国会で労働者派遣法の改正案が審議されるが、そもそも企業はなぜ派遣労働者を雇用するのだろうか。
一般的に安い労働力として派遣労働者を使用しているという論調が多いが、詳しく見ると必ずしもそうとだけとはいえない面がある。メーカーが派遣会社に支払う費用と、派遣労働者本人が貰う金額に差があるからである。もともと派遣労働者を雇用している派遣会社は、メーカーから貰う費用と本人に払う費用の差額を利益として成り立っている。メーカーから見たら、派遣会社に支払う費用が直接雇用している者より多少は安いということがあったにしても、支払う人件費がコストとして著しく安いというわけではない。むしろメーカーは派遣会社を使わずにメーカー自身がパートなどを採用した方がコストは安い場合もある。しかし、賃金のみの比較ではなく、福利厚生や退職金を含めた労務費全体の比較をすれば派遣労働者のほうが安くなるのだが、メーカーが派遣労働者を使用する理由は、近年はコストよりも雇用調整に重きをおくようになってきている。正規社員の解雇は民法上の「解雇権濫用の法理」と「整理解雇に関する判例法理」で厳しく制限されているからで、仕事の繁閑に即応できる雇用調整のためには派遣労働者の方が理に適っていると考えているからである。
事業を運営する企業の側から見れば、事業は未来永劫保障されているわけではない。失敗して撤退することもあるし事業構造の改革もある。あるいは一年中一定した業務量などは期待できない。すると雇用調整といわれるように、労働者が不足したり余ったりすることは避けようがない。不足するときはその分を残業やアウトソーシングなどで補おうとするが、問題は余った時である。前述したように正規社員を解雇するのは二つの法理によって難しいから、「雇用調整にためには派遣労働者のほうが理に適っている」以上、万が一のときのために正規社員を増やすよりは派遣労働者を雇用するようになる。この原理が働く限り、派遣労働者の正規社員化は、簡単に実現しない。皮相的にいえば、正規社員の解雇が柔軟にできれば派遣労働者の正規社員化は簡単にできる理屈だ(こうした中で派遣会社であるメイテック社のように、派遣社員を自社の正規社員として遇し、その上で各企業に派遣する先進的な企業は特筆される。他企業から社員の派遣依頼がなくても当事者の雇用・賃金などの処遇に派遣会社が責任を持っているのである)。
日本の解雇に関する法律は、二つの概念から成り立っている(解雇予告義務を定めた労働基準法は別にして)。一つは民法上の「解雇権濫用の法理」、一つは「整理解雇に関する判例法理」である。第一の点は、労働契約法の16条で、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合はその権利を濫用したものとして無効とする」とし、すべての解雇の法的根拠を規定している。
二つ目は、解雇の一形式でもある「整理解雇に関する判例による法的根拠」で、今問題になっているJALの人員整理はこれに当てはまる。これはつぎの四つの要件が整っていなければ「解雇権の濫用」として無効とされる。四要件とは、[1]経営上の必要性があること(客観的な経営危機が存在すること)。[2]解雇回避努力の履行をしたか(解雇を避けるための努力を尽くしたか)。[3]手続きに合理性があったか(労働者・労働組合への事前説明・協議を行ったか)。[4]人選に合理性があるか(人選は公平に行われたか)。
この二つの法理によって、本人の不始末などの懲戒以外では余程のことがなければ解雇は認められない。しかしいずれの法理も抽象的で明確に黒白がついているものでもない。たとえば、労働契約法による「客観的に合理的な理由を欠いている」のか否かの判断は、裁判所に委ねられるし、「社会通念上相当であると認められない場合」の判断基準も同様である。
整理解雇の法理も同じで、[1]経営上の必要性の判断基準、[2]解雇回避努力の程度問題、[4]人選における「公平」の証明など、こちらも裁判所の判断に委ねられることになる。解雇を申し渡された労働者が、不服として裁判所に訴え、勝訴にしろ敗訴にしろ長期間の裁判に耐えなければならない。その間の生活費を工面しなければならないし、勝訴しても十年一昔の譬えのように、原職は大きく様変わりしているであろうし、職場の人間関係も昔のままではない。結局は原職に戻ることも適わず、金銭で解決を図らざるを得ないのが現実だ。
