前々号(④の①)では眼に見えない将来のリスクとして雇用への影響にふれた。本号では、2012年11月26日から気候変動枠組み条約を話し合うCOP18が開催されたこともあり、忍び寄る将来のリスクの象徴といわれる地球温暖化について、いくつかの資料をもとに考えてみることにしたい。
過去千年程度の地球の気温は樹木の年輪や氷河の厚さ、化石などの調査研究によって平均気温の変動幅は、せいぜい百年で0.1℃程度であった。20世紀は百年間で一気に1℃弱の上昇となっている。原因はCО²濃度といわれている。地球の熱エネルギーのほとんどは、太陽の核融合により発せられる。地球が一日に受け取る太陽からの光エネルギーは、人間が一日の使う総エネルギーの1万倍になる。
太陽からくる可視光線は大気を通過し、地面にふりそそぐ。この光エネルギーは地表を温め熱エネルギーに変わる。熱せられた地表がまた光を発する。熱せられた物体は熱放射によって赤外線を発する。地球を覆っている大気は、可視光線は通過させるが、あたためられた地表から発せられる赤外線は吸収してしまう。二酸化炭素CO²はまさに、そうした気体分子なのである。産業革命(1700年代)以後の地球の大気中のCO²濃度の上昇と、地球の温暖化は、非常によく一致している。CO²は宇宙から入ってくる光はそのまま通すが、宇宙に逃げていく光は通さずに吸収してしまうので地球はどんどん温められる。それこそが地球を温暖化させる理由だといわれる。
このCO²の上昇は言うまでもなく自動車や火力発電による化石燃料の消費による。日本だけで一年間に12億トン、一人当たり9トンのCO²を放出していることになる。アメリカは一人当たり日本の倍の18トンを放出している。国民生活の向上はどんな国でも目指しているから、発展途上国は経済成長を通じて国民生活を豊かにしようと取り組んでいる。今後、途上国といわれるアジア、アフリカ諸国のいずれもが、先進国に追いつけ追い越せと経済成長を図るのは眼に見えている。そうしなければ国民に働く場所を提供し、国民生活の向上を図ることができないからである。途上国が経済成長を遂げる過程で、アメリカ並みに一人当たり18トンものCO²を放出するようになったら、地球環境は壊滅的な結果を招いてしまうに違いない。先進国は今まで、豊かな生活を享受しようと、膨大なエネルギーを使い大量のCO²を排出してきた。それを忘れて、今度は途上国が成長を目指す過程でCO²を排出するのは認めないというのでは不公正の誹りを免れない。この難問に対して有効な解決策が見出せない中だからこそ、先進国が今まで以上にCO²の排出をするようなことは許されないはずである。にもかかわらず、日本はその道を歩み始めている。CO²排出量の大きい火力発電を全電源の65%に高めようとしているのだ。
京都議定書は、基準年である1990年に対し、2008年~2012年の5年間に、平均でCO²を6%削減すればいいことになっている。2012年度の削減は1.0%と少ないが、平均値を算出する5年間の中には、リーマンショックによる影響が大きかった2009年度のマイナス13.7%を含んでいるので、昨年度、今年度と前の年よりCO²の排出量が増えているにも係わらず、基準年と比べれば数字上は1.0%の削減が出来たことになる。当初から問題になっているように、この排出量は、海外から購入した排出枠の分で相殺できる。日本は基準年の3.8%分を毎年海外から購入しているので、その分を日本の排出量から相殺することで、1.0%の削減を達成している。さらに、電力会社が火力発電のために購入し、政府に寄付していた排出枠分も使ったうえでの結果である。電力会社分の寄付分がなければ達成できなかったのである。電力各社の経営が悪化し始めた今後、この寄付は当てにはできないことになる。2009年の国連総会で、時の総理大臣が2020年までに25%の削減を達成すると演説した日本は、原発を停めてCO²の排出量を増やし続けている。国際社会から二枚舌などと、どのような非難を受けても抗弁しようがないのである。
