を使ったOne to Oneマーケティングを行なう新会社「イオンマーケティング」を設立した。一人一人の購買履歴に応じ、セール情報などを携帯電話向けに提供してゆく計画だ。もちろん流通業という特殊性もあるが、イオンの動きは、広告主自身でメディアを持つ事なので、広告主と広告代理店との関係において、大きなインパクトを持っている。また「キリン・サントリーの経営統合、サッポロ、明治、ポッカの経営統合」など、産業界で相次いでいる経営統合は、クライアントの数が減少したり、新たにハウスエージェンシーが設立されるといった側面だけからみれば、広告代理店側にとってはマイナス面が大きいかも知れない。

しかし経営統合に伴なう広告主側の新たなニーズに呼応できれば、これは一つのビジネスチャンスともなってくる。大手都市銀行の合併時にも店舗の看板類の付け替えなど、特需的な発注が起きている。既存の広告代理店が対応しなければ、そこには新業態が発生する事となる。インターネットビジネスが登場してきた際に既存の広告代理店はしばらく静観していだが、その間に独立系のインターネット専業広告代理店が急成長を遂げている。今後広告周辺領域で有望分野が出てきた場合、既存の広告代理店は打って出るしかないだろう。当然クライアントの海外展開の動きにも、積極的に対応すべきである事は言うまでもない。今後クライアント側の動きが加速する中で、広告代理店に求められるサービスは、より一層高度化してくるだろうと想定される。


■メディア経営を支える役割としての広告
『広告はメディア経営を支える役割を担っている』

広告は企業のマーケティング活動を支えると共にメディア側の経営も支えている。広告収入は、民放テレビキー局では売上高の8割位の比率を占め、大手新聞社においても4割位を占め、広告収入が経営上の重要な役割を担っている。メディアが持つ広告枠を広告主に仲介しているのが、広告代理店である。特に日本の広告代理店は、資本的に「独立系」「メディア系」「広告主系」に大別され、新聞社や鉄道会社といったメディア会社の系列の広告代理店が多いのが特徴である。
読売新聞、朝日新聞の発行部数は世界の新聞の中で1位、2位を占めているが、各エリア毎に新聞社、テレビ局がきちんと整備されている状況は、世界的にも類がないものである。メディアの経営が不安定になれば、広告主の広告媒体の確保も難しくなる。
特に社会的インフラとしてのマスメディアは、広告主にとっても有効な広告媒体であり、災害時や選挙など、国として必要な情報を一度に伝達する手段として貴重な存在である。

メディア側と広告主との力関係で言えば、以前は有力な広告枠は限定されていた事もあり、メディア側の売り手市場が続いていたが、インターネットが登場してきた1990年代後半頃からは、フリーペーパーやインターネット媒体など、選択できる広告枠の総量が増え、次第に広告主の買い手市場に移行してきている。テレビで言えば、従来、高視聴率で推移していたプロ野球中継、人気ドラマ枠などは当時明らかにメディアの売り手市場だったが、消費者のメディア接触の分散化傾向の中で、これらの番組の視聴率が下がると共に売り手市場では無くなっている。

近年登場してきたフリーペーパーやインターネット媒体は、広告枠の総量が限られていた従来のマスメディアと違い、無限に広告枠を創出できる。メディアの広告枠も供給過多となり、メディアは自社が持つ大量の広告枠を全て販売しきる事は到底困難である。

更にリーマンショック以降の広告宣伝費の大幅減少は、前例の無い形でテレビ局、新聞社といったマスメディアの経営を直撃している。いまメディアは一様に経営状態が不安定な状態となり、収入上大きな比率を占める広告宣伝費の回復以外には当面の危機を乗り越える手立てが無いのが実情である。マスメディアの機能が弱まれば、広告主も有効なマーケティング施策が展開できなくなる。広告主の経営が厳しい状況にある事は言うまでもないが、産業界全体として、社会的インフラとしてのマスメディアを支える姿勢が必要であろう。