解雇の話題に欠かせないのがアメリカのレイオフ制度である。(ウィキペディアによれば)レイオフ(layoff)とは、もともとは再雇用を条件とした一時解雇のことであった。現在では、単なる大規模な解雇を意味し再雇用は想定されないことも多い。製造業などにおいて、材料の納入の遅れ、あるいは製品の需要が振るわないことなどの理由から工場などで、作業員に一時休暇を言い渡したことが語源。企業の業績悪化時に一時的な人員削減を行い、人件費を抑える為の手段であり、業績回復時の人員採用の際に優先して再雇用を約束するというものである。例えばアメリカでは、先任権に基づいたレイオフ制度を用いている。アメリカにおける先任権とは、その企業における勤続年数で決定され、レイオフ実施においては、先任権の低い労働者からレイオフされる。またレイオフが終了し復帰するときでも先任権が重視されることになっている。しかし、先任権重視の昨今でも、人員削減においては、いきなり解雇するというケースは非常に少なくなっており、企業年金の繰り上げ支給、割り増し支給、解雇手当などを退職への誘因策とすることで、自発的退職が行われるようになっているのが現状である。日本の「帰休」をレイオフといわれることがあるが、日本の帰休は従業員籍が企業にあり、帰休期間中も自宅待機あるいは出勤して教育訓練業務を行うなどするが、籍はあくまで企業にあり解雇扱いされるアメリカの制度とは異なるものである。上記のように、語源が「従業員への一時休暇の言い渡し」にあるために誤解されたものと推測される。
もし日本でもアメリカのようなレイオフ制度が採用されていれば、正規社員の一時解雇が認められるので人員調整が柔軟になり、非正規社員を必要としなかったかもしれない。
長期的には、正規・非正規の区別のない働き方が模索されなければならないし、その上で、好むと好まざるとに係わらずある程度の雇用調整を柔軟に受け入れる仕組みを作っておくことが必要になるだろう。そして短期的には、雇用調整されやすい労働者にはどのような社会的システムを用意しておくのかを整備しておかなければならない。今よりももっと充実した行政を中心とする職業訓練制度と失業保険制度の確立、そして住居保障のあり方などが必要と
される。然し、その前提はあくまで使用者が安易な雇用手段に頼らないことであり、そのような使用者が出た場合に自浄能力を発揮できる経済界でなければならない。
また、前述したメイテック社のように、社員を自社の正規社員として遇すれば、受入れ先企業からみれば非正規社員であっても、メイテック社の正規社員であり、当該労働組合は他組合と同様に「組合員の雇用と労働条件」に取り組むことになる。メイテック労組の活動内容を見ると、他企業からの派遣要請を受けることが業績に直結するので、他組合に比しても、組合員の職業能力の向上に取り組むなど、眼を見張る先駆的な活動が多い。こうしたことを総合的に考慮すれば、労働組合として自社が派遣社員を求めるときには、メイテック社のようにきちんとしている会社から受けるよう、会社側に求めることも重要な活動といえるのである。
(2011年1月25日)
一般的に安い労働力として派遣労働者を使用しているという論調が多いが、詳しく見ると必ずしもそうとだけとはいえない面がある。メーカーが派遣会社に支払う費用と、派遣労働者本人が貰う金額に差があるからである。もともと派遣労働者を雇用している派遣会社は、メーカーから貰う費用と本人に払う費用の差額を利益として成り立っている。メーカーから見たら、派遣会社に支払う費用が直接雇用している者より多少は安いということがあったにしても、支払う人件費がコストとして著しく安いというわけではない。むしろメーカーは派遣会社を使わずにメーカー自身がパートなどを採用した方がコストは安い場合もある。しかし、賃金のみの比較ではなく、福利厚生や退職金を含めた労務費全体の比較をすれば派遣労働者のほうが安くなるのだが、メーカーが派遣労働者を使用する理由は、近年はコストよりも雇用調整に重きをおくようになってきている。正規社員の解雇は民法上の「解雇権濫用の法理」と「整理解雇に関する判例法理」で厳しく制限されているからで、仕事の繁閑に即応できる雇用調整のためには派遣労働者の方が理に適っていると考えているからである。
事業を運営する企業の側から見れば、事業は未来永劫保障されているわけではない。失敗して撤退することもあるし事業構造の改革もある。あるいは一年中一定した業務量などは期待できない。すると雇用調整といわれるように、労働者が不足したり余ったりすることは避けようがない。不足するときはその分を残業やアウトソーシングなどで補おうとするが、問題は余った時である。前述したように正規社員を解雇するのは二つの法理によって難しいから、「雇用調整にためには派遣労働者のほうが理に適っている」以上、万が一のときのために正規社員を増やすよりは派遣労働者を雇用するようになる。この原理が働く限り、派遣労働者の正規社員化は、簡単に実現しない。皮相的にいえば、正規社員の解雇が柔軟にできれば派遣労働者の正規社員化は簡単にできる理屈だ(こうした中で派遣会社であるメイテック社のように、派遣社員を自社の正規社員として遇し、その上で各企業に派遣する先進的な企業は特筆される。他企業から社員の派遣依頼がなくても当事者の雇用・賃金などの処遇に派遣会社が責任を持っているのである)。