CO²の排出によって招く地球温暖化の影響の最たる現象の一つは、近年の異常な熱波の出現である。多発する回数ばかりでなく、気温そのものの高さである。世界的には異常な熱波(ヒートウェイブ・heat wave)と呼ばれる。熱波の厳密な定義はないが、「数十年から百年くらいに1回おきるような高温がかなり広い地域(ヨーロッパとか南アジア位の地域スケール)で、2~3日以上継続し、普通は温度も高い」とされてきた。だから、1日だけの高温では熱波といわないし、一つの国だけで高温が続いても熱波とは言わない。日本では35℃以上を猛暑日というが、継続する期間や地域範囲にはふれていないから熱波とイコールではない。猛暑日が2~3日継続してアジア地域に広がれば熱波になる。これまでは高温の領域・限界を35℃としてきたから、40℃とか45℃は想定してこなかった。また、今までは数十年から数百年に1回程度の異常高温だったが、最近は数年、場合によっては連続して高温になり記録が更新されるようになった。
2007年7月には、中央ヨーロッパ・東ヨーロッパの広い範囲を熱波が襲った。同年7月24日に最高気温を記録した上位5番の国は(都市名は省く)、
①マケドニア(45.7℃)、②イタリア(45.6℃)、③セルビア(44.6℃)、④ブルガリア(44.6℃)、⑤トルコ(44.5℃)である。
未確認ながらギリシャでは47℃を超えた地域もあるという。みな地中海周辺部だが、高温40℃以上を観測した地点数は90に達している。この熱波の影響は、農業・水産業などの生産低下、熱中症などの病気や死亡率の増大、森林火災などに表れた。ルーマニア一国だけで農業被害は2,000億円に達したという。
2003年の熱波では「8月1日~20日に14,800人以上が死亡している」(フランス国立健康研究所)。同年の主な国の死亡者数の傾向は以下のようである。
①フランス 14800人、②ドイツ 7000人、③イタリア 4200人、④スペイン 4200人、⑤イギリス 2139人
また、1916年にブルガリアで45.1℃を観測している。こうした地球表面の高温化も35℃程度なら大丈夫らしいが、45℃にもなれば人が住むことはできなくなるといわれている。
まだ記憶に新しい2012年の世界の異常気象は、アメリカ、中国などで砂漠化を進め、さらにアメリカのトウモロコシの不作が食糧不足と価格の上昇などを招いたことはよく知られている。乾燥地帯が増加する一方で、ゲリラ豪雨が頻発し、台風やハリケーンも大型化し、各地に洪水、土砂崩壊、地滑りなどの自然災害を多発させているように世界の気候は二分され始めた。日本各地では温暖化により自然災害の多発で被害が増大する一方、漁場で捕獲できる魚も北上しているという。今まで沖縄海域で獲れた魚が九州海域でも捕獲されるようになってきた。主食であるコメの生産適地も北上しているそうだ。将来、北海道だけがコメの生産適地になると指摘する識者さえもいる。
日本では原発をゼロにすると火力発電の割合を65%に高めなければならない。二酸化炭素の排出増加により自ら決めた京都議定書を守らず、かつ気候変動のリスクを負う。その道を選択しようとしている。
京都議定書の遵守については、アメリカ、ロシア、中国などが批准しないことに対し、さまざまな場所で非難し、遵守を呼びかけてきた日本は、原発をゼロにすることで、手のひらを返したように京都議定書を守らないことになる。私たちは、「背に腹は代えられない」として国際的な背信行為を選択しようとしている。
日本は化石燃料のほとんどを中東から輸入しているから、中東の政情によって国内経済が大打撃を受け、国民生活が不安定になるのは、すでにオイルショックなどで幾度となく経験している。現に、火力発電に使う石油、天然ガスの値段は高騰を続け、加えて輸入量が拡大する二重の負担増によって、電力会社の採算が悪化するだけでなく、長らく黒字を続けてきた日本の貿易収支も、二年続けて赤字に転落してしまった。現に2012年の電力料金値上げの大きな理由になっているのである。貿易の赤字が続いた後の日本経済はどうなってしまうのだろか。それも「将来のことは知ったことではない」と言い続ければいいのだろうか。貿易の赤字対策だけならば、日本近海に埋蔵されているかもしれない各種天然資源(シェールオイルなど。ただしシェールガスは同じ熱量の石炭に比し天然ガスのCO²排出量は6割ほどだが、天然ガスの主成分であるメタンは、それ自体に地球温暖化効果がCO²の21倍もあるので温暖化問題への効果はないという研究結果が出ている)の開発を待てばいいが、地球温暖化という将来のリスクに責任を負うことを放棄していいのか、今まで培い国際的にも評価されている日本人の誠実な姿勢さえも放棄してしまう危険を内在させているのである。