■メディアの動き
『今後はマスメディアとデジタルメディアの並存が想定される』

世界的な潮流として、インターネットをはじめとしたデジタル技術がテレビ、新聞といった既存メディアの領域にも入ってきている。近年、既存のテレビ、新聞といったマスメディアから、新たに登場してきたインターネットをはじめとするデジタルメディア系に消費者のメディア接触が拡大・シフトしてきた。
このため一時は全てのマスメディアがデジタルメディア系に取って替わられるとの観測もみられたが、ここに来てヤフーやグーグルの広告収入が低迷するなど、デジタルメディア系の企業業績も世界的に頭打ちに転じている。広告主のデジタルメディア系への広告出稿拡大はなお続いているが、幅広い層へ訴求する際のインターネット媒体の限界も指摘され、既存マスメディアの効果を再評価する動きも出てきている。

今後はマスメディアとデジタルメディアが並存してゆく事が想定されている。新聞は、アメリカの新聞社は広告収入の依存度が高く経営難となるケースが増えているが、一方フランスの新聞がインターネット上での閲覧で課金制を取り入れ、経営的に成功しており、マードック氏が率いるニューズコーポレーションも傘下の新聞社で課金制を取り入れてゆくと表明している。宅配制に強みを持ち、大部数を誇る日本の新聞社が課金制を取り入れるかどうかはまだ定まっていない。
テレビは、2011年7月の地上波デジタルへの全面移行完了が目前に迫り、今後も有料方式の専門チャンネルが増える事で多チャンネル化が進む。テレビ、新聞に代表されるメディア産業も多様なメディアを抱え「多品種少量生産」の傾向を強めているが、しかし「多品種少量生産」を推し進める事は、メディア自身の経営効率を低下させると共に、消費者のメディア接触をますます分散させ、かえって「数多くの消費者に同時に伝達する」というメディアとしての存在意義を失う事になってゆくので注意が必要だ。


■消費者のメディア接触の動き
『「情報メタボリック」とも言えるような、情報洪水の中に生きる消費者』

博報堂DYメディアパートナーズによる『メディア定点調査2009』調査結果で、20代男性においては、パソコン利用がテレビの視聴時間を上回るなどの調査結果も明らかになっている。消費者がインターネットに長時間接触する要因は、インターネット特有のインタラクティブ性にある。画面を見ながら消費者が選択した方向で、更に情報が現われてくる、という仕組みが大きな魅力だ。興味の赴くままにクリックしてゆけば、現われてくる情報は際限が無い。新聞の投書欄で、「中学生の娘が1日中、部屋にこもってインターネットを見ていて困っている」という内容があったが、これは決して稀有なケースではなく、「インターネット上での通販にはまっている女性が急増している」実態なども同じ背景だろう。
パソコン上で、動画コンテンツを見たり、テレビ放送を視聴する人も増えている。ユーチューブは、瞬く間に市民権を得て、ユーチューブ上に企業が動画コンテンツを掲出する例も増えている。
電機メーカー各社による「アクトビラ」は、好きな番組をインターネット上で視聴できるサービスだ。先行した「Gyao」が採算面で苦労しているが、インターネットを舞台とした動画配信ビジネスは、技術的には進化を続けながらも、当面は、ビジネスとしては試行錯誤の状態であろう。
実際に総務省の推計によれば、ヤフーやグーグルなどインターネットの検索サービスの月間延べ利用者数が、2002年1月の1646万人から2008年1月はその約3倍に当たる4775万人に増加しているという。その伸びは、インターネット利用者の伸びを上回っており、消費者がインターネットを使いこなしている事を示している。2008年1月の1人当たりの月間平均利用回数は8.9回で、2002年1月の約2倍に当たり、インターネット上で検索可能な情報量も、動画や音声ファイルが増えたため、2003年1月の1199テラ・バイトから2009年1月は6877テラ・バイトへと5年間で5.7倍に急増しているという。

一方、テレビでは、CSデジタル放送のチャンネル数増加も予定されており、今後ますます地上波デジタル、CSデジタル放送、インターネット上での動画配信等の間で、視聴者の獲得合戦がエスカレートしてゆく事になるだろう。
この他、フリーペーパー、フリーマガシン等の増加も含め、「情報メタボリック」とも言えるような、情報洪水の中で消費者は生活している。人口の絶対数が増えない中で、消費者に向けた各種メディアは乱立傾向を強めており、広告主も目的に応じ有効なメディアを取捨選択する必要に迫られている。
24時間という、消費者の生活時間の中においては、メディア内での競合だけでなく、携帯電話、ゲーム、携帯音楽プレーヤー等も強力なライバルである。消費者の限られた時間を奪い合う競争は、より熾烈になってゆくと想定される。