日本の解雇に関する法律は、二つの概念から成り立っている(解雇予告義務を定めた労働基準法は別にして)。一つは民法上の「解雇権濫用の法理」、一つは「整理解雇に関する判例法理」である。第一の点は、労働契約法の16条で、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合はその権利を濫用したものとして無効とする」とし、すべての解雇の法的根拠を規定している。
二つ目は、解雇の一形式でもある「整理解雇に関する判例による法的根拠」で、今問題になっているJALの人員整理はこれに当てはまる。これはつぎの四つの要件が整っていなければ「解雇権の濫用」として無効とされる。四要件とは、[1]経営上の必要性があること(客観的な経営危機が存在すること)。[2]解雇回避努力の履行をしたか(解雇を避けるための努力を尽くしたか)。[3]手続きに合理性があったか(労働者・労働組合への事前説明・協議を行ったか)。[4]人選に合理性があるか(人選は公平に行われたか)。
この二つの法理によって、本人の不始末などの懲戒以外では余程のことがなければ解雇は認められない。しかしいずれの法理も抽象的で明確に黒白がついているものでもない。たとえば、労働契約法による「客観的に合理的な理由を欠いている」のか否かの判断は、裁判所に委ねられるし、「社会通念上相当であると認められない場合」の判断基準も同様である。
整理解雇の法理も同じで、[1]経営上の必要性の判断基準、[2]解雇回避努力の程度問題、[4]人選における「公平」の証明など、こちらも裁判所の判断に委ねられることになる。解雇を申し渡された労働者が、不服として裁判所に訴え、勝訴にしろ敗訴にしろ長期間の裁判に耐えなければならない。その間の生活費を工面しなければならないし、勝訴しても十年一昔の譬えのように、原職は大きく様変わりしているであろうし、職場の人間関係も昔のままではない。結局は原職に戻ることも適わず、金銭で解決を図らざるを得ないのが現実だ。
解雇の話題に欠かせないのがアメリカのレイオフ制度である。(ウィキペディアによれば)レイオフ(layoff)とは、もともとは再雇用を条件とした一時解雇のことであった。現在では、単なる大規模な解雇を意味し再雇用は想定されないことも多い。製造業などにおいて、材料の納入の遅れ、あるいは製品の需要が振るわないことなどの理由から工場などで、作業員に一時休暇を言い渡したことが語源。企業の業績悪化時に一時的な人員削減を行い、人件費を抑える為の手段であり、業績回復時の人員採用の際に優先して再雇用を約束するというものである。例えばアメリカでは、先任権に基づいたレイオフ制度を用いている。アメリカにおける先任権とは、その企業における勤続年数で決定され、レイオフ実施においては、先任権の低い労働者からレイオフされる。またレイオフが終了し復帰するときでも先任権が重視されることになっている。しかし、先任権重視の昨今でも、人員削減においては、いきなり解雇するというケースは非常に少なくなっており、企業年金の繰り上げ支給、割り増し支給、解雇手当などを退職への誘因策とすることで、自発的退職が行われるようになっているのが現状である。日本の「帰休」をレイオフといわれることがあるが、日本の帰休は従業員籍が企業にあり、帰休期間中も自宅待機あるいは出勤して教育訓練業務を行うなどするが、籍はあくまで企業にあり解雇扱いされるアメリカの制度とは異なるものである。上記のように、語源が「従業員への一時休暇の言い渡し」にあるために誤解されたものと推測される。
もし日本でもアメリカのようなレイオフ制度が採用されていれば、正規社員の一時解雇が認められるので人員調整が柔軟になり、非正規社員を必要としなかったかもしれない。
長期的には、正規・非正規の区別のない働き方が模索されなければならないし、その上で、好むと好まざるとに係わらずある程度の雇用調整を柔軟に受け入れる仕組みを作っておくことが必要になるだろう。そして短期的には、雇用調整されやすい労働者にはどのような社会的システムを用意しておくのかを整備しておかなければならない。今よりももっと充実した行政を中心とする職業訓練制度と失業保険制度の確立、そして住居保障のあり方などが必要と
される。然し、その前提はあくまで使用者が安易な雇用手段に頼らないことであり、そのような使用者が出た場合に自浄能力を発揮できる経済界でなければならない。
また、前述したメイテック社のように、社員を自社の正規社員として遇すれば、受入れ先企業からみれば非正規社員であっても、メイテック社の正規社員であり、当該労働組合は他組合と同様に「組合員の雇用と労働条件」に取り組むことになる。メイテック労組の活動内容を見ると、他企業からの派遣要請を受けることが業績に直結するので、他組合に比しても、組合員の職業能力の向上に取り組むなど、眼を見張る先駆的な活動が多い。こうしたことを総合的に考慮すれば、労働組合として自社が派遣社員を求めるときには、メイテック社のようにきちんとしている会社から受けるよう、会社側に求めることも重要な活動といえるのである。
(2011年1月25日)