~メディア産業・広告業界の危機的状況の構造~
属する産業の状況は、その産業で働く人の待遇や雇用に大きな影響を与えます。労組の皆様を対象に、産業としての発展要因・衰退要因を説明したいと思います。

■産業が衰退してゆく要因

「1つの産業が好調を維持できるのは30年まで」との説もあるが、時代の推移と共にどうしても「成長してゆく産業」「衰退してゆく産業」が現われてくる。産業界全般に共通して、衰退に結び付き易い要因として次の2つが挙げられる。


【産業の衰退を招く要因】(1)値引き

市場経済において、「値引き」は、非常に有力な顧客獲得手段であり、競争相手を振り落とすための手段として威力を発揮するが、よほど原価を下げた上での値引きでなければ、通常は、自らの収益をカットする事となる。
競争相手同士が値引き合戦を展開してゆくと、業界全体における収益性が低下してゆく。企業によっては値引きについてゆけない状況になってくると、参入企業が淘汰されてくる。公正取引委員会が不当廉売を取り締まっている位、危険な競争手段と言える。

*ケース1)日本マクドナルドの例
近年、同社の価格戦略は迷走を続けている。ファーストフード界の一強でありながら、「100円マック」や大幅値引きのクーポン配布など、顧客獲得のため、顧客単価を自ら引き下げる形で、商品戦略やキャンペーンを展開。売上拡大は果たせても、収益がほとんど出ない事業体質に陥ってしまった。2008年からは、大幅値引きクーポンの廃止、値上げなど、収益拡大策を展開し、再び収益の出る体制になってきた。     現在マクドナルドは、既存店売上高が2008年5月から2009年3月まで11か月連続して前年を超え、2008年11月14.4%増、12月2.0%増、09年1月3.4%増、2月1.3%増、3月6.8%増と絶好調となっている。

*ケース2)ダイエーの例
主婦の店「ダイエー」として開店。創業時からのディスカウント路線で急成長を遂げ、売上日本一を達成するものの、借入金負担をカバーするほどの収益を挙げられない状態に陥り、スーパーマーケット業界の首位から転落。

*ケース3)ソニーのテレビ事業の例
売上を支える大黒柱であり、世界シェア2位ながら、市場価格の急速な下落を受け、赤字部門に陥っている。

*ケース4)ガソリン業界の例
品質差が無いだけに、1円単位で価格競争を繰り広げられているのがガソリン業界だ。2009年には四国でガソリン価格の異常なディスカウント競争が勃発。軒並み、仕入れ価格以下での販売価格に陥ったため、公正取引委員会が乗り出している。ガソリンスタンド経営者によれば「他店との対抗上、下げざるを得なかった」という事だが、誰も勝者が出ないゲームを繰り広げても仕方が無い。


【産業の衰退を招く要因】(2)業界外の企業に主導権を握られる事

「規格戦争」という言葉があるが、かつてのVHS対ベータ戦争にみるように、業界規格を制する者は、業界そのものを制してゆける。護送船団方式で、既存企業同士が手を組み合って共存共栄を図っている間は平穏だが、新規参入企業が新たな業界規格を打ち立て、多くの顧客の支持を得てしまった場合には、既存企業の立場は極めて危ういものとなる。

*ケース1)音楽業界におけるアップルコンピュータの例
パソコン市場で劣勢となったアップルコンピュータが新規事業として目を付けたのが、音楽分野だ。レコードやCDの規格にみられるように、音楽業界は、ワーナー、EMI、BMGなど、いくつかのメジャーが共同で統一基準を作りながら発展し、世界市場をコントロールしてきた。日本でも各社が共同で配送センターを運営しているほど、業界の統一にはこだわってきたが、業界外のアップル社が自社の機器を売るために「ファイル形式でインターネット配信」という音楽ソフトの新しい流通形態を作り、多くのユーザーの支持を得てしまった。重要な部分を新規参入のアウトローに握られ、既存の音楽ソフト各社は瞬く間に厳しい状況に陥ってしまった。

*ケース2)消費者調査業界の例
消費者調査業界は、1990年代後半からのパソコンの普及をベースに新たにインターネットを活用した調査手法が模索され、2001年頃からインターネットを活用した調査会社がベンチャー企業として登場。一方、従来の調査会社は、IT技術に不得手という事もあり、インターネット調査市場への参入が遅れ、2004年頃には新興のベンチャー企業に市場をほぼ独占されてしまった。新興のベンチャー企業が受注競争を繰り広げる中で、調査案件1件当たりの受注単価が大幅に低下。薄利多売の業界に変貌してしまった。


■企業同士の競争環境について

・英語圏は、産業移転し易い。 
言語の障害が無いので、コストの安い国に産業が丸ごと移転してしまう。 
このような例がヨーロッパやアジアでみられる。 
労組では、政府同士で協定を結ばせ、自国の産業移転に歯止めをかけている。

・日本は言葉の壁があり、特に言語を操るマスコミ産業は外国企業が 参入しにくい構造になっている

・これまでマスコミ産業は、ページ数や時間など、上限が限られた中での競争であった。
しかし、インターネットは、コンテンツ量が無限となり、またフリーペーパー、フリーマガジンなど、インターネット以外にも供給されるコンテンツ量に上限の無い形が出てきており、希少性が相対的に低下している。


■産業の栄枯盛衰にとって、収益構造は極めて重要

・特に技術が関わる産業は、常に世界規模での国を越えた競争を余儀無くされ、技術力、コストなどの面で常に厳しい努力を強いられている。

*ケース1)アメリカ企業の例
アメリカは、コンピュータ、自動車といった自国を発祥とする産業が海外企業にとって変わられてしまっている。 アメリカの企業は、率先してアウトソーシングを進め、生産現場を海外に移転させてきたが、それが産業の空洞化を招き、競争力を失なってしまう原因ともなっている。日本の家電業界も同様で、東南アジア諸国に事実上の生産地が移転している。

*ケース2)小売単価下落で、収益を出せないパソコン業界の例
ノートパソコンが5万円台となるなど、世界的に単価下落。

*ケース3)インターネット取引にシフトする中で、手数料率の大幅低下を招いた証券業界の例
1990年代までは野村証券が法人客・個人客共に大きなシェアを握り、証券市場全体への影響も多大であった。従来の取引方法は、営業マンが電話などで取引を仲介し、仲介手数料は一定のレベルを維持していた。
1990年代後半からの新たにインターネットによるセルフサービスの取引手段が開発され、先行した中小証券会社やインターネット専門証券会社は、安価な手数料で個人客を中心にシェアを伸ばした。大手証券会社は静観したが、手数料水準が大幅に異なるため、インターネット取引がむしろ主流となった。従来取引は、相対的な割高感になり、業界全体として手数料率の大幅低下が進む事となり、大手証券会社は相次いで経営危機に陥る事となった。


■海外のメディア産業のケース

・海外で、メディア産業の構造変化、既存メディア企業の経営危機は先行しており、生き残り策の一環として、ヨーロッパなどでは、新聞、放送、出版などを含む巨大なメディア産業に移行しているケースがみられる。

・傘下のメディア間でコンテンツを共有し、コンテンツ資産の有効活用を図る。メディアを連動させる事での相乗効果を狙ってゆく。


■産業としての生き延び方

(1)商社の例
1980年代以降、商社をはじめとする中間業者を介さない、「中抜き」と呼ばれる直取引が増え、一度は”商社、冬の時代”に転落したが、追い詰められたあげく、従来の中間業者的な立場から転じ、リスクを持ちながら自ら投資し、事業を興す形にシフト。かつての“冬の時代”から復活を遂げている。
復活後の彼らのビジネス手法は、「選択と集中」にある。

大手商社各社は、現在「ラーメンからミサイルまで」と評された商社の総花的な経営を否定。経営資源の投入にメリハリをつけ、戦略部門と位置づけた分野ではあらゆるビジネスで強みを発揮する「特定分野の総合化」を推進する。商社業界における「選択と集中」の一つの方向性を打ち出している。

一方、総合家電メーカー各社は、従来は世界的な競争力も高く、日本の代表的な花形産業であったが、一様に厳しい局面に入っている。「総合」の看板にこだわり、白物家電から半導体まで、広範な事業領域で展開してきたが、現在は、各所で不採算部門を多く抱え、大変厳しい経営状態となっている。


(2)イギリスにおける広告産業の例
イギリスは、近年、国の施策として広告産業をはじめとする、クリエイティブ系の産業の振興に注力。それ以降、イギリス国内のクリエイティブ産業の従事者も増え、国別の広告費でもランクアップが見込まれている。


■各メディア毎の広告費の推移について

・広告収入に依存しないメディアも中にはあるが、テレビ、新聞など、マスコミ産業の多くが経営上、何等かの形で広告収入に依存している。したがって、今後の広告収入の動向が経営上の鍵を握っている。

中長期的には、消費者が接触する、効果の高いメディアに広告費はシフトしてゆく。
営業力でカバーできるのは一時的に過ぎない。
したがって、各メディアは消費者により多く接触してもらえるようにコンテンツの質を高めてゆく事が重要である。

・短期的な側面としては、リーマンショック以降、広告主各社における収益確保の緊急避難的な施策として、広告宣伝費の削減が実行されており、懸念事項として、一度削減された広告宣伝費が元の水準まで戻るのかどうか、に注視してゆく必要がある。
もし日本経済が景気回復にこぎつけた際に、一度下げた広告宣伝費が元の水準に戻らないならば、広告市場だけは回復できず、広告収入に依存するメディアは、依然として厳しい状況が続く事となる。


■メディア産業・広告産業全体の危機的状況の中、いま労働組合(労連)として、取り組むべき事
『今後のメディア産業・広告作業の存続の鍵を握るのが労働組合。その役割は極めて大きい』

・労連は、当該産業の従業員を代表する“業界団体”としても位置付けられる。 その立場で業界や社会に対し、主張できる事もあるのではないか。

・近年の労組は既得権を守るという立場で行動する事も多く、どうしても受け身の姿勢になり易いのも事実だが、アメリカの自動車産業での労組は産業自体を駄目にした抵抗勢力として社会的に非難を浴びている。ひたすら自らの雇用・待遇を守る為だけに行動していては、社会からの共感は得られない。

・昨今の危機的状況に対し、これまで順調に業界が成長してきた中で生きてきた経営陣に果たして改革ができるのか。これまでのメディア産業における経営セオリーが通じないような、新たな局面を向かえている。

・一方、産業自体が危機に直面している状況において、経営陣に期待する事も難しいならば、労組も受け身の姿勢でなく、当事者として自ら状況を変えてゆくためのアクションが必要。若手が将来に希望を持てるような業界、職場にしてゆくために、少なくともトライしてみる価値はある。

・労組も経済、経営を学ぶ。経営陣と経営論で渡り合い、リードしてゆく事が望まれる。むしろ現場発想での経営改善策が提案できるのではないか。こうした動きによって、経営側の労組に対する接し方、評価も変わってくる。

~労組として注意したい事項~

<値引きをすると、結局は自らの給与を引き下げる結果に>
労働組合として注意しなければいけないのは、値引きの問題だ。当面の売上げを確保するために値引きに走る気持ちも分かるが、値引きによる増収効果以上に企業の収益力低下を招き、ひいては経費削減、人件費削減を進めざるを得なくなる。

<マスコミ産業の場合、ベストセラーが大きな収益をもたらす>
マスコミ産業の多くは、コピーしたものを販売するビジネス形態で、マスターを作るための一定の原価が掛った後は、販売数が増えるほど、収益が加速度的に増えるという構造を持つ。ベストセラーが会社の経営を救ったという話は、出版社、レコード会社、映画会社では、過去からも良く耳にする話だ。インターネットの浸透や生活時間の24時間化はベストセラーを生み出す構造をも変えつつある。経営向上策として、労働組合の立場としてもベストセラー作りの在り方に取り組むべきではないか。

<マスコミ産業は現場の裁量が大きい。現場発の改善策が求められる>
マスコミ産業は現場の裁量が大きいだけに、他産業以上に、現場発の改善策が求められる。労組は、現場の声を集約する役割がある。



~労働組合として、産業対策を推進してゆく為の特別決議~
電通の「2008年日本の広告費」によれば、2008年1-12月の日本の総広告費は6兆6926億円で前年比95.3%、5年ぶりの前年比マイナスとなったが、2008年9月のリーマンショック以降、広告主が広告宣伝費の大幅削減を行ない、2009年に入ってからの大手広告代理店の受注高は、各社平均で対前年比でマイナス15%位にも及ぶような窮地が続いている。その影響は、広告収入に経営的に依存する各マスコミに及んでいる。

民放連がまとめた地上民放194社の2008年度営業総収入は2兆4,333億円で前年度比5.2%減、経常利益の合計では47.1%の前年減となり、3年連続の減収減益となり赤字決算となった社は半数以上の107社に及んだ。新聞も総発行部数は97年の5,377万部がピークで08年は5,149万部と漸減が続き、毎日新聞北海道版、各地方紙で夕刊廃止が相次いだ。出版産業は1997 年の2 兆6,000 億円のピーク以降、10 年を超える低迷状況が続き、今年の出版販売額が2 兆円を下回ることは確実である。

音楽産業では、世界的にソフトの販売不振が顕著で、市場の縮小が続いており、映画産業でも邦画の健闘やシネコンの増加はあるものの、映画人口全体としては持ち直してはいない。またリーマンショック以降、情報システム産業は、受注単価の減少に直面している。


『マスコミという、重要な社会インフラの危機』

人々に必要な情報を提供するマスコミは、一つの重要な社会インフラである。しかし、重要な役割を担っているマスコミが、リーマンショック以降、世界的な不況下で、一様に経営的な危機に直面している事を私達は強く認識しなければならない。報道に携わる人員が減れば、当然報道上、カバーできる範囲も狭まり、報道の質も低下せざるを得ないだろう。アメリカの新聞業界では、有力新聞社の経営破綻も相次ぐ事態に陥っているが、マスコミの本来の役割を発揮しゆくためには、やはり健全な経営状態を保ち、一定水準での従業員の雇用・待遇の確保は欠かせない条件と言える。 また景気要因とは別に存在する構造的な危機は、リーマンショックの遥か以前から、マスコミ産業に押し寄せてきている。今日のマスコミの多くは、その原型がインターネットの登場以前に形成されている。テレビ放送は、1950年代からだが、新聞、印刷のように数百年に及ぶ歴史を有するメディアもある。これらのメディアの大半は、瞬く間に台頭してきたインターネットと競合する。しかしインターネットがこれだけ広く社会に普及する中で、インターネットと無縁である訳にはいかないだろう。

問題はインターネットをどう取り入れてゆくのかだ。しかし、課金制の導入など、インターネットをどうマスコミ産業に取り入れてゆくのかは容易ではない。いまだ世界のメディア産業全体でも確かな方向性が定まっていないのが実情だ。

産業の構造的な危機を認識しながら、本質的な対策や積極的な価値向上策を講ずることもなく、ひたすらその場しのぎの経費と人件費の大幅な抑制ばかりを強めていけば、短期的には生き延びられても、やがて産業が行き詰まる事は目に見えている。その場しのぎの抑制策が結果的にさらなる収入減につながる負のスパイラルに陥りかねない危険が高まっているのだ。

こうした状況を受けて、各労連では、このところ労働組合発の産業対策活動の拡充を急いでいる。  全印総連では「公正な産業秩序の確立を!印刷出版フォーラム21」円卓会議を例年開催し、印刷出版関連産業の抱える問題点を労使で共有し、共同で改善に取り組んでいる。新聞労連は3期目を迎える産業政策研究会をさらに強化し、新たに組合員や学識経験者から募り、産学一体となって研究を深め、メディア産業の明確な将来像を示すため、業界全体を見据えた新たなビジネスモデルの創出に取り組んでいる。電算労では、2009年4月に経済産業省に申し入れを行い、国家レベルでの「産学連携でIT人材育成強化加速」「労働者への新技術を習得のための学習支援」を要請した。広告労協では、自ら主体となり「広告宣伝費の必要性」を産業界全体に発信している。

報道をはじめとした人々の情報ニーズは変わらないとしても、マスコミ産業の中で、これらインターネットをはじめとした日夜進歩を遂げるテクノロジーをどのように活かしてゆくのか。それはマスコミの将来を考える事であり、同時にそこで働く私達自身の問題でもある。労働組合として、この問題を正面から捉え、今後もマスコミが、民主主義社会を代表する一つの重要な社会インフラとして機能できるように、MICとして活発な議論と力強い行動を進めていきたい。
2009年9月26日

日本マスコミ文化情報労組会議第48回定期総会


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